裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

木曜日

O脚とは忘れ去ることなり

 ガニマタにお悩みのあなたに画期的解消法! 朝三回、目を覚ます。そのたびごとに夢を見るが、最初のは、やたら劣等感にさいなまれる相手と同席する夢で、憎らしくなってエイと蹴り挙げたら、フトンから足が出て目が覚めた。これが4時ころ。それからウトウトしてまた5時ころ目が覚める。この時の夢は森の中の暗い道を自動車で行くと、突き当たりのへんが月あかりが夜明けか、とにかくボーッと明るくなって凄い光景になるという夢、それから7時半まで最後に寝たときの夢は、美少女映画女 優にインタビューする夢だった。これは、近く藤谷文子主演の『式日』の試写に行く ことになっているので、それが頭にあって見た夢かもしれない。朝食はサツマイモに昨日、札幌の母から送ってきた肉シチュー。ダイエットにはならないが、手軽でよろしい。アメリカ大統領選挙、まだモメている。

 最初に目が覚めたとき、ノドが腫れて痛んでいたので、台所で風邪薬をのんだ。それで思い出したが、こないだ死んだイラストレーターの真鍋博氏に『超発明』という大傑作イラスト集があった。イマジネーションの限りをつくして描かれた超・発明品の数々が紹介されていたが、その中に“風邪薬”というのがあった。風邪を治す薬ではない。のむと風邪をひくクスリである。“人間は病気を自由に治すだけでなく、病気に自由になれるクスリを開発することで、はじめて病気を征服したと言えるのだ”というような解説文が、読んだ当時中学生だったの私のSFマインドを、やたらくすぐったもの。まったく、この11月のスケジュールを考えると、いっそ風邪の重いのでもひきこんで無理矢理にでも体を休ませたくなる。

 午前中、週刊アスキー一本。理論社のタカクラ・テル『ニッポンの女』(昭和26年刊)などをネタ本に書く。昼はお稲荷さん6ケとニシンの煮たの。鶴岡から電話。どうも私や彼の近辺で、ちょっとアヤシゲなビジネスばなしが飛びかっているようである。オノプロ時代に経験があるが、このテの話はいくら用心してもしたりない。君子アヤウキに近寄らず。まあ、キミコさんて慎重。

 新宿に出て、銀行に立ちより、その後いくつか買い物。帰って旅支度。3時、羽田飛行場に出発。記録用ノートを忘れてきたので空港のどこかで買おうと思ったが、オミヤゲ店は山ほどあっても、普通のノートと筆記具を売ってる店を探すのが一大事。やたらマニアックな、北原コレクションの復刻オモチャなどを売っている(これから飛行機に乗ろうというときにロボット三等兵とかを買うモノズキがいるのか?)のに文房具もないのか、と呆れる。もっとも、アメリカ製の珍しい調味料とか売っているのを見つけて買ってしまったから、私もモノズキのうちか。二十分ほどあちこち探し回って、やっと見つけた。

 カタログハウスSさんと、カメラマンのNさんと待合せ、JAS女満別行き、4時35分発。修学旅行の生徒たちが大勢。北見の工業高校生らしいが、北の果 の男子校とは思えないほど、みんな茶髪にピアス、細身のツルツル顔。ジャニーズの日本男子改造度、おそるべし。一時間半ほどで無事到着。昨日、ニュースで北海道の天候が報じられており、札幌や旭川で大雪とか言っていたので、網走あたりはさぞや、と思っていたのだが、意外にも雪などカケラもなし。ただし、気温はマイナス1.4度で、シンシンと冷え込んでいる。タクシーで真っ暗な道をゆく。空港から二十分ほどのところにある宿「友愛荘」に投宿。ここはSさんの同僚おすすめの宿で、刑務所の受刑者が出所して最初にカニを食べにくるところ、と聞いていたので、民宿のようなところか、と想像していたのだが、大ホテルである。ロビーの自動ドアが開いたとたん、カニの匂いがプンとしたのはさすが、カニの宿。

 二部屋に別れ、八畳の和室に私一人。少し休んで、7時半、地下のカニ料理屋で夕食を執る。立川談四楼の色紙が飾ってあった。SさんNさんとも、取材で日本各地を回った経験者なので、三人で各地のウマイものばなし、ヘンなものばなし。ビールと日本酒がかなり回る。料理は、牛肉のジンギスカン鍋風や、エビのパンくるみ揚げ、鮭刺身など、どれもうまいが、肝心のカニが全然出てこない。三人で“やはりカニはコースの最後にどーんと出るわけですかね”などと話していたら、仲居さんがゴハン と味噌汁を持ってきた。Sさんが
「あの、カニはないんですか?」
 と訊いたら、これはカニが入ってないコースなんだそうだ。間違ってそれを頼んでしまったらしい。あわてて、毛ガニの塩茹でを追加注文する。カニ料理屋にカニ抜きのコースがあるとは油断であった。従業員も最初に注意しろよ。もっとも、やがて運ばれた毛ガニは、茹でたてで温かく、小振りではあったがミソの甘味もたっぷりで、満足。

 部屋はさすが北海道の宿で、暖房がカンカンに効いており、暑くてたまらず。切って寝る。夜中に目が覚め、乾燥してノドが痛いので、赤玉風邪薬のみ、バスタブにお湯を張って湿気を保ち、冷蔵庫のビール一本、部屋サービスのワサビ味付けノリを肴に飲んでまた寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa