12日
水曜日
エイズ菌ちゃん気をつけて
ぼくはやっぱり、シャブの回し打ちをしちゃったりなんかするのは危険だと思ってたんだ。朝7時半、起床。サツマイモもトウモロコシも切れているので仕方なくパスタを茹でて食べる。本格的な梅雨入りか、朝から凄まじい湿気、外は当然雨。しかし来るモノが来た、という感じで、体はむしろ開き直っている。昨日のホルモンの脂のせいか、朝ちとくだり気味。
朝。海拓舎コラム、ナオシでなく書き下ろしの方一本、それから間をおかずモノ・マガジン原稿一本。一休みしてニュースサイトを見ていたら、ナンシー関死亡の速報あり。享年39歳。急死ということで、まだ死因は発表されていないけれど、言うのも何だがこれくらい原因がはっきりしている人もいないのではないかと思う。仕事机の正面を半円形にくりぬいていたという人だ。私もあそこまでではないと言え、体重は右肩上がり一方。本格的にダイエットしようと思う。
とはいえ、彼女があれだけ憎まれ口を天下の人気者たちにかまし続けながら、さほどうらまれることがなかったのは、ひとえにあの肉体のたまものであると思う。おすぎとピーコがオカマという特性を打ち出したことで異界の住人と自分達を位地づけ、悪口批評の免罪符を手にしたことでもわかるが、世間は自分たちと同じ地平の者が悪口を言うのには腹を立てても、異界の“化物”のやることには寛容なのである。化物はひどい言いようかも知れないが、ナンシー関は、自らの魁偉さを武器に転化させるすべを見事に心得た、知性の人だった。それが自分の命を縮める遠因になったのが、悲しい。K子が担当だった編集者から貰ったという本人作の消しゴムが一個、家にある。確か文句が
「いつか白馬に乗った坊屋三郎が……」
だった。坊屋三郎に半月遅れで逝ったのか、と思うとちょっと不思議である。
OTCのNくんから電話数回。『平成オタク談義』、最初に決定したテーマとゲストに不具合があり、何度もダメが出る。最初は『パソコン通信』でゲストが哭きの竜さん、それと『SFファンダム』で山形浩生さんだったのだが哭きの竜さんが顔出しNGで、山形さんは出たいのだが現在海外にいるので都合つかずとのこと。で、仕方なく岡田さんが『アポロ計画』、私が『ビデオデッキ』というお題を出したのだが、これもゲストでいろいろ難航。
映画配給会社から電話がまとめて数件入る。試写の案内、いずれも『週刊ポスト』からみなので、観て評を描けばそれが掲載されるのが前提で、気が楽である。お願いしますしますと言われて、しかも本当に面白くて、しれで掲載先のアテがないときは非常に申し訳ない気持ちになる。もう一誌くらい、映画評を書ける媒体が欲しいところだ。モノ・マガジンの図版を荷造りして、近くのコンビニに宅急便で出しに行く。ついでにザルソバを買って帰り、家でモソモソ食う。ダイエットのためにこれだけ。雨は小降りになり、夕方にはやむ。
夕方まで、海拓舎、それから『クルー』原稿ナオシなど。5時、家を出て参宮橋。そこから小田急線で下北沢、駅前のOFF・OFFシアターで村木藤志郎一座の舞台『サヨナラ』を見る。阿部能丸さんからいただいたチケット、今回は仕事はかどらずに行かれないかと思っていたが、追加公演があるというので駆けつけた。前回の『ラストシーン』は映画の撮影現場という、こちらの同調度の高い場面設定だったが、今回はさて、どうかなあと思いつつ席についたのだが、結果だけ書くと、いやあ、参りました。最近、夫婦のあり方とか、どちらかが先に逝った後の残され方とかいうことを、トシのせいでどうしても考えてしまう。ナンシー関の件もあるが、死というものがそろそろ射程距離内に入ってくる年齢なのである。かといって、マジメにその問題を正面から考えるのもちと、照れくさい。そこをこの芝居、斜からスッとすくい上げて、あたたかくイヤミでなく、ドタバタの中に見事に描いてみせた。この一座と私はどうも、波長が合うらしい。
前回、座長芝居の欠点である、座長だけにスポットがあたるシステムの単調さについて書いたが、それも今回、主役の村木が脇からおもむろに入ってくる展開になっているので気にならない。と、いうか大したもので、それまで最終公演の疲れか、みんな演技に覇気がやや欠け(阿部能丸さんも、おいしい役なのだがちょっと場をつかみ損ねていた部分があった)、ギャグも上滑りが多かったのが、村木の登場で急にひきしまる。そして、観客のストーリィの不備や、一人が複数の役をつとめることについての心の中でのさかしらなツッコミを見事にフォローしてラストに収斂させる脚本のアッと言う構成の見事さ。舞台ならではの効果を生かしたこのトリック(つまりは時間ワクを同空間の中で混在させるという進め方。それを最初は観客に知らせないで話が拡散的に進み、やがてみんなが伏線に気づいたところで一気に中心テーマに入っていくのである)。そして、“一座”を名乗る大衆演劇の本文を見失ってない、クサいが心やすらぐテーマ。前回はやられっぱなしの気の毒な役だった島優子が、村木演じる教師・ミキジの昔の教え子で、恋愛感情をお互い抱いているが、二人とも口が悪すぎて言い出せない島の娘・キヨを演じて大変魅力的だった。私のお気に入りの小栗由加、声をからしての熱演。もうちょっとガラの悪い中での、純朴な可愛さも出して欲しかった。“じゃねーのー?”というセリフが似合い過ぎるのである。
9時10分過ぎころハネ。出て歩いて五分もかからず『虎の子』。下北沢レトロコレクション、閉店まぎわをちょっと覗かせてもらって、それから食事。さすがのこの店もW杯中は暇である由。カジキのムニエル風、鮎ざく、冬瓜の中華風あんかけなどで酒。冬瓜という名前なのに旬は夏なのだよなあ、と思いつつ食う。酒は店おすすめの“開運”で、香り豊か。K子はロフトプラスワンで、ここの料理を出して食べながら朗読会、という企画に燃えている。