裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

日曜日

カウボーイも筆の誤り

 どうせおいらは無学な牛飼いよ。朝8時まで寝てる。手塚治虫初期の漫画を閲覧する夢を見る。杉浦茂が入っている絵で、その影響について論文が書けるぞ、と興奮していた。夢の中でもメシのタネを考えているところが情けない。朝食、いつものようにトウモロコシ、サツマイモ、クレソンを蒸かしたのとネギスープ。飽きないところを見るとまだ体が欲しているのだろう。

 朝の報道番組で今日のW杯決勝戦に触れ、コメンテーターが“もう終わりなの、という感じですね”と言っていた。アドレナリン出しすぎの後遺症、燃え尽き症候群がきて何も出来なくなる者が多いと思われる。また、その反動でこれからW杯の悪口が山のように噴出してくるだろう。日韓共催のお互いの国へのシコリや、北朝鮮の4強やっかみ領海侵犯のこともあり、裏モノとして面白いのはこれからである。

 母から電話。いろいろニュース。不愉快になりそうなこともあるが、カルシウムのんで落ち着こう。朝からずっと同人誌原稿やる。ネタ的に面白くて、しまったコレも入れたかったアレも入れたかったというもの多し。こぼれたネタをカバーする小冊子を付録につけることを昨日平塚くんと打ち合わせしたが、その選定にも苦労しそうである。楽しい苦労だが。

 昼はパックご飯温め、卵とカツブシ、ノリ、ネギを加え横綱丼。味噌汁はジャガイモとワカメ。新聞の集金、猫砂の配達と、日曜とはいえいろいろ訪れる者あり。環境がこれで整って執筆に専念、などということになったら一字も書けなくなるかもしれない。ぜいたくな環境でものを書くのに慣れていないのである。せどり屋のU氏から電話。埼玉の方のつぶれた書店を書庫代わりに使っていたらそこが知らぬ間に取り壊されて、大事なコレクションや商売ものも全部始末されてしまったと言って落ち込んでいる。その他携帯を落としたり、あまりいいことがないらしい。こないだどこかで(トンデモ落語会だったか?)彼はいい職業みつけて悠々自適とか聞いたばかりだったのだが、聞くとは大違いである。

 なんとか一番手間のかかる部分のみ、5時までかかって完成、送る。それから明日〆切の扶桑社の『トンデモ創世記2001』のゲラチェック、一時間ではそれほども進まないが、まあなんとか三分の一くらい。6時に家を出て、センター街を歩き、渋谷駅へ。まだ堂々とマジックマッシュルーム売っている奴を見つけた。恵比寿駅西口で待ち合わせ、なかなか人が来ないのでK子に電話したら東口だとのこと、そっちに向かったらやっぱり西口でよかったと。K子はまたYくんの家でプティちゃんを撮影していたのである。今日は『裏モノ見聞録』打ち上げ。初代担当Iくんと現担当Yくん、イラストのCGアニメ担当Nさん、単行本担当のHさんN木くん。こないだのゑびす秘宝館ツアーの折りに見つけたネパール料理店『クンビラ』にて(ここでやろうというのはK子の主張)。恵比寿らしくおしゃれな店内で、入ると全員現地人の店員さんがナマステ、と合掌して迎えてくれた。“ディペンドラ国王の写真とかないのかね”“マシンガンかまえたやつとか”など、ひどい会話を(もちろん小声で)しながら着席。

 5階の個室(?)にぐるぐると階段上がって入る。円形のテーブル席で天井はカラフルな布礼が下がり、脇には精細な彫刻をほどこされた木製の扉がある(そっと開けてみたらロッカーだったが)。聞いたらゴッド・ルームという特別室だとか。今日の客は私たちだけぽく、これもW杯のおかげと感謝する。マサラビールで乾杯。非常に面白い連載だった。次は儲かる連載をやって豪邸を建てよう、と主張。Iくんはフッサールダイエットで2キロ痩せたとかだが、一番食って飲んで、“この、せっかく痩せた分をチャラにする快感が”とか言っていた。破壊衝動である。Hさんとは合コン でいろいろ確執があるらしい。

 料理だが、インド風のものをややマイルドにした感じ。ピーナッツのサラダは少し辛かったが。豆のスープに始まり、ジャガイモ団子(ベジタリアン風だが肉団子の味がする)をヨーグルトソースで食べるもの、定番のネパール餃子モモ(この店ではモモコという)など、みな適度な辛さでおいしい。モモコは蒸したものと焼いたものの両方を出してくれた。

 ここまではまあ普通のおいしさだったが、ここからの品はみな特筆級になる。ラムの炒め物(これはちょっと辛い)は噛みしめると肉の風味が抜群だし、クルマエビのチリソース炒めも中華料理のアレなどバカらしくなる濃い味、豆腐をホウレンソウのペーストでくるんだパルンゴという料理は他では食ったことのない珍味で、頭(珍しさ)と舌(うまさ)の両方が満足。なかでも野菜団子を甘めのソースでからめた、アル・パルンゴ・ドロなる料理、団子が野菜というのも味わってみてもちょっと信じられなかったが、ソースをネパールパン(白とホウレンソウの緑の二色)にからめて食べるとこれは絶品で、パンをおかわりする。昔チベット旅行したときはその料理のまずさにヘキエキしたものだが、ここのは素晴らしい。ネパール回りにすべきだったかな、と思う(事故が多いのよ、とK子がわめいたが)。そして、メインが鶏の丸焼き(と、いうが焼いてはおるまい。煮たか蒸したか)にマイルドなスパイスソースをかけたもの。これは絶品! 鶏はとろけるように柔らかく、どろりとしたソースが肉にからまって、まさにゴッドルームで食べるにふさわしい味。ライスが添えてあるがそれも全部舐めとってしまいたいくらい。

 最後はカレーにサフランライスが山盛りで出てくるが、さすがにここまでくるともうキツくなる。Iくんだけがモリモリ食っていた。わけのわからぬジョーク飛ばしつつ、マサラビールとチャンなるライスワイン。みんな“マッコリだマッコリだ”と喜んでのんでいた(ひどいね)ら、店からデキャンタ一本、サービスがついた。それに赤ワインもがぶがぶ。10時までがやがやと騒ぐ。来店記念ノートに何か書けと言ってもってくる。Hさんはなんと前妻のくらたまの似顔絵を描いた。さすがにタッチがそっくり。K子が“ねこじるみたいに夫が描けばいいのに”と言う。支払いは講談社で持ってもらったが、何かかなり高額についたようで申し訳ない。しかしまあ、高くても仕方ない味と量であった。ああ食ったあ、と腹をなでながらタクシーで帰宅。ブラジルの優勝をラジオで知る。ネットで調べたらクンビラには長野店もあったらしいが、例の事件で新しいスタッフの入国や改装資材などの輸入がとどこおり、閉店して しまったそうな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa