裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

水曜日

お代官さま、どうか検便してくだせえ

 サナダムシがおりますだよ。朝、7時半起床。朝食はサツマイモと黄ニラ、セロリのスープ。考えてみれば臭いガスの出そうな朝食だが、よく蒸かした五郎金特は抜群に甘く、ロイヤルスープストックで作った塩辛いスープに大変合う。パンを切らした ので、K子にはスパゲッティを茹でてやる。

 昨日までモザイクがかかっていた自称有栖川宮とその妻、今日は素顔で。しかし、どうもまだこの二人、憎めない。逮捕のきっかけとなった結婚式も費用がかかりすぎて結局赤字だった、とかいうマヌケさがまたいいし、騙されたという方も輪をかけてマヌケなのだから、そう悪いことをしているようには見えないのである。エスパー伊東など、本来ならもう消えかけていたタレントが、このおかげで新聞には載るわテレビには顔を出せるわで、知名度は極端にアップしたはず。ご祝儀三万円分の元手で、宣伝効果は十数倍ではきかないはずだ。一番の被害者はこの一件以来、名前を世間に 出しにくくなったであろう有栖川有栖ではないか?

 ミリオン出版Nくんからメール。『GON!』で急場に原稿がいることになったので、執筆お願いできないかとの件。分量に比して〆切もかなりタイトだが、テーマは手の内に入ったものなので、応諾。明日打ち合わせということに。あと、同じミリオンのY氏からは電話で、以前からの懸案だった書き下ろしエッセイマンガの単行本の企画が通った(編集部レベルでは問題ナシだったのだが、社長印を貰うのに手間がかかった)とのこと。これも来週、打ち合わせ。仕事が入るのは結構だが、この調子だと年末は火を吹きかねない。『トンデモ本の世界』シリーズ新刊も、来春の新刊はネ タがたまりすぎて二冊同時(または連続)刊行だし。

 Web現代原稿、かなりの後れが出ていたものをせっせと書く。1時半脱稿、早速メール。昼はパックご飯を温め、サバの水煮缶を開けて上にドシャッとあけ、大根おろしとポン酢をチャッとかけて、わふわふと。ジャガイモとワカメの味噌汁添えて。2時、共同通信から電話、選挙についてのことを前後二回(一回終わって、また付け加えのポイントについて電話してきた)に分けて1時間ほど話す。二大政党制というのは日本の政治風土にあわないこと、逆に日本人の好きなマイノリティ型政党をつぶしてしまいかねないこと、ネット選挙時代の政治は二大政党制よりマイナー政党の乱立が普通の形になるであろうということ、すでに若い国民の大半は政策論争とかよりも政治家のキャラクターで判断するという思考形態になっていること、などなどをとりとめもなく話す。今の政界をどう表現しますか、と言うので、本質は変わらないのにメンバーだけがころころと変わっていく、“『モーニング娘。』型政治”、と言っ たら使える表現だ、と喜んでいた。

 気楽院さんから恵贈を受けた『クリスマスおもしろ事典』(日本キリスト教団体出版局)、いかにもなヌルい書名だが、だまされてはいけない。前書きに堂々と
「本書の読者はどの雑学本にも書いてあるような一般知識はすでにお持ちであるものと前提しています」
 と、“これは濃い本だよ、ウスい読者は置いてくよ”と明言しているんである。本に添えられていた印刷の挨拶文にも“必ずしも子供に読ませたくなる内容ではありませんが……”と書いてある。文章もシニカルな“と学会”調で、まず、この類の本の中では数年後に好事家たちから“奇書”として珍重されるに違いない一本。ざっと読 ん中で最も気にいったトリビア(大意をかいつまんで紹介)。
「抗生物質ルドルフォマイシンの分子の尖端には新種の糖がついているが、これを発見したスタッフは、この糖に“レドノース”と命名した。綴りは“Rednose”で、糖の名前はガラクトース、などのように末尾を“ose”で終わらせる、という有機化学の規則に従っているが、実はこれは“ルドルフ(赤鼻のトナカイの名前)の先っちょにくっついているモノだから赤鼻(レッドノーズ)”というシャレである」

 7時半、井の頭線で下北沢へ。今日は虎の子で恒例の、仙台あのつくんから到来の野菜の会であるが、ちょうどいいタイミングで沖縄から中笈木六さんが上京してくるので、彼にも何か野菜を持ってきなさい、と命じ、ここの改札で待ち合わせていたのであった。……ところが、待てども待てども中笈さん来ない。K子に電話して、携帯で確認してもらったら、北口で待ち合わせ、と言ったのを西口と間違えていたようで あった。ともかくも、会えて重畳。今回は親戚の家などを回って数日、滞在するとのことである。

 今日のメンバーは平塚夫妻、開田あやさん、K書店のSさん、と学会のI矢氏、T氏、とみさわ昭仁さん、それにわれわれ。中笈さんのニガウリ、島豆腐などと共に、I矢さんが自分のコレクションのワイン二本と、いきつけのソーセージ店のソーセージ類、Sさんからは“黒天狗”という鹿児島の焼酎を持ち寄る。われわれは札幌の家になっていたクルミと、そのクルミの飴炊きを持参する。まずはビールで水菜(これは店のもの)とモロッコいんげん、アブラゲのサラダからはじまり、今日もまあ、すさまじいメニューの大行進。白菜と牡蠣のクリームグラタン、キャベツと豚肉の重ね煮、大根とブルーチーズのスープ煮など、豪華絢爛。中でも気に入った一品は、聖護院大根の揚げ物であった。大根を揚げるなどというのは奇想天外に属する料理法で、考えも及ばなかったが、この味わいと食感は、いままで経験したことのないもの。中笈さん持参のゴーヤは島豆腐と共に炒め物となり、さすがこっちのものとは格が違うと評判。クルミも、あっさりしていていくらでも食べられる、と喜ばれる。ソーセージ類では牛タンのアスピック寄席が風味抜群。そして、虎の子からは厚切りの豚肉の とろけるようなローストが。

 私は、Sさんの持ってきてくれた黒天狗(なにやらオトナのオモチャっぽい名前であるが)を飲みはじめたが、これが口あたりがよく、香りも芳醇、きわめて美味。いい酒を飲んでいると心楽しくなり、人数が多いので二手に別れたテーブル(中笈、あや、S、T、I矢組と虎の子夫妻、K子、とみさわ、平塚夫妻組)の両方をあっちに行ったりこっちに来たりと渡ってありとあらゆる話題でダベりながら、クイクイと飲む。中笈さんには例の沖縄での軍事マニア自衛官の話を。あの自衛官の名前も顔写真も一切出ないのは、何か裏にヤバい話があるのではないか、ということなどを聞く。会話は楽しい、料理はおいしい、で、この数週間の飲み会のうちでも、最も満足度の高い、いい気分になった会であった。逆にそれ故に飲み過ぎであり、12時近くに帰る頃には、足元も定まらぬほどのべろんべろん。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa