23日
木曜日
神の味噌汁
やっぱりネギと油揚なり。朝8時起き。医者にキンタマの裏のニキビをつぶしてもらうというヤな夢を見る。女医、とかいうなら性夢だが、ガハガハ無神経に笑う爺さんの医者だった。朝食、サツマイモ、今日から黄金芋という種類。実が赤みがかっていて、甘い。女房にはスパゲッティオムレツ。
午前中は書き下ろし原稿をやり、11時、家を出て渋谷シネタワーで『チャーリーズ・エンジェル』を見る。休日であるし満員かと思ったら七分の入りというところ。『オースティン・パワーズ』のように、最初からおバカ映画、というワクを設けているならともかく、一応アクション映画としての分類でこういう悪ノリする映画というのは、日本だとまだ、観客がとまどうのかもしれない。冒頭、旅客機の中で映画が上映されているシーンがあり、それが『特捜隊アダム20』かなにかの映画化作品で、観ていた乗客が“・・・・・・またTVのリメイクか”とつぶやくところで大笑いした。そういうノリである。ムーブメントもいいかげんマンネリになりはじめた時に出てくる種類の映画。一九七○年代、乗物パニック映画ブームもいいかげん飽きがきたころに“船のひっくりかえる映画があった。飛行機に爆弾が仕掛けられる映画があった。ドイツの飛行船がハレツする映画もあった。・・・・・・次はバスである!”という前セツのついた『弾丸特急ジェット・バス』というケッ作が公開されたが、あの作品のようなパロディ、として徹底するには、いささか金がかかった大作になりすぎたのだろう。マジなアクションとギャグが、少し不調和に感じられた。オープニングのアクションのオチをパンフで秋本鉄次がバラしているので、上映前に読まないこと。
主演女優三人、キャメロン・ディアスもドリュー・バリモアもルーシー・リューも私にはさして魅力的とは思えないのだが、お色気だけは抜群で、そこがB級アクションという感じで大いによろしい。こういうB級ノリをもっと前面に出せばよかったのに。ドリューはスッポンポンになってみたり、マリファナびたりの少女時代、という自己パロディをやってみたり、自分のプロデュース作品だけあってかなりがんばっている。『ギャラクシー・クエスト』で殺され役俳優を演じていたサム・ロックウェルが重要な役で出て来るが、顔が全然違うので、エンドロールを見るまでわからなかった。監督がマックGという匿名なのも人を食っているが、中野貴雄がくやしがるのもわかる。このノリは中野貴雄に制作費を一○億円もくれてやれば、すぐ日本でも再現が可能であろう。疑いなく、今、世界に通用するセンス(“バカ”)を日本において最も持っている監督は、中野貴雄なのだ。誰か、彼に金をやって映画を撮らせるところはないか。たった一○億じゃないの。
観終わって、道玄坂のヒゲ長ルーロー飯で昼食。帰って仕事続き。新潮社の車雑誌『エンジン』から原稿依頼。映画評。このごろ、とんと映画評論家扱いになった。誰かに断られてこっちへ来たんだとは思うが。試写の都合があるので、少しスケジュールを調整しなければならない。
紀伊国屋ブックウェブで注文したマイケル・R・ボール『プロレス社会学』(同文舘)を読む。アメリカにおけるプロレス文化を“儀礼”の観点から社会学的に分析したもの。それが正しいかどうかはともかく、視点はかなり面白い。ただし訳者と監訳者が、どちらもプロレスにあまりくわしくない経済畑の人である欠点も多分に露呈している。訳文がです・ます調なのもかえって文章を煩瑣にしているし、せめて来日経験のあるレスラーの日本語表記くらい、チェックしてもらいたかった。フレディ・ブラッシーは日本ではフレッド・ブラッシーという呼び名でリングに上がっているし、ワフー・マクダニエルと前に表記しているレスラーを、後のページでワホ・マックダニアルスなどとしている(前者が正式)、というのは下訳を学生あたりに分担させたことによるミスのようにも見える。鉄の爪フリッツ・フォン・エリックの息子たちの記述に訳注をつけているくせに、キラー・カーンを中国人と記述しているところに注がないのはいただけない。“悪役日本人レスラーとして最も有名なのはオッドジョブで、彼は後に007映画『ゴールドフィンガー』でスクリーンデビューした”というのは、原著のミスかそれとも訳の段階で記述が混乱したのか。オッド・ジョブは映画の中の役名であって、リングネームはハロルド坂田。映画人気でその後オッド・ジョブ名義でリングにあがったりもしたのである。こういうミス指摘、天にツバすることでもあるのだが、やはり読者の立場、プロレスファンの立場としては読んでいてずいぶん気になる。大学講師となったジャンボ鶴田がよく、この本のことを引用していたが、せめて彼あたりに監修させればよかったのに。
講談社Web現代の原稿に少し手をつけ、6時、渋谷のイタリア料理屋『ラ・クッチーナ』で、参宮橋のレストラン『クリクリ』のケンと絵里さんを誘って食事。絵里さんがモバイルのパソコンを買いたいというので、レクチャー役にと安達Oさんも呼ぶ。ここはブイヤベースが名物で、これまでここの店に来たときはわれわれ夫婦は必ずブイヤベースを注文しているのだが、今回もその記録を更新する。ケンが珍しくいろいろな若い頃の世界放浪の話などしてくれて、ネパール、パリ、アフリカなどでの珍しい体験を聞く。さらに文学、映画と、顔に似合わないと言ったら失礼なのだが、その豊富な抽出しに一驚した。古い映画の話で、安達Oさんも加わって盛り上がる。ブヤベースの汁で作ったリゾットでおなかが一杯。