裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

金曜日

愛情はフルハシの如く

 僕は君を毒蝮三太夫のように愛しているよ(フルハシのサブリナ、というのも考えました)。朝、8時起床。朝食、キャベツと紅玉のサラダ。今朝も好天。カルビーの創業者、松尾孝氏死去の報が新聞に。91歳。イタロ・カルヴィーノという作家の名前を衝動的に思い出したが何の関係もない。かっぱえびせんで一世を風靡しただけでなく、仮面ライダースナックで、現在の食玩ブームの元祖みたいなパターンを作った人であった。食品のおまけ自体はグリコや丸美屋など、もっと以前からあるが、ついているおまけの方が主体で、食品自体を目的に買わない、という買い方を子供たちにさせた最初の商品なのである。スナック(間食)菓子という言葉も当時は新鮮だったなあ。ちなみに、衝動食いのことを英語で“スナック・アタック”というらしい。な んかカッコいい。

 メール類をチェックする。各ML、こないだの『トリビアの泉』のウンポーコのネタはあれはひどい、と言う話題で持ちきり。確かに、トリビアでもなければヒネリもない。このあいだ聞いた話では、あの番組、有名になりすぎて年少の視聴者が増えているので、それに合わせろという上からの指示が出ているとのことだが、それにしても。……とはいえ、ちょっと本でも読んでいる人には逆に“へぇ”だろうが、今の若い女の子たちには、埴輪を知らない子もいれば、ゼロ戦を知らない子もいる(男の子ももの知らずなのだろうが、見栄を張るのであまり人前で“知らない”とは言わないのだと思われる)。事前リサーチで“○○は……××である”の、○○を知らない、という答が多いと、いくら面白いネタでも没になる。バイザーとしてどんなにアイデアを出しても、スタッフにも出演者にもそういうのがいて、そういうのを集めてそういう視聴者向けに番組が作られている以上、いかんともしがたいのである。

 日記つけ、『トンデモ一行知識の逆襲』の赤チェックをもう一度確認し、それから文庫版あとがきを書き出す。今日は昨日とは変わり、寒々しくどんよりとした空模様である。仕事していたら心臓がバクバクして、急に息苦しくなったが、これは気圧のせいだろう。おさまったあと、苦痛軽減で分泌された脳内麻薬の快感がしばし残り、 フワーンとした気持ちになるのがおかしい。

 中野貴雄の日記を読んで愕然となる。大丈夫か。キャットファイトに命かけても、あまりシャレにならないぞ、と思うが、いや、それも中野貴雄らしいか、と思えてくるキャラクターなのがまた困る。せめて誰かが脇にいて食事とかの世話をしてやればとか思うが、彼の周囲にいるキャットファイターたちも、可愛くていい子ばかりとはいえ、自分自身いろんなもの背負っている子ばかりで、そういう部分で人にはつくせないだろうしなあ。窮迫困乏の限りの生活状態だった稲垣足穂に、出版社が少女保護係官だった女性を“少女五十人を救うより稲垣足穂一人を救った方が日本のためになる”と説得して結婚させたことがあったが、中野貴雄にも、そう思って一緒になってくれる女性が誰かいないだろうか。彼がいなくなったら、当分日本で『キル・ビル』 のような映画を作れる映画人は出てこないと思うのだが。

 1時、どどいつ文庫伊藤氏来宅。これまでは“千葉のどどいつ文庫”と表記していたが、このたび家庭を築き下落合に新居をかまえたので、リンク先の紹介文などを変更しないといけない。少し遅れてちんちん先生こと菊地祐司氏も来る。伊藤さんの洋書、例によって例によってのもの。今度書く原稿のダイレクトなネタ本になるものもあり、有り難し。彼との共著の企画についても少し話す。ちんちん先生は某所で手に入れたという、紙製の細工物のエロ玩具を見せてくれる。深い世界だ。このあいだの実相寺監督との飲み会で、監督と話があい、その後で丁重な葉書をいただいて感激し た、とのこと。

 二人が帰ったあと、昼食。外に出るのがめんどくさかったので、台所にあった素材で適当にお好み焼きを作る。小麦粉にネギをみじんに切ったものと、いつぞや畸人研究の今さんにいただいたエビチリメンを混ぜ、卵を割り入れてかき混ぜ、冷凍庫の中の豚薄切りと一緒にフライパンで焼く。これに、オタフクソースと、ソラチのギョウジャニンニクのたれを交互につけて食べてみる。ソラチのたれ、甘くないので酒のつまみにするにはこっちの方がいいかも。とはいえ、お好み焼きとオタフクソースの、 これは年期の入った相性に、やはり軍配は上がるか。

 エビチリメンはジャコと小エビの干物のふりかけだが、袋から容器にあけると、黒い微小な粒々がたくさんこぼれる。これはゴミか、と思ったらそうではなく、小エビの目玉なのであった。目玉だけでこんなにあるのか、とちょっと驚く。蚊の目玉を集めた夜明砂という薬(?)をチャイナハウスで見たことがあるが、エビの目玉だけ集 めて何か漢方薬でも出来ないか、とか考える。

 3時、家を出て時間割。筑摩書房Mさんに赤入れゲラとあとがき原稿手渡す。この本が一月刊行。火曜には『トンデモ落語の世界』の原稿を渡さねばならぬ。講談社の『近くへ行きたい』のゲラチェックもあるだろうし、11月中旬までが忙しさのピー クになるかというところ。

 5時半、家を出て、神山町の酒屋で差し入れのワイン二本、買って新宿歌舞伎町へ出る。ロフトプラスワン『くすぐリングス』興業。6時過ぎに到着して楽屋に入ったら、ちょうど春咲小紅とマッドブラバスターLeeが乳首隠しのシールを貼っているところだった。目玉模様のネクタイをしていったら、宇多まろんなどにちょっとウケる。その彼女は今日は皮のコルセットにロングスカート。某製薬会社のテレビCMのオーディション受けたら合格して、栄養ドリンクのCMの後ろで踊っている女の子の一人で登場しているとのことで、脱ぎNGになってしまったそうだ。その製薬会社というのが、親父の代にウチの実家でかなり取引のあったところなので吹き出した。思いもよらぬところで社名を久しぶりに聞いた。彼女、少し痩せたみたいだったがその分エキゾチックな目鼻立ちがはっきりして、遠目でみると西洋人形みたい。

 客席は開演30分前にほぼ満席、桟敷席にはリングアナの児玉さんと解説の私、それに自分たちの同人誌を売るのと引き替えで物販を引き受けた開田夫妻が陣取る。ふと見たら、うわの空一座の村木座長と島優子さん、それに演出助手の土田真巳さんが来て、席がなくてキョロキョロしていた。どうぞどうぞ、こっちおあがんなさいと勝手に主催者の如く桟敷に上げる。まあ、本日仕切っているベギラマことプリンセスみゆきの師匠だ、特別扱いしてかまわんだろう。桟敷の後ろの壁には神田森莉さんとぐれいすさんの絵が貼られて、特殊に豪華。他の知り合い客は角川S山さん、下関マグ ロさん。

 試合開始。アイラインを濃く引いてプリンセス・テンコーのコスプレをしたプリンセスみゆきと、くすぐり男爵の司会で、宇多まろん、キティ・はるか、マッドブラバスター・Lee、バッファロー・みう、クインシーサー小紅、ジェーン・マヤ、秘書の小沢くんの8名のファイターたちが互いに勝ち抜きトーナメントでくすぐりあう。一々の試合は大儀なので記さないが、今日はみんななぜか露出が多い衣装で(いつもは萌え系のはるか選手も“母が再婚すると言い出しました”とかでテンション上がったと、光り物をじゃらじゃらつけたサンバガールみたいなビキニの衣装。プリンセスみゆきとの戦いではお互いちゃんとポロリチラリも披露。プリンセスなど、所属のまともな劇団の座長が来ているというのに躊躇もせず、テンション高く脱ぎサービスを 披露。さすが根性が座っている。

 あと、今回個性が突出していたのはバッファロー・みうとマッドブラバスター。他の選手がとにかくトークで笑いをとっているのに引き替えて、“うあー”としかしゃべらず(それもマイクでほとんど拾えないくらい低く)、意志の疎通がほとんど出来ないというみうのキャラが大ウケ。それになんとか試合のルールを説明してわからせようと奮闘するプリンセスとのやりとりはそのまんまコントになっていた。また、ブラバスターは例によって飲んだくれキャラで出てきたが、神田森莉作曲のテーマソング(一枚いただいたがこれがなかなか結構な出来。作詞は中野貴雄と、これまた特殊な豪華さ)が出来たということでそれが会場に流れ、中の彼女のセリフ、“発泡酒は だめヨ〜”というへべれけなセリフが会場に響くと、
「やだあ、恥ずかしい〜ッ!」
 と、そこにへたれこんでじたばたする。恥ずかしいと言ったって、さっきまで壇上でニップルシール貼ったおっぱい放り出して、しかもおしめ履いてくすぐりっこをして、脱いだそれがどれだけ湿っているか勝負、なんてのを嬉々としてやっていたオンナが、こんな歌が流れただけで恥ずかしがるのが不思議なのだが、人間の恥ずかしさのツボというのはそれぞれ異なるのだろう。満場のお客さん大笑いで、“発泡酒はだめヨ〜”の大合唱。そう言えば、今回はファイターたちも客もみんな『キル・ビル』見ているらしく、何かというと
「ヤッチマイナ!」
「イノヂハモッテカヘンナ!」
 などの声がかかっていた。

 今日はサクサク進んでいく割には、かなりカルトっぽい試合が多く、テンポと質の高さがバランスとれていく感じ。私もどんどん試合の流れ無視してコメントを入れていく。宇多まろんのトークもほにゃららさに拍車がかかっていて結構。プリンセスみゆきのテンションとサービスには、座長の村木藤志郎さん、感服の様子。演劇人であれば、場を包むここまでの熱気と、ここまでいい加減やりながらとにもかくにも客を盛り上げるだけ盛り上げてしまうパワーには、ある種の驚きを抱くはず、と思う。しかしまあ、演劇人にはえてして“こんな下品な舞台に俺の団員が立つのは許さん!”と怒る人もいたりする。村木さんはそんなシャレのわからん人ではないと思っていたが、怒るどころか面白がって打ち上げにも団員引き連れて参加してくれたのには、や はりな、と嬉しく思うのである。

 子宮癌になって手術するクインシーサー小紅に一同からプリンセスがこっそり集めていたカンパ金手渡す一幕あって、打ち上げ。同じビルの5階というチカマで。ぐれいす、神田森莉の漫画家ご両人といろいろ話せた。グレイブ・グラインダーは凄い、というような話。私は実物は見たことなくて、キャットファイト系のサイトで噂されているのをチェックしているだけなんだが、噂はいろいろ聞いている。一度中野貴雄さんに頼んで見せてもらわないといかんな。ミルサチカに、中野監督の様子などを聞く。彼らしくジョークで回りを笑わせているそうだが、やはり彼女も心配のようす。それはそうと今度オシッコ飲ませてくださいと頼まれた。彼女のやっているSM雑誌の対談仕事で、いろんな人と対談して、最後にその人のオシッコをのんで彼女が講評する、というのがあるそうだ。“中野さんのは甘そうだねえ”“オシルコドリンクなみでしょうね”と、さっきまで心配していた人物をネタにウヒャヒャと笑う二人もなんだか。対談の方は“ああ、飲むのは抵抗あるけど飲ませる方だったらいいですよ”と軽く請け合う。私もものおどろきしないタチであることよと自分でも思うが、ミルサチカは癒し系のとてもいい子なので、頼まれると断れないのである。開田さんがみんなに配ったさんなみの同人誌、バッファローみうがサインをしてくださいと持ってくる(正確にはジェーン・マヤが“コイツ、サインして欲しいって言ってんでしてあげてやってください”と持ってくる後ろに恥ずかしげに隠れている)ので、サイン。

 島優子さんが私のトイメンに座ったので、いろいろ話せたのが楽しかった。“牧さん(プリンセス)がこんなに生き生きしているのを初めてみました!”とのこと。いや、普段のテンションがあの子はこれで、うわの空の芝居はあれ、すさまじく緊張して固くなってるんですよ、というと、やっぱりそうですよねえ、とうなづく。隣席の開田夫婦も加わってグルメばなしになる。島さんもおいしいものの食べ歩きが趣味なのである。……しかし、私らの食っているものというのが、どうも一般の人の“どこそこのラーメンがおいしい”“あそこのトンカツが……”というのとはいささかズレていて、聞いていてかなりとまどっていた。“韓国で食べた犬がおいしかった、チャイナハウスで食べた雉がおいしかった”という開田さんの話にえーっ、と驚いて眉間を寄せて、
「あの……これって、食べる話ですよね、犬とか雉とか、桃太郎の話じゃありませんよね?」
 とおそるおそる訊ねる島さんの様子が、『ラストシーン』や『中年ジャンプ』の島さんの演技にまるでそのままで、大笑い。その他、ブラバスターやクインシーサー、さらには大阪のSF大会で潮さんのショーに出演したというセロリアンさんなどともワイワイ話し、気がついたら12時半。宇多まろんは完全に横になって眠っていた。タクシーで帰宅、ふにゃふにゃと布団にもぐって就寝。家からこないだ届いた最強胃腸薬『ユチーフ』で、このところ遅くまで飲んでいても胃の調子は快適。この薬、そう言えばまろんがCMやっている製薬会社の製品ではないか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa