裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

木曜日

ニンフォ十番勝負

 一晩にオトコ十人とは、いくら好きものとはいえ……。朝7時半起床。まだ雨。朝食はひさしぶりにソーセージとパン、オレンジ。ソーセージはフランクフルトで、紀ノ国屋で買ったものだが、フシャフシャした歯ごたえであまりうまくなかった。洋ガラシの粒の入ってないやつ(私はツブの入ってるのは好きじゃない)をたっぷり塗って。風呂に入り、膝小僧を確認。大阪で転んだところ(右膝)のカサブタがやっととれ、左膝の打ち身も色が抜けた。最近のダルさは糖尿にでもなってるんじゃないか、と心配だったが、傷口が膿みもせず順調に快復するところを見ると、まあそんなこともないらしい。

 ネット日記をひとわたり回る。ナンビョーさんのところで、悪性褐色細胞腫がほとんど消滅した、という記載にちょっと感動する。彼女とK子がメールのやりとりを始めた初期のころ、彼女があけすけに自分の病気のことを笑い話のように書いてきてくれることに感心しながらも、これで病状が悪化していったら、だんだん読むのがつらくなるなあ、と心配だった。潮健児さんの死病を知りながら回りにそれを押しかくさねばならなかったあのつらい時期の記憶があるだけに、彼女の回復には拍手を送りたい。もうひとつ、開田あやさんの日記、女流官能作家としてのテレビ取材の企画書に“ムードを出すために全裸でAVを観賞しながら執筆”とあったという話にのけぞって笑う。いやあ、ホントにテレビの制作プロダクションの発想というのはスゴいものがある。女流官能作家はみんな風邪ひきます。……それにしても、以前に回っていた日記サイトで、途中で更新が止まり、二年近く何の更新もしないままに放り出されているところなどもある。そぞろ哀れというか敗残という感じを受ける。さっさと閉じてしまった方がいいのに。

 例により仕事は進まず。ロフト斎藤さんから立川流トークのテープが届く。これもやらねばならんのであった。新宿に出て雑用すまし、マイシティで割子蕎麦。20歳くらい(?)の子が、鴨のくわ焼きに刺身などをとり、昼間から冷や酒のんで、ごきげんになっていた。まだまったくそういう格好が身についていないチグハグなカタチであったが、こういうことをしている自分、ということにナルシスティックになっているんだろうな、と何か微笑ましい。私も学生時代、池波正太郎を気取って鰹の刺身で昼酒としゃれたことがあったっけ。

 帰ってすぐ、平塚くんから電話、同人誌の図版のこと。それから仕事、男の部屋だの何だのの。メールもいくつもやったりとったり。5時15分、家を出て新宿、そこから中央線で中野まで。芸能小劇場、トンデモ落語会。すでに常連の顔いくつも。受付のブラ房にと学会扇子を委託。と学会の植木さん、藤倉さん、Hさん、Kさん、Sさん、気楽院さん、IPPANさんなどとバカ話。立川流前座の現状がNHKで7月6日の朝に放映されるんだそうだと話すと藤倉さんが“『奇跡の前座』ですか”。私“そう言えば、怒られて外に出されるところとか、似ているかもしれない”。あと、こないだのOTCのスタッフ、NHKのYくん(その番組は誰が作っているか、調べておきますとのこと)、JCMのMくんたち一行、ドリフトの面々、睦月さん、開田夫妻、なをき夫妻、QPハニー氏、傍見頼道氏など。相変わらず客が濃い。

 開口一番はブラ談次。立川流の破門騒ぎがネタだが、小野栄一の話が出てくる。最近連れ回されて迷惑しているらしい。急にこの男に親近感がわくのに自分で苦笑。依然たどたどしいが、このヌーボーとした感じが個性になればいいかもしれんと思う。次は今回、高座にあがれるかどうか注視のマトだった志加吾、グレート・ムタのパロディキャラで登場。かぶっていた頭巾を取るともちろん、ムタのようなメイクをしているんだが、目がマジに怖い。のけぞった。あれなら実際リングに上がっても相手を威嚇できる目つきである。ホントに煮詰まってるんじゃないか? と心配になったがインタビューネタ(落語ではない、というカタチ)の後は、談之助の早変わりの口調で“(帰ってくるまで)少々、お待ちください!”と。前の席にひえださんが座っていたが、隣の席の女性がいきなり携帯を出して操作しはじめたという。何かと思ったら、フリップで志加吾(元)が出したネタの“奇妙な果実(某兄弟子が首を吊るという話のタイトル)”の“実”の字が間違っていたのを確認しようとしていたらしい。

 続いて談生。前回はSF調だったが、今回はミステリというか、“奇妙な味”タイプの犯罪ドラマというか。マジに実行できそうな犯罪方がボロボロ出てくるという、別な意味での放送禁止落語であった。二人が会話を交わすのが吉祥寺駅のホームという設定で、場面転換のたびの“吉祥寺〜、吉祥寺〜”の繰り返しが実に奇妙な効果を産んでいる。謎の男が教える犯罪を主人公がいちいちポカをしてミスをする、そこらへん、そのミスの必然性に、主人公をもう少し足りない、与太郎に近いキャラにすればもっと落語に近づくんじゃないか、という気がしたが、この話自体が談生の“出来るだけ落語から離れる”実験なんだろう。

 三遊亭白鳥は久しぶり。『紙入れ』を古典そのままにやります、と言っておいて、古典どころかメチャクチャに改変。とうとうシャイニングになってしまった。中入りまでにもうかなりヘトヘト。休憩中に水も飲みたくないくらい。中入り後、ユーバーアッレスの出囃子で談之助。W杯でもし日韓闘わば、というところから日本が韓国と北朝鮮に分割占領されるという架空戦記落語、例により雑学の嵐、笑いも十二分にとり、客席を自在に引き回す。これまではあまりにマニアックでさすがのトンデモの客も引く、という芸風だった談之助だが、この数回、めっきり高座姿が大きくなって、客をいいようにコロガす貫禄がついてきた。50になって、これからの十年がこの人の本当の聞きどきだろう。

 トリが快楽亭、こっちは力が抜けてこれまた別な意味で芸人らしくなってきた。映画『白い船』をネタにしたパロディ落語の“予告編”のみやって、あとは十八番『カラオケ寄席』。新宿のソープクリスタルのくだりで、後ろの席のなをきがヒッヒッヒという、彼独特の笑いを漏らしていた。終わって出るとK子が来ていた。えん屋で打ち上げ、植木さんの姿が見えないのでみんな不審がっていたが、明日出張だそうで、早めに帰ったとのこと。乾杯の音頭は元・志加吾。なんかギャグ言うかと思ったが、マジに終始。ナサケナイ、と思ったが、見たらホントにテーブルの上に突っ伏したりしていた。いろいろ裏でのウワサは聞いているので、まあ、仕方ないかという感じ。ブラ談次に、小野栄一ばなしをたっぷり聞いて、苦笑の連続であった。うーん、しかし白山先生はじめ、みんなに迷惑かけていそうな感じだなあ。いくら縁を切ったとはいえ、困ったことである。そう言えば、今日は三回も高座でのネタに私の名が出た。談生の、カード犯罪に他人の名を使うというところで“えーと、誰の名を……あ、カラサワシュンイチ、あれならいろんなとこでうらまれているみたいだからいいや”には爆笑。

 その後、談之助夫妻、快楽亭、睦月、ひえだ、QP、傍見、私とK子、ブラ談次、などといったメンツでトラジで打ち上げ。ここでは書けない話題多々。複雑なる人間関係について“あれはどうなんでしょうねえ”“あれはねえ、困ったもんですねえ”“じゃあアイツのアレはむしろそっちが原因かね”“ソレについちゃアタシがね、こないだね”“エ、ホントニ”てな具合に盛り上がっているところにまさにその情報を持ったアルゴのHさんが入ってきて、まあ異様なる状態に。あははは。談之助さんと“しかし若いですなあ、みんな”と感心したり。いいじゃないかね、破門騒動がどうのこうのという話題より罪がなくて。タン塩、豚足、カルビ、冷麺など。豚足とタン塩のうまさに感動。いや、この店、また段が上がった。ひょっとして、幸永よりも上行っているかもしれない。なんと3時近くまでワイワイ話して、睦月さんのタクシーに便乗させてもらって帰宅。

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