裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

菖蒲園での小便

 いいんだよ、肥料になるから。昨日寝たのが早かったので夜中の3時ころ目を覚ましてしまい、本を読んでいたら地震。かなり大きく、また揺れが強く、隣の書斎で本棚に積んであった本のひと山が落っこちた。7時、起床。朝食は蒸かし芋とスープ。 オレンジ半分。

 本日持っていくビデオの選定。メインは台湾版の『北斗の拳』なので、ダビング。余裕で完成、の筈だったがなんと、ダビングが出来ていない。DVDをつないだときに、配線を変えてしまったのが原因らしい。あわてて今日持っていくポータブルデッキにつなぎ変えてやりなおすが、おかげで風呂にも入れなくなった。まあ、髭も脂も あまり濃い方ではないのでいいのだが。

 デッキとビデオを入れたカバンかついで、銀座線で浅草まで。私は車中読書というやつをほとんど(何か必要があって資料や台本などを読むとき以外は)しない。電車などでは乗り込んでくる人の顔や服装から、その人がいったいどういう人なのか、を想像したり、もっと話をふくらませていろいろ空想、妄想の類を頭の中でもてあそんでいる間に、すぐ到着駅になってしまう。とはいえ、さすがに渋谷〜浅草間(始発か ら終点まで)は何か読むものが欲しくなる。

 浅草はいろいろ出店などが出、小屋掛けで芸人たちが奇術などをやっていて、大変なにぎわい。11時45分に木馬館着。プロジェクタを頼んだと学会のTさんが、すでに到着して配線をしてくれていた。今日は快楽亭も話を録音するとかで、音響さんが入っているので、いろいろと前座さんだけだと手が回りかねるような機材関係のと ころでてきぱき案配してくれるんで助かる。

 腹は空いたが、あまりモノを入れたくないので、劇場の前の韓国居酒屋の店頭でおばちゃんが売っていたチジミを買って、数片口に入れただけ。快楽亭がやってきて、開口一番“福田和也の、読みました? 馬鹿だねえ!”と。“あ、週刊新潮のあれでしょ? そうそう、わかってないねえ”“映画を途中でブツ切れにするのはけしからんって、『笛吹童子』とか観てないのかね”“評論家ってブツ切れだと評論しにくいから、怒るんだよね。映画は楽しむためにあるんで、評論するためじゃない”などとしばしコキおろし大会。大体、ブツ切れが娯楽としてケシカラナイものだというのなら、歌舞伎の見取り狂言だの、講談の抜き読みだのはどうする。落語だって、人情噺の長いのなどはまず大抵、聞き所だけをやって“お時間でございます”と下がる。通 しでやるなどということは滅多にしないんである。

 客は50人ほど。途中で入ってきた人もいて、60人くらいにはなった。開田あやさんが席の後ろで自分の同人誌を売っていた。QPハニー氏、S山さんなども来てくれる。今度と学会例会に参加する古書マニアのS氏も来て、挨拶。開口一番はブラッC。例によりヒニャヒニャした口調で、“ブラッCのCはアルファベットのCで、Cがつく言葉にはいいものがたくさんありまして、ビタミンCですとか、ウルトラC、IOC、ドビュッシー……”と始め、“昨日は中国で地震があったそうで、地割れがするくらい凄かったそうで、「ペキン」と割れてしまうという……”というあたりまではいつものブラッC調だったが、さてネタの『弥次郎』に入ると、ガラリと口調が古典に変わる。これには驚いた。『弥次郎』はこないだの談慶さんの会でも談一くんがやっていて、クスグリなどほぼ同じだが、さすが伊達に師匠を二人持ってないというか(いや、困ったことなのだが)、はるかにフラがあって面白い。途中でギャグを言いよどむところなどもこの人なりの味になっている。『トーントーン』ばかりで判 断しちゃいけないな。

 続いてブラック、冒頭で二つ目の頃、ドサ仕事で田舎に行き、そこの落語会主催者の失礼極まる言に完全にキレた話。若い頃のこの人をマジに怒らせたら、怖かったろうなあ。で、そこから旅の話になり、『萬金丹』に入っていく。“この「霊法」てのはなんだかね?”“わからねえな、レイホーと言やわかるだろう、声帯模写の白山雅一先生の十八番、灰田勝彦だ”などのクスグリもたっぷり。今日は独演会で三席だから、てっきり二席続けてかと思ったら、すぐ“ビデオ、ビデオ”というのでちとあせる。準備もしてない段階で舞台に出て、マイクを握ってしばらくしゃべる。その後、ビデオ上映。まずまず、笑いは取れていたが、もうひとつふたつ、爆発的な笑いが欲 しかったな。

 休憩をはさんで、対談。ちくまの本の話、危ないネタの話など15分ほど。それから再び快楽亭の高座、トリネタが“秀次郎のリクエストで”と『イメクラ五人回し』をやる。この中の“のび太と静ちゃんプレイを要求する客”というのは取材した女性に聞いたまんまの実話だとか。楽屋で快楽亭のおかみさんにギャラいただく。Tさんの交通費をこの中から出すつもりでいたところ、別途“これ、機材代で”といただい たので、Tさんに“快楽亭から出たので”と渡す。

 打ち上げは予定していたちゃんこ屋が休みだったとかで浅草のマニス。開田夫妻、S山さん、QPさん、Tさんそれから稲田商店の稲田和浩さん、など十人ほど。生ビールで乾杯、雑談多々。相撲人気がないという話で、曙をK−1にとられるようだからダメなんだ、ボブ・サップを相撲にトレードするくらいでないと、という話から、パクリ映画ばなしなどなど。快楽亭のおかみさんが“さんなみ行きたいですよぉ”と言うので、“あ、でもあそこ、小学生はダメなんですよ”と言うと“いえ、いくなら実家に預けていきますよ”と頼もしいお返事。開田さんたちとS山さんは、ここではあまり食べない、今夜は『おれんち』に行くんだというと、快楽亭が“エッ、『俺ん家』(以前中野の落語会の打ち上げでよく行った大衆居酒屋)?”と言う。あやさん があわてたように“イエ、違う店で、おいしい『おれんち』”と。

 私はとにかくマーボもんじゃをリクエスト。これが辛くてうまい、と評判がよかったので、快楽亭が次に激辛焼きそばをリクエスト。韓国系の唐辛子は辛味と一緒に甘味もあるので、かなりゴチャッと入れても食べられる。いろいろ食って話して、7時過ぎにお開き。次は12月の『忠臣蔵トレビア』(トリビアを快楽亭が間違えてつけ てしまった会のタイトル)。

 タクシーで入谷へ。そこからK子に連絡、日比谷線一本で(とはいえこれも始発・終点なみ距離)中目黒。8時45分にすし好でK子と待ち合わせ。すでにもんじゃを食べては来たが、すしは別腹、と甘エビ、ウニ、トロ鉄火など。さすがに酒はそんなにいかず、最後はお茶にした。凄まじい客で、表に何組かが坐って待っている。幸永みたい、とK子が言った。

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