裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

火曜日

ツチノコに限ってそんなことするはずがない

滑空するならともかく、空をはばたいて飛ぶなんて!

※ミリオン出版ゲラ 麻衣夢ライブ@恵比寿天窓

朝9時起床。
雨もよい。
20分ころ電話で朝食。
ゆうべ、サントクに出かけた時間(9時半ころ)、札幌の
ノリコ姉に会った。仕事(服の買い入れ)に上京してきて
母の部屋に泊まったそうな。
私の朝食時にはもう、買い入れに出かけていた。

緒形拳氏死去のニュース、携帯を見たら流れていた。
真っ先に思うのは何と言っても藤枝梅安。
イメージが原作とあまりに違う、と池波正太郎が怒った
(もともと、自分の出身である新国劇を捨てた男、ということで
彼を快く思っていなかった)というが、所詮、字でのイメージは
映像のイメージにかなわない。

原作の梅安は“わたし”と言うが、緒形拳の梅安は“あたし”と
言う。それを人から聞いて、医者があたしはないだろう、と思って
一度見て、
「“あたし”以外なし!」
とコロっと転んでしまったくらい、そこに藤枝梅安その人がいた。
文章を書く身として池波先生もくやしかったろうが、百万言を
費やして自分が創造したキャラクターを越える梅安がそこに
存在してしまう、ということが実際にあるんである。

ぎらぎらしているときの緒形拳もよかったが、枯れてきてからがまた、
よかった。斎藤由貴主演のNHKドラマ『とっておきの青春』で、
娘(斎藤)の、昔なじみ(唐沢寿明)との婚約を破棄してほしい
(彼女が自分の部下の光石研と出来てしまったのであった)と
頼みに行くシーンで、
「実は……自分には……博打の悪癖があり……借金がこげついており」
と、朴訥にウソを言い、それを相手の父親が聞いて
「いいですよ、見え透いたウソは。娘さんの気持が、息子から
離れてしまった、それだけのことでしょ。……大変ですよねえ、
父親というのは」
としみじみ言う。相手の父親役が江見俊太郎で、これがまたよかった。
二人とも、時代劇ではぎらぎらした役ばかりを演じ、それが枯れると、
何故かいい父親を演じられる。もっとも、それで安心して帰るとき、
むくれ顔の唐沢にむかい、
「まあ、人生には、いろいろと思うようにいかないこともあり、
君もあまり気を落とさないでね」
と、つい本音(あまり唐沢が好きでなかった)を言ってしまう
茶目っ気もまだある。

こういう人間としての年輪を感じられる役者がいない、と感じる
のは、こっちも歳をとった証拠か。

そう言えば、私の人生のごく初期に、札幌の店の前で撮った写真が
残っているが、バックに大きく緒形拳が写っており、
「拳です。健康です!」
というキャッチコピーが書かれていた。何の広告だったかと
思っていたら、チオクタンのCMであると教示を受けた。
緒形氏の死因は肝臓病と報道されているが、皮肉なことに
肝機能のクスリである。

その後の報道を見ると、死因は肝臓ガンによる肝臓破裂だとか。
肝炎〜肝硬変〜肝臓ガンという移行は潮健児さんのとき
そのままで、ちょっとあの告知を医師から受けたときのことを
思い出す。晩年の、飄々とした味は肝臓を患ったことによる
体調の変化から来ていたものかもしれない。

71歳、あまりに早い。
黙祷。

昼は弁当。
何か体調不良、仕事も進まず、食欲もあまりない。
気圧のせいだろう。
Tくんから電話、ちょっと話す。
4時に家を出て、仕事場。
届いた荷物とかの開封、整理。
ゲラ赤入れ。

6時、ミリオンYくん来て、ゲラチェック原稿受け取り。
オノから電話、連絡処理の件。
メールに返事いくつか。これに時間くわれる。
急いで家を出て、タクシーで恵比寿のガーデンプレイス入り口。
少し歩いて、恵比寿天窓。
麻衣夢のライブ。今日は客の入りが大変にいい。
先月はずっと舞台で、きちんとしたライブは一ヶ月ぶりだから
だろう。S崎くんが営業帰りに寄ってくれた。

体力極端に落ちているが、歌声に身をまかせていると
ちょっとホロリときてしまった。
疲れているのかなあ。
6月に『和の○寅』で出会った、ウズベキスタン人のジョンが
来ていた。

S崎くんと、ガーデンプレイス近くの赤ちょうちんで飲む。
ここにまだこういう店が残っているのが嬉しい。
来年のルナの年間サーキット予定をどう、告知や集客していくか、
また他業種の仕事につなげていくか、その予定を。
10時半ころ、後片づけ終えた麻衣夢も来て、
いろいろ話。プロデュースのこととか。
可愛い女の子と話すというのに、色気のない仕事の話ばかり
というのは男性としてどうか。

彼女、大阪で子供のころ、子役のプロダクションに入っていて、
中座や梅田コマの舞台に立っていたという話を聞いて驚く。
なるほど、舞台度胸などはそこで培ったわけか。
江波杏子女史、ミヤコ蝶々先生などの芝居に子役として出ていたと
いう。ミヤコ蝶々にはしごかれたらしい。
ちょっとうらやましい。
もっとも本人は同世代の子にミヤコ蝶々とか江波杏子とか
言ってもまるで通じず、
「あまり有名じゃない人なんだ」
と思っていたとか。

12時半、タクシーで彼女を送って帰る。
帰ってまた、画像整理。
いや、もうそろそろ忙しくなるので出来なくなるので。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa