裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

土曜日

カラミあり人形

 リカヴィネを超える過激さ! 男女のからみを食玩フィギュアで再現! 朝7時半キッカリに起床。朝食、トウモロコシと枝豆。西村の二十世紀。書き忘れたが、昨日の朝食にはK子にアナゴの白焼きを出した。船山で、アナゴの酒蒸しにまったく箸をつけずに残した客がいて、船山さんが“おうちのネコちゃんにこれ、持って帰りますか?”と言うと、すかさずK子が“ニャーニャー”と鳴いてもらってきたもの。フライパンで塩胡椒して焼いて、パンのオカズにしたら喜んで食べていた。

 11時半、K子と外出、東急ハンズで仕事用の椅子を買う。背当ての部分が蒸れない網目の布張り、というのが今のトレンドらしいが、ネコのいる仕事場ではそれを置くのは無理というもの。新しいツメトギを買ってくれたんだとしか思うまい。もっとも、ウチのネコは最近は階段以上の高いところに飛び乗るようなことは、トシのせい かほとんど無くなっているけれども、まだ危ない。

 そこで仕事場へ行くK子と別れ、サムラートでチキンカレー。ここは壁に貼ってあるメニューには税抜きの値段が提示され、食券販売機には税込みの値段が提示されているのでいつもとまどう。初めてライスで食べてみる。多少固めのご飯だが、そこがインド風かも、と。野菜もとらねばと思い、フレッシュグリーンサラダというのを注文したが、ドレッシングがベタ甘くて閉口。次からはノンドレッシングで、と頼まな いと。

 蒸し蒸しとして暑苦しい。暑苦しい時には暑苦しいことを、と、書庫で少し書籍の整理。小山春夫(白土三平の影武者)の描いた貸本マンガ版『甲賀忍法帖』(東邦漫画)などが出てきて、なつかしく読む。なにしろ小山春夫であるから、キャラクターが『サスケ』とか『カムイ外伝』とか『ワタリ』とかの少年モノそのままで、夜叉丸なんて露骨に美少年の主人公顔に描かれているのが簡単に絞め殺されてしまうのだから、そのまま白土少年マンガのパロディに思えて大笑いできる。甲賀の陽炎は『忍者武芸帖』の蛍火そのまんまだし。原作の『甲賀忍法帖』の方の蛍火とお胡夷、それに朧はずいぶんと少女に描かれていて、残念ながら小山春夫のキャラクターではない。誰か少女漫画系の人が代筆しているらしい。可愛いことは可愛いし、まるきり幼女のようなキャラのお胡夷が無惨に殺されるシーンなど、今の少年マンガでは検閲が入るだろう。もっとも、逆に当時の少年ものの限界で、血しぶき飛ばしでヌードを見せる朱絹は“赤まむし”というむくつけき男性キャラになっているが。

 甲賀忍法帖と言えば最近はせがわまさきの『バジリスク』が評判がいい。この小山版『甲賀忍法帖』も、そのブームで、併せて復刊されないものだろうかと思う(復刊ドットコムでリクエストされているが、知名度が低すぎてあまり票は集まっていないようである)。もともと『忍者武芸帖』の影一族はこの甲賀忍法帖にインスパイアされた(というより完全にパクった)存在であり、その原作を白土の影武者であった小山春夫が漫画化する、という因縁が非常に興味深いのだが。
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 ただ、『甲賀忍法帖』は、絵的な要素が多くてマンガ化に向いているようで、実はあの作品の(他の忍法帖に比べても)最大のポイントである、医学生あがり作家・山田風太郎による、もっともらしい忍法の医学解説(朱絹の血しぶき忍法を血汗症で説明するなど)がないと、少なくとも私的には面白さが半減する。『帝都物語』の映像化に、荒俣宏氏の衒学的解説がないとか、司馬遼太郎作品の映像化に“余談”がないとかいう、その不満と同じである。そこらは、この小山版も、せがわまさき版も免れ得てはいない。もっとも血族結婚を重ねて奇形を作り出してその奇形を忍法に利用する、などという『異形の愛』的な設定は、それは今はちょっと出しにくかろうが。

 5時、家を出て銀座線で上野広小路亭へ、うわの空藤志郎一座のお笑いライブへ。何か差し入れを持っていかねばと思っていたが渋谷で買い忘れたので、京橋で降りて『あづま』で水ようかんを買って、もう一度地下鉄へ。開場5分後くらいで入ったのだが、客席はすでに五分の入り。やがて九分までになり、補助が出た。結構なことである。どんな公演でもそうなのだが、コトにお笑いは、客の入りが少ないと笑いづらくて仕方がない。楽屋に水ようかん持って、挨拶に。ベギラマは声がカスカスになっていた。稽古しすぎかと思ったら風邪だとか。マッドブラバスターLEEも来た。あと、扶桑社のOくんが、マンガ家のみずしな孝之先生連れてきた。二人とも坊主あたまなので、すぐ前の席に並んでいると、ついペチペチと叩きたくなる。極東軍事裁判のときの大川周明の気持ちがわかるような気が。

 コントをいちいち批評するのも野暮だと思うのでやらないが、作者・村木氏の好みか、アニメネタの多いこと多いこと。それも変にマニアックだったりする。若い連中にわかるかね、というようなものもある。アニメばかりでなく、『フィンガー4』なんて、フィンガー5にかなりリアルタイムでハマっていた人間でないとわからないのではないかというネタの大爆発。今回のお気に入りは高橋奈緒美と小林三十朗の『銀河鉄道999』。コントとしては別段ヤマもなければオチもない代物なのであるが、高橋奈緒美のメーテルと小林三十朗の鉄郎の、奇妙ななりきり芝居が可笑しいといったらない。あと、こないだも見た村木氏の立川談志物真似。今回はドラえもんを立川 談志でやる、というケッタイ極まる設定。

 コメディとコントは隣り合わせにあるものでいて、ベクトルが全く異なる。うわの空の本公演を観にきたお客さんがこのお笑いライブを観にきたら、とまどってしまうのではあるまいか。また、演じている役者さんたちも、このあたりをキチンと区別できていない人がいるのではあるまいか。まかりまちがうと、そこで演劇にもお笑いにも属さない、中途半端なままで終わってしまうこともないとはいえないのではあるまいか、とか、いろんな思いが頭の中をかけめぐる。……まあ、そこらへんの綱渡りのようなヒヤヒヤ感を楽しんでしまう(そういう部分のあるところが好きになる)とい うのが、私の癖なのであるけれど。

 ベギラマは、贔屓で言うわけではないが、格段によくなった。まだ、上手いとか言うと演劇ファンから馬鹿にされるレベルだろうが、少なくとも、ただ突っ立っていただけ、の前回のライブに比べれば次元が違う存在感を見せた。公演前に声をあんなにしてしまうのはプロじゃないが、最初の『港のヨーコ』のスケ番ファッションの存在感と、ドスの効いた演技はきちんと舞台の上で“キャラクター”を立たせていた。今の若いヒトの目的意識ってものが私にはもうよくわかんなくなってきているのだが、舞台の上とかだと、きちんとそれがどの方向に向いているのかわかるので、ホッとす るのかもしれない。

 打ち上げに誘われたので、Oくん、みずしなさん、それに裏モノのGさんなどと、くっついて居酒屋へ。島優子さんと鳥肉談義など。みずしなさんからは韓国ノリをいただいた。演劇談義のようなもの、薬談義のようなもの、テレビ談義のようなもの、でいろいろ楽しく話をして、10時においとま。中野まで行き、『トラジ』でK子と待ち合わせ、焼肉で夕食。豚足、塩ホルモンなどで真露ぐびぐびやっていい気持ち。考えて見れば、明日も中野で飲むのであった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa