裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

火曜日

紺屋の決闘

 明日の夜明けまでに袴を染めておけ。朝7時起床。好天ではあるが剣呑な気圧である。朝食、金時イモのふかしたのと、じゃんくまうすさんから送られたアスパラ。柔らかくて濃厚極まる味。メール整理しているうち、昨日送られた、少年愛についてのインタビュー依頼メールをうっかり削除してしまったのに気がつき、愕然とする。この日記をごらんになっていたら、乞う御連絡。

 昨日の日記でつけ忘れていたが、河出書房の前でばったりメディアファクトリーのT氏に出会った。全然連絡ないので心配していたが、MLはちゃんと読んでいるとのこと。今、扶桑社と会誌の件でドタバタしているようなので、これが一段落ついたら連絡します、ということであった。

 海拓舎の原稿にかかるが全身倦怠、ピクとも進まず。K子の弁当など作る。ゆうべ仕掛けておいたトウモロコシご飯に、アスパラガスを使って中華風カレー。OTCから電話、今月末にまたオタク談義録りとのこと。日取りなど相談して、それから自分の昼飯。豚肉とネギを炒めて、トウモロコシご飯で。食って新宿に出る。日差しはまるきり夏である。延びすぎた街路の植え込みの刈り揃え作業が行われている。雑用をいくつか済ませ、買い物して帰る。

 3時、時間割にて早川書房Aさん。『妄想通』単行本化の打ち合わせ。構成を変えて手をいくつか入れて、と話しているうち、なにやら作業量が膨大になりそうに思えてきて戦慄する。出来るだけモトの原稿を生かす方針で行こうと決心。とはいえ、これが単行本になるのはうれしい。Dちゃんのデビュー作である。昨日話したばかりのことだがもう一度Aさん相手に話す。イラストを一点々々、見ていると、なかなか味わい深い。11月刊行予定。来年の出版予定の話もする。すでに6月、出版界ではもう鬼も笑わぬ時期である。雑談いろいろするが、体力がスーッと落ちていき、コレハイカンと早めに切り上げる。Sさんに本家立川流同人誌を渡してくれるよう、ことづける。

 ぐったりして横になっていたら、K子が帰ってきて、なにやら言う。答える気力もない。それでも5時過ぎになってやっと体力も回復、『男の部屋』のエッセイを片付ける。NHK前でラッパをプハプハ吹き鳴らし、ドッと歓声の上がるのが聞こえる。サッカー観戦の連中だろう。8時半、夕食の支度。豚肉とニラの鍋、アスパラとカニ肉の蒸しもの、イワシ塩焼き。アスパラガスの先っちょの方は口に入れただけでほろほろと崩れる柔らかさと甘味だが、これだけ柔らかいと明日にはもう腐りはじめるだろう。惜しい。フィン語を終えて帰ってきた(今日はサッカーの話で授業にもなんにもなるものでなかった由。フィンランドがW杯に加わらなかったのは“われわれをアジアに入れるな”とツッぱったためであったとか)K子は、『プロジェクトX』の胃カメラ開発の話を見て、“こいつらのおかげであんなものが開発されて!”とひとしきり怒った後、鼻炎の薬をのんだら眠くなったと言って、食事の途中で寝室へ行ってしまった。

 永瀬さんから電話、鬱は例会の成功で拭われた模様。よかったよかった。このあいだの会場の話。かなり満杯状態だったが、補助机や椅子を準備していあるからまだ大丈夫だということ。一・五次会の予約時間を早めるための下工作の話も。例会準備など、そろそろ次世代会員にまかせて楽をしなくちゃいかんのだが、しかしワレワレは根が好きだからネ、こういうコト、とお互いに笑う。オタク第一世代というのは上映会の会場を探して確保したり、告知ビラを作って喫茶店などに置いてもらうべく回ったり、という行為が身についてしまっている。と、いうか、そういう行為を含めてオタク行為と認識しているのである。楽しいのである。人さまの作ったハコにただ入るだけ、というのは物足りないのだ。

 私が上京してすぐアニドウに飛び込んだのも、上映会のスタッフがやりたい、というのが第一動機であったし、イッセーのところに加わったのも、会場に並ぶよりは会場整理をやりたい、という欲求が基本であった。SF大会で必ず企画を出すのも、ロフトで長い間企画数一位の座にあったのも、芸能プロダクションをあれだけ大変な目にあいながらやっていたのも、みなこのスタッフ根性である。他の人間にまかすと、どうも気が落ち着かないのである。ここらへん、すでにマニュアルが出来た中に入ってきた世代と、マニュアルをまず作るところから始めた世代の差であろう。最近は私もさすがに年のせいで、他人のハコに入る方を好むようになってきたが、永瀬氏はいまだ現役バリバリ。前回の例会でも、発表者のエリにピンマイクを装着する役をせっせとやっていた。永瀬唯ともあろうものがはるか年若の(しかも素人の)マイク係を 務めないでもよかりそうなものだと思うだろうが、彼は
「いや、あれでね、極めて短時間で能率良く装着させるコツがわかったよ」
 とご機嫌である。これは余人にはわからぬ快感であろう。いや、だから世代交代がなかなかうまく進まない、というところは確かにあるのだが。

 この企画癖がさらに広がって、永瀬氏、ちょっと大きなと学会がらみの企画の話をする。私もそれはいい、やろうやろうと大賛成。人生は祭だとフェリーニも言っている。楽しむべし、御輿はかつぐべしである。次の座談会のときにでも運営委員連中に提案してみようと話す。もっと長くなるかと覚悟していたが、1時間ほどで済む。たぶん、また他の運営委員に電話するつもりなのであろう。12時過ぎまで、残肴をつつきつつ、梅干し入り焼酎などを飲む。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa