裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

日曜日

南無パチモン大菩薩

 われに便乗商法での大儲けを与えたまえ。朝、夢で寝床の下に、ワサビ(スーパーで刺身を買うとついてくる、あの花びら型というか花びら型に切ったニンジン型というかの、プラスチックの小皿の上に乗ったコナワサビ)がずらりと並んでいるという夢を見た。こういうわけのわからん夢を見るときというのは二日酔いである。胃や胸のむかつき、頭痛はないが、関節がゴリゴリに凝っている感じ。7時半起床、朝食作りながらアバレンジャー。いろいろ新しいことをやりながら、ヒロインにシリーズ中かならず七変化させる回をやる、とかいうおなじみのパターンを踏襲しているところ がいい。シリーズもののポイントを押さえている。

 朝食、蒸かしサツマイモと黄ニラスープ。読売新聞朝刊に、女性ものの靴の、それも左足ばかり440足も集めたという大分のフェチ男の記事。左足だけ、というこだわりにフェチの美学を感じて、結構な犯罪であった。同じく読売の日曜読書欄、ここに月イチで掲載されているエッセイが井上ひさしの『読書眼鏡』。文学や歴史の資料を徹底して読み込むこの人らしい好エッセイなのだが、最近どうも調子がおかしい。前回、やたら遠回しに反北朝鮮言論への批判を書いていたときにもこの日記で指摘しておいたが、今回はジョゼフ・パーシコの『ニュルンベルク軍事裁判』(原書房)を取り上げて、軍事裁判の価値を謳いあげ、中でも被告であるナチスドイツ国家元帥、ゲーリングの発言を“これを読んだだけでも四六○○円(この本の定価)払った価値があった”と絶賛している。

 その発言というのは
「もちろん、国民は戦争を望みませんよ。運がよくてもせいぜい無傷で帰ってくるぐらいしかない戦争に、貧しい農民が命を賭けようなんて思うはずがありません。一般国民は戦争を望みません。ソ連でも、イギリスでも、アメリカでも、そしてその点ではドイツも同じことです。政策を決めるのはその国の指導者です。……そして国民はつねに、その指導者のいいなりになるように仕向けられます。国民にむかって、われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよいのです。このやり方はどんな国でも有効ですよ」(井上氏引用)
 と、言うものである。井上氏が、これを北朝鮮に対する現在の日本の言論にひっかけて嫌味を言っているのであろうことはよくわかる。確かに、これは戦争と国民の関係を非常に端的に表した名言であろう。……だが、その“名言”をゲーリングの口から引っぱり出せたものは何なのか。同じく国民に向かって、われわれは攻撃されているのだ、愛国の心があるなら参戦せよと呼びかけた、アメリカはじめとする連合国側の軍事的勝利ではないか。井上氏が故意に無視しているのは、指導者が国民に発するこのような脅威論が、時に実体のない煽りではなく、本物である場合が現に存在する ということなのである。

 午前中はサンマーク出版のゲラ原稿に赤入れ。補足部分をかなり書き足す。前の原稿書き足しのときに、いくら検索をかけても見つからなかった情報が、もう一回やってみると簡単に見つかったりする。まさに、百姓と一行知識は絞れば絞るほど出る、というやつか。1時に書き上げて、入浴、昼食。昼食は炊いたご飯の残りをネギ、豚肉などと一緒に炒め、カレー粉を使ってドライカレー風にし、その上に生卵をかけた もの。自由軒風インディアン・カレー。

 2時、東武ホテルにてサンマークT氏に原稿手渡す。時間割でないのは、日曜であそこが休みだからである。T氏、日曜の渋谷を歩いたのはひさしぶりだが、聞きしにまさる馬鹿男女の群集ぶりだと驚いている。それは、日曜の渋谷センター街ともなれば、日本中からどうしようもない連中が集まってくるのだから仕方ない。立川談志はやはりセンター街を歩いて“テポドンが ここに落ちれば いいンです”と一句詠んだ(?)そうだが、麻原彰晃もここにサリンをまけばある程度の同情を得られたので はないか、とか笑いながら話す。

 帰宅、ネットで資料検索。昨日のSFマガジンで笹公人氏の名前を見たので、笹氏の名前で検索してみた。“はてなダイアリー”ではキーワード(その単語ではてなの日記内を検索できる)に笹公人の名が登録されているが、著作欄の『念力家族』の発行元が“珍宝”という、あってはならない(でもしょっちゅうあるであろう)ミスタ イプで表記されているのに笑った。
http://d.hatena.ne.jp/kosabe/keyword/%BA%FB%B8%F8%BF%CD

 5時半、家を出て新宿へ。サウナ&マッサージ。サウナで火照った体を、冷水の浴槽中にアルタード・ステーツのように浮かべて、無念無想。たっぷり揉んでもらった後はタクシーで参宮橋へ行き、『くりくり』でK子と夕食。店の入り口で大型の鉢植に咲いている花が綺麗。絵里さんに何の花? と訊いたら、野ぼたんとのこと。南アフリカ産のワインと蕪のサラダ、帆立のカルパッチョ、子羊のロースト、タルタルステーキ、それに自家製パスタ。蕪のサラダは白い蕪と、梅酢の色が染みた赤い酢漬け蕪との取り合わせであり、マスターのケンに言わせると、この酢漬け蕪はアラブやトルコなどでは冬の必需品だそうだが、これに“源平サラダ”というタイトルがついているところはあまりアラブやトルコっぽくない。ケンさんに“いまどきの客は源平が白と赤を意味するなんてわかんないよ”と言う。料理、いずれも美味なことは言うまでもないが、全部一人前を二人で分けて食べているので、量もお値段もそれほどではなし。先に出たカップルの代金がわれわれのちょうど倍であったが、あれは料理を一人一皿で頼んだのだろう。ところで『くりくり』、来月から定休日が変更となり、日曜を休みにするそうだ。日曜に入れるうまい店が一軒減るのは残念。

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