24日
金曜日
ユッケとその弟子
伝説の韓国料理人に弟子入りし、究極のユッケ作りを目指す主人公の物語。朝方、夢で大鍋で芋と肉を煮ていた。食い過ぎで腹もたれがするときに何も食い物の夢を見ないでも。朝飯は蒸かしサツマイモと黄ニラのスープ。塩辛いスープが何ともくたび れ気味の腹にやさしい。
昨日のスペイン料理では植木さんは日記用にいちいち克明にメモをとっていた。私もそれは心がけようとしているのだが、つい、めんどくさくて記憶に頼ってしまう。しかも、日記をつけるとき、そのメモがポシェットの中に入って上階の居間にあったりすると、行ってとってくるのが大儀で、見ないで書いてしまったりする(で、今日植木さんの日記を読んで気がついたが、やはりつけていないとダメで、シャコのアリオリのことを書き忘れていた。しかし、メモをとって書いた植木さんもとらないで書いた私も、共に最後のアサリのリゾットのことを書き忘れている。モルシージャの印 象があまりに強烈であったせいか?)。
ところで朝食時にそのメモ帳を見ていたら、最初にあの店に行ったときにメモをして、日記につけ忘れていた記述があった。店のことではなく、東北沢の駅の件。ここのホーム連絡通路の上には臨時改札口があるのだが、その表示に曰く“臨時改札口。開設時間・初電〜終電”。……なら臨時ではないのではないかと思うのだが。
午前中は荷物が届いたりなんだりでドタバタして、ロクに仕事できず。コアマガジン社から、芸能トリビアを集めた『トリビアの温泉』という本が届く。執筆者に金成さんなどを紹介した本で、私もその縁で後書きっぽいものを書いているが、これが凄くて、タイトルからして凄まじい便乗本であるが、本の形状といい表紙デザインといい、本家『トリビアの泉』本と瓜二つで、帯には堂々“便乗本です”と書いてある。パチモンもここまでやればあっぱれなり。しかし、エロビアもそうだが、一連の便乗本群をみるとたくましきことかな、と、呆れるより感心してしまう。私のサンマーク の本なんて、こういうのに比べれば、情けないほど地味である。
昼は青山に出て、かきあげ冷やしそば。今日はひさしぶりに(本当にひさしぶり)家で夕食なので、材料を買い込む。帰宅して、NHK新潟支局のYくんから送っていただいた新米を研いだり、サンマに塩をしたりしながら、志ん生の『はてなの茶碗』をひさしぶりに聞く。つくづく、よく出来た話だ。ひとつ五文の清水焼の欠け茶碗、それもどこからともなく水の漏る欠陥品の、その“水が漏る”というマイナスのポイントが逆に高位の人々に面白がられたことで、それがプラスの価値に逆転し、短冊・箱書という付加価値がどんどんついて言って、しまいには1000両という値にまでなってしまう。近代経済の急所をついたストーリィであり、痛快極まる価値の逆転劇である。岡田さんに以前(もう十年も前)、後に『オタク学入門』の中心テーマの骨子となる、“オタク的基礎教養をレベルアップすることによる価値観の逆転”論を聞かせてもらったときに(興奮したものである)、まっさきに思い出したのがこの噺で あった。
下準備すべて終わってから、原稿書き。まず、小学館のウルトラマン本の原稿、電話で枚数超過の余裕を担当さんから聞き、それから書き出す。1時間半ほどで4枚、書き上げてメール。超過上限ギリギリであった。すぐ編集部から受け取りメールが来たが、やはりどの執筆依頼者もこのテーマ(雑誌のあやしげなウルトラマン関係情報記事)では長くなるらしく、甚だしきに至っては限度の倍以上の三○○○文字で書い てきた人もいたらしい。みんなアツいな。
そのあとすぐ、『宣伝会議』のインタビュー原稿赤入れ。これが、私の話し方に慣れていない人のテープ起こしであったらしく、意味がブツ切れ、表現には差し障りがいっぱい、プライベートな雑談もあっちこっちにはさまりっぱなし、という、トテモこのままでは活字に出来ない代物。あっちを直しこっちを削りしているうちに、ゲラが真っ赤っかになってしまう。印刷所で待機している花田氏はじめ編集部員の人たちに6時、FAX。フジからおとついの放送分ビデオ届く。太田出版Hさんからは『トンデモの世界S』用の資料と、それから次回東京大会に関してのお願い事一件。すぐそっちの方は手配する。
そのあと日記少し書き、夕飯の支度。サンマは二尾パックだったので、一尾は塩焼きにし、もう一尾は筒切りにして、梅干とショウガと一緒に煮る。あと、冷蔵庫の残り野菜をぶちこんで作った簡便ポトフ。冷凍庫の中に残っていたシチュー用のラム肉を使う。クレソンは燻製貝柱のほぐしたのと一緒に炒めて。新米の柔らかさをしみじみ味わいながら堪能。ビデオで、台湾製の『北斗の拳』(実写版)を見る。北斗の拳の実写版はアメリカでも韓国でも作られているが、金のかかってなさに関してはこの台湾版が一番ではないか。街並みとか、とても戦争で荒廃した近未来とは思えぬ台湾の街並みそのままだし、敵がケンシロウになりすましてユリアをねらうのだが、そのなりすまし方というのが、ケンシロウと同じ服を着て、顔にすっぽりとニットのフェイスマスクをかぶっているだけ。それでユリアはまんまとだまされ、連れていかれそうになる。お定まりで本物のケンシロウが(もちろん素顔で)そこに現れ、“そいつはニセモノだ!”と叫ぶのだが、ユリアは素顔の本物と覆面のニセモノを見比べ、
「ケンシロウが二人も! 本物はどっちなの?」
と驚くのである。何故わからない?
他に、ハート様が身長数百メートルの巨人だったり、子供向けなのにケンシロウとユリアは裸でラブシーンを演ずるし、ユリアがシンになびく(フリであるが)をするとケンシロウは傷心のあまり滝に打たれながら“ユリア〜!”と叫ぶ情けなさだし、まことにもって素晴らしいB級。一番笑えたのは、シンの基地の中に置かれた、凄まじくマヌケな顔の、しかし凄まじく巨大なブルドッグの顔(?)の石膏像であった。見ながら、缶ビール小一カン、日本酒茶碗で一杯。体疲れていて、これだけの量ですぐ酔っぱらってしまい、寝る。