裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

金曜日

じれったい、日がクレッチマー

 気質心理学なんてどうでもいいや、バカはバカでえ。昨日あれだけ寝たんだから寝られないかと思っていたのだがどういたしまして、グッスリ。さすがに5時ころ目が覚めて寝床で『殿下と騎手』など読んだ(テムズ川に放り込まれた主人公がその臭さに参るところがあって、道頓堀を思って可笑しかった)が、また寝て、8時まで。K子は先に起きてメールチェックなどしている。旅は変わった経験の出来るものであると思う。8時半、階下で朝食。昨日食べ過ぎたのでサラダにクロワッサン、コーヒーと果物のみ。食べて部屋に帰るともう9時である。K子がシャワーを浴びる間、転送されたメールを見る。自衛官のY氏から、室田日出男が『てなもんやコネクション』を降りたのは、本人でなくマネージャーが山本監督とケンカしたから、とのこと。ここ、訂正しておく。書き忘れていたが、石井輝男監督作品にも、室田氏はその後何度も出演している(『直撃地獄拳! 大逆転』みたいないい演技もしている)。和解を したのだろう。誤解されるといけないので念のため。

 10時に新幹線なので大急ぎでホテルを出る。急ぎすぎて携帯の充電器を忘れて出てしまった。新幹線の中から電話をかけ、送ってもらうことを頼む。車中で覚え書きをつけるが、このメモ用にそこらにあったのをカバンに詰め込んだノートが、偶然、自分が35歳のときの覚え書きノートだった。メモしてある内容を読んでみると、イヤハヤ、大変な鼻息のことが書いてある。向上の精神に燃えていたのか、酒でも入って気が大きくなったときの筆か、出版業界を我が手で改革せずんばやまず、みたいなことが書いてあった。“天下を取る準備の時期”などともある。天下なんぞ取ろうと思っていたのか。そういう欲だけはない男と自分で自分のことを思っていただけに意外であったが、まあ、毛利元就が“天下を取ろうと望んでようやく一国が取れる”と言っていたから、これくらいの気概でやってきて、やっと今の私程度になったのかも 知れない。

 朝食を抑えめにしたら腹が減ってこまった。11時半ころにゆうべ作ってもらったハモ寿司を食べる。濃厚にして芳醇、むむ、と二人でうなる。飯に山椒の実が混ぜ込んである、その加減までさすがである。天下を取る気が10年の間に失せたのは、それよりうまいもんを食った方がいい、と気が変わったからかもしれない。大阪は出発間際に陽が差してきて好天が予想された。東京は雨という予報だったが、こっちも好天である。もっとも天気予報ではこの好天は梅雨の中休みに過ぎぬらしい。

 2時、帰宅。追いかけるように宅急便で扶桑社から『トンデモ創世記2001』の校正ゲラが届く。仕事再開、という感じ。他のコラム原稿もFAXしてきたものに朱を入れて返す。『AURA』原稿、大阪行きの最中だったので校正は向こう任せ、としたのだが、読み返すとなんか談生の日記のところのみ褒め過ぎ。ロフトの後の興奮が残っているうちに書いたのが筆に出ている。あやまっておかねば(談生に)なるま い。あと留守録数件、仕事がらみばかり。

 日記つけ、仕事先にメール数件。ささきはてるさんと今夜、企画の話しながら飲もうと連絡。8時にNHK西門前で、と約す。同人誌関係原稿などやる。K子が、とにかく早めに渡さないと印刷代が高い、とオドすのである。実際、間際は大変に高額となる。私は仕事は全て間際の人間なので、こういう状態でテンションを上げるのが非 常に苦手なのである。

 8時10分前に家を出るが、ふと、西門のことを私は電話でささき氏に“セイモン前”と言ってしまったかもしれない、と不安にかられる。正門の方面にちょっと足を向けるがいない。ここで待つか、西門の方に行くか、どうしようかと迷っていたら、携帯に“今、ハンズのところですー”と連絡が入った。ホッとして西門に誘導。K子に先に行っていてもらった蕎麦屋“華菜”へ。ささきさんはベジタリアンなので、野菜メニューが多いここに決めた。レンコン天ぷら、厚揚げ野沢菜添えなどベジタブル系中心に頼んで、酒飲みつつ企画ばなし。要は、そろそろオタクの通史をまとめる時期であろう、基本文献となるべきオタク発生時のことをつきあわせられる資料を作る最初の段階として、当時を知る者たちで座談会本を出さないか、ということである。

 ささきさんの持ち出したキーワードを元に、私が個人で進めている(メディアファクトリーで?)企画とのカラミも含め、まずは雑談しながら、当時の様子をいろいろと思い出す作業。ささき氏は今、第二期『奇想天外』を読み返して記憶を新たにしているところだという。誰でもこんなこと知っているだろう、と私などが思っていることが、今や埋もれかけた伝説になりつつある。また、ひとつの事象だけが突発的にある時期に起こった、として、それにヘリクツをとっつける(『戦闘少女たちの精神分析』などがその悪例)人がいるが、いくつかのオタクのポイントとなる事象がそのときどう平行して動いており、それが時代の風潮の中でどう有機的にからまっていったか、を考えないといけない、と二人の意見が一致する。華菜の大将、またトウモロコシを蒸かして出してくれた。ささきさん、トウモロコシは大好物だとかで、喜んで食 べていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa