裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

火曜日

あなたがソドムなら私なにをされてもいいわ

 ホモ版青い果実。5時に目が覚め、日記などをちょこちょこ書いてまた寝る。改めて7時半起床、朝食は長野のひん曲がったアスパラガスと、仙台の枝豆。北海道新聞社からメールが来ていて、〆切が2日だったという。うっかりしてまるで頭から失念していたが、過ぎたらすぐ教えてくれよ、という気もする。取り上げる本の主なもの は買ってあるからいいが。

 ゆまに書房T内氏に、原稿受け渡し再度延引のお願い。印刷所がかなりパニックしているとのこと。昨日今日はしかし身動きがどうしてもとれない。いろいろと仕事に 手をちょいとつけてはやめて、また別なことをして、の繰り返し。

 昼は外出して、兆楽でギョーザ半チャー。ブックファーストにちょっと立ち寄り、新刊本数冊買う。雑誌売場でアッバースの最新号を買おうとした(もちろん『バジリスク』目当て)が、まだ前号が置いてあった。人気作品をあまり早く終わらせないよ うにという目論見か、蛍火の最期を引き延ばすこと。

 2時、家を出て蔵前筑摩書房まで。3時の座談会なので、時間はたっぷり余裕を見て出かけたはずが、ちょっと思い違いをして、銀座線に乗ってしまったので、これは遠回り(新橋で都営浅草線に乗り換えだと)と思い、赤坂見附で丸の内線に乗り換えて四谷まで戻り、そこから総武線に乗る。秋葉原駅からタクシー。なんとか10分遅れで筑摩書房へ到着。他のメンバーはすでに隅田川の方に、表紙用の写真撮影に行っているというので、Nさんと二人連れで、撮影場所に向かう。私の遅れ以上に、談笑が遅れている(いま、新宿だとか)ので、なんとか面目は保った。このあたりのオモ チャ問屋街、極めて面白し。

 隅田川川縁で、Mくんとブラック、談之助、白鳥の三人が写真を撮影。秀次郎もいた。私は単に撮影見学だと思っていたら、入ってくれとの出版社からの注文。風が強く、しかも川風で寒い。カメラマンさんが、ちょっと永瀬唯氏に似ている人で、かなり凝った図を撮ろうとしてくれている。階段のところ、川縁のところでいろいろポーズを取る。ホームレスの小屋の側でも撮った。学校帰りらしい女学生たちが、こちら を見て不思議そうな顔をしている。談之助さん、
「なんだと思ってるだろうな、カタギじゃ絶対ないし、アイドルグループにしちゃ、 トウが立ちすぎているし」

 秀次郎は川面を熱心に見つめて、ときおり魚がはねると言う。見ていると、確かにしょっちゅう、水面にバシャッと水しぶきがあがって、背鰭らしいものが見える。よく川の中を透かして見ていたら、すごい数の魚群が川を遡っているのであった。例の ボラか、とびっくりする。

 そこから筑摩書房の会議室に戻って、座談会。途中で談笑も駆け付ける。今日のこと、まったく伝わっておらず、さっき知ったとのこと。座談会は談論風発、逆に話題が出過ぎて、まとめるとちょっと趣旨が散乱してしまわないか、というくらい。新作落語というものの特殊性をいろいろ抽出していく作業が面白かった。新作落語は常に客の前でのぶっつけ本番の初演がアタリマエという世界で、もっと錬れば古典と拮抗するだけの芸として確立するんだが、
「しかし、初演の緊張感が何よりの快感だし、不思議なことに再演しても初演に比べどうしても出来が落ちる」(快楽亭)
 とのこと。つまりは、アドリブ系のパフォーマンスなのだ。
「古典は演ってウケても、そのウケは古典落語という伝統に寄りかかったウケですからね。新作は要するに、自分だけがそのウケを享受できる。ざまあみろ、って気分になるんですね、ウケると」(談之助)

 後半は快楽亭の発案で、浅草のお好み焼き屋マニスに場を移して。移動のタクシーの中で談笑さんとフジテレビばなし、『トリビアばなし』。ちょっとこちらの裏を話したら、大笑いしていた。マニスでは例の角煮チャーシューや麻婆もんじゃを食いつつ、酒飲みつつの座談で、えらく楽しく盛り上がりはしたが、うまくテープで取れたかどうか。8時ころお開きになったが、快楽亭と談笑は、“これから吉原で飲み直そう!”と、Mくんを無理矢理引っ張っていった。私と談之助は地下鉄で帰ったが、二人ともスイッチが入ってしまって、落語論とまらず。戦後最高の名人というのは、文楽でも志ん生でもなく、先代の三遊亭金馬ではないか、というようなことを車中ずっ と話しっぱなし。

 帰宅8時45分、まだフィン語講座から帰らぬK子と電話で連絡をとる。下北沢で待ち合わせることにして、再度タクシーですし好。白身、コハダ、いわし叩きなど、もんじゃでふくれた腹にも寿司はスイスイ入る。もっとも、さすがにあまり食べず、 値段はいつもの半額だった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa