裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

月曜日

拝むはずみの可燃物

 はっと気づいてうろたえました、せがれ許せよアナキスト。朝7時半起床。よく寝られることこの上なし。新聞を見るに民主党がんばったが結局政権奪取ならず177議席止まり。とはいえ小泉・安倍ラインによくここまで善戦した。私は政治的には自民党びいきなのだが、独裁もまた困ったものである。ポリティカル・バランスとしてはここらあたりに落ち着くのが一番いい、と、意志なき意志が働いたような結果で、 ちと不思議な感覚にすら陥る。あまりに微妙すぎるような。

 朝食、貝柱入り粥にカブの葉っぱ炒め。ミルクコーヒー(いつもミルクのみで砂糖ヌキ)。母から電話。やはりゆうべはホテルでずっと開票速報を見ていたそうで、面白いわねえ、と言う。電話の後、改めて新聞をじっくり読むが、今回は当選した人よりも落選した面々の方が興味深い。山拓落選はまさに庶民の道徳感覚の発露。これほど落選して同情されない人も珍しかろう。それでいて、政界失楽園の船田元は返り咲いている。ここらへんが忘れっぽい日本の庶民の限界か。何やっても返り咲けるから 政治家が国民をナメるわけで。

 朝から原稿、ミリオン出版『別冊GON』。本文記事で20枚一本、コラム記事で3枚が二本、2枚弱一本、あと一枚の小コラム四つ。本文記事は以前同テーマで別誌に書いたものを下敷きにして、倍程度に膨らます。途中で昼食、卵かけ飯と豆腐汁でざっと流し込み、ただ執筆。外は雨。寒くてエアコンを暖房で入れる。

 2時に時間割で『通販生活』S氏、打ち合わせ。直前に電話あって少し遅れる。新年号のグラビアページに取材と原稿執筆のお願い。3年ぶりの仕事だが、あのとき取材でSさんと網走へ出かけたのが、ちょうど3年前の今日だった、と手にした5年手帳を見て言われ、思わず“へぇ”。取材は二日がかりになりそうだが、何とか繰り合わせることに。高山善廣と会えるらしいので嬉しい。私はこの3年、大して状況も変わっていないが、Sさんはこの3年の間に結婚して、奥さんにこの日記のレシピを読 んでメシを作るようにと命じているとか。

 帰宅、執筆継続。3時15分、本文原稿入れる。そのあとのコラムも5時15分、5時35分、6時20分、7時15分と順調に入れていってオーラス。総原稿枚数、32枚。一日遅れなのでいばれはしないが、このテのものの執筆ならばこの程度の量は苦にならず。どころか、書いているうちに新事実を発見したり、思わず資料読んで 笑ってしまったりして、非常に面白い。

 気圧のせいか、ちょっと鬱加減。横になって『珍説愚説辞典』(青土社)を読む。実に分厚い本で、しかも重く、寝床で読むにはちと不便である。しかし、(フランスのエスプリ系の本によくありがちなのだが)いったいどこがどう愚説なのやら、よくわからん項目も多く、いまいちピンとこない。そのこないところが快くもある。トリビアの泉でやった、毛虫への破門状も挙げられているし、『VOW!』風な誤植の指 摘もある。こないだ神保町で買った『土曜漫画』の中の漫画コラムに、
「生きとし生けるもの性交後に悲し」
 というラテン語の命題が出てきて、本当にそんな言葉があるのかな、と思っていたら、ちゃんとそれが記載されていた。
「交接ノ後、動物ハ皆悲シクナルモノナリ(オムネ・アニマル・ポスト・コイトゥム・トリスタトール)」
『土曜漫画』も馬鹿に出来ぬ。しかも訳はそっちの方がいいような。

 岐阜薬学会のK氏から見事な富有柿をいただく。それから、打ち合わせのときSさんにも岩海苔(?)をいただいた。いずれも大量でこれ持って、下北沢『虎の子』に向かう。恒例の仙台野菜の会。集ったのはわれわれ夫婦の他、いつもの開田夫妻、それからパイデザ夫妻、と学会のI矢くん、S井さん、S山さん、それにおひさしぶりでナンビョーさんサイトの生き残り(というとサイトがサイトだけにシャレにならないが)鈴木くん、それと初参加、世界文化社D編集長女史。まず生ビールで野菜の送り主あのつくんに乾杯。と、いっても別に挨拶とかあるわけではなく、“やややや” という自堕落なかけ声で。

 この会への参加条件のひとつが回り持ちでレポートを書くことで、今回はS井さんにK子の白羽の矢が立った。詳しくはK子の掲示板に近くS井さんのレポートが載ると思うので、そちらを読んでいただくことにして、気楽に当夜の状況を描写すると、店の手前のテーブルには私、S井、I矢、S山、D、鈴木の6人が坐り、奥のカウンターにK子、開田夫妻、パイデザ夫妻が座った。こっちのテーブルではI矢くんとS井さんのテンションがやたら高くて、キル・ビルばなしなどで盛り上がった。S井さんはレポート役なので一々出た料理をメモっていたが、メモをとっていると箸がおろそかになりがち。改めて“植木不等式さんは人の倍くらい食べながら同時に食譜をつけて駄洒落を記録して、凄いなあ”と感心していた。聖護院大根の塩もみにはじまり大根と牡蠣の味噌煮込み、ブロッコリとカリフラワの帆立ほぐし身和え、白菜とジャガイモ(これは開田家からのもの)のスープ煮、おなじく白菜と鶏つくねの煮物、揚げ出し豆腐のコマツナあんかけなどなど。全員食魔と化し、それだけでは足りない、とこの店のメニューから常夜鍋とうどんを追加。酒はS井さん持参の日本酒に焼酎、さらに名古屋の自衛官で私のファンでもあるYさんから送られた日本酒で『大和駐屯地』というふるった名前の酒。宮城の酒らしく、これがまた飲みやすい。それに加え店からピノ・ノワールを。このときのつまみはDさんがオランダから持ち込んだ、御禁制品のドイツサラミ。まあ禁制品と聞いただけでその罪悪感からうまく感じてしまうのかもしれないが、が実にねっとりとした舌触りで美味。日本の乾きモノのサラミ とは同日の談に非ず。

 鬱々した精神状態ではあったが、美味い料理と美味い酒と、友人たちとの馬鹿話があって、これ以上何を望もうという感じになり、いい時間を過ごす。最後に岐阜から貰ったKさんの富有柿をむいて食う。まだ固く、シャキシャキした感じの食感だったが、かえってさわやかでいい。残りを何個か持って帰り、冷蔵庫に寝かせて、柔らかくなったたりでまた味わおう。雨中をタクシーで帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa