裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

赤い不戦

 われわれ共産党はあらゆる戦争、あらゆる浅田美代子に反対します。朝、6時45分に起床。食事を作る前にシャワー浴びる。朝食、トウモロコシと枝豆のスチーム、モモ。K子に今日のトイフェス用の臨時予算を貰う(最近は何を買うにも、いちいち 経理にお伺いを立てねばならない)。

 ネットをのぞくが、未承諾広告ばかり。そう言えば、1日にまたもや架空請求メールが来た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−◆最終勧告◆貴殿ノ、ネットコンテンツ利用料ガ未ダ未払イトナッテオリマス。
延滞金・手数料ヲ含ム金額ヲ、8月4日(月)14時マデニATMカラ指定口座ヘオ振込ミ下サイ。
速ヤカニ支払イ頂ケナイ場合、メールアドレスカラ調査ノ上、自宅モシクハ勤務先等ヘ直接請求ニ伺ウ事ヤ、法的対応モ含メ、断固タル対応ヲ採ラセテ頂キマス。
ソノ際ハ調査及ビ請求費用3万円〜ヲ別途請求イタシマス。

◇振込金額:29500円(延滞金・手数料含ム)
◇振込先:三井住友銀行永福町支店普)7140190

【角田興業請求課・長谷川】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 カタカナであるところが新機軸か。別に電報でもなし、カタカナ書きである必要などない(かえってめんどくさい)筈なのだが、何となく非人間的というか、高圧的な イメージを与えると思ってなのだろう。

 8時、タクシーでお台場ビッグサイトへ。タクシーを使うのはゼイタクだが、ワンフェス取材の講談社編集チームと現場で落ち合うことになっているし、トイフェスは私の連載で取り上げるので、取材費で落ちる、とさもしく考える。最近は単行本順調に出ているし、テレビの仕事などもあってそれなりに実入りはある筈なのだが、入ったとなると、なるたけ出ないようにして少しでも貯めよう、と考えてしまう貧乏根性 のために、かえって何となく生活がつましくなる。

 8時半、ビッグサイト到着。出がけにK子にデジカメを“はいこれ”と手渡されて“うん、わかった”と受け取って、テーブルの上に置き、次の瞬間別のことに気をとられ、見事にテーブルにそのまま忘れてきた。仕方ないので自動販売機でレンズ付きフィルムを買う。まずはワンフェスの事務所に入ってヌカダさん、フィギュア王担当編集者Mさんなどに挨拶。会場をひと回り。岡田さんが王立宇宙研究所の食玩の詰め合わせ箱を、自ら積み上げて売場作りをしていた。MONOマガジンなどの特集を見たときには、派手な製作発表会やマスコミ宣伝など、さすが岡田斗司夫らしいビッグ な企画だなあ、と感心していたが、現場というものはやはり地味。

 そこから今度はワンフェスの方へ回り、ゲスト入場票を受け取って、会場を回る。『絶対少年』の佐藤眞人さんに挨拶。ずいぶんひさしぶりになる。あちこち回る間、サインを求められたり、握手を求められたりすること数度。ガイナックスのブースをのぞいた後で見たタカラのブースでは、立派なディスプレイを設置して王立宇宙研究所食玩を展示し、モニターで岡田さんや宮脇専務のインタビューを流している。岡田斗司夫本人がいるトイフェスに比べ、いない方のこの豪華さに思わず吹き出す。

 会場アナウンス、ひっきりなしに各種注意を呼びかけている。マイク係ももそこらのスタッフが適当にやっているトイフェスと違い、ワンフェスは女性の会場アナウンス係が専任でついている。注意事項を伝えるときに、野太い男性の声よりも、ウグイスのような可愛い女性の声でやった方が聴く方を不愉快にさせまい、という心づもりなのかもしれないが、“〜しないで下さい”、“〜な行為に対しては厳重に対処します”“〜することを禁じます”といった命令口調のモノイイは、若い女性の声でそれが伝えられる分、かえってある種高圧的に響く。声がソフトなだけに、それが断定的にものを伝えるということで、声のバックにある“権力”の存在を聴く者にイメージさせるからである。これは先に記したカタカナ文と同じ効果かもしれない。SFアニメに精通している海洋堂ならそこらはよく、わかっているはずだろうに。……あるいは、オタクたちはそういう声優声の女性の命令には嬉々として従うだろう、という配慮か?

 その女性声のアナウンスに集められ、開場前のそれぞれの指定場所に集合する。プレスの集合コーナーに行くが、講談社の人の姿は見えず。そもそも、この広く人の多い会場内で、落ち合う時間も場所も決めていない、というのが呑気極まりない。知人友人に何組か出会い、挨拶。古いなじみの某くんと、今回プレス宛にワンフェス実行委員会から来たメール内容のことでいろいろ。……いや、エライもんなんだねえ、などと。やがて恒例の開場カウントダウン、ただしカウントダウン中にもう走って入場 してきた一群がいた。

 しばらく、その混雑ぶりを眺め、講談社の人もいないようだから出直そう、と、トイフェス会場に戻ろうとしたら、“開場後しばらくは混雑緩和のために退出はご遠慮いただいております”と止められた。混雑といっても、もうほとんど出入りは終わっているのである。しかしまあ、規則は規則なんだろう、と素直に戻る。で、ふと見たら別の出入り口では自由に退出とかさせている模様。そこから出て、トイフェスの方へと戻る。本部室でふう、と息をついて雑談。なんでも今回、ワンフェスのゲスト票(首からかける)をカラーコピーで偽造して入場した奴がいたそうだ。そういう不心得者がいるのであれば、向こうがあれほどピリピリするのも無理ないか、とも思う。某人曰く“しかし、それをまたチェックして見つける方ってのも、かなり最初から人 を疑ってないと出来ませんよねえ”。

 こっちの方にも続々知り合いがやってくる。河崎実、例によって“よッ、明後日よろしく(河出書房の打ち上げ)!”とのノリ。なをき夫妻、これも例によりなをき、クタクタに疲れ切った顔。この会場に来る数時間のために、前倒しで二日くらいは徹夜したんであろう。加藤礼次朗が来たので、河出本を一冊進呈しようとしたら、
「いや、今日はやめて! 今日は、カバンの中に、出来るだけ余計なものを入れたくないんだ!」
 と、いかにもマニアなお答え。みんなキャラに忠実なことよ、と苦笑する。私も数回会場を回り、アホものパチもの専門という感じで、カバンがパンパンになった。それでも、SFマガジンの連載にいるので欲しいと思っていた古い玩具が数点、手に入れられたのがうれしい。あと、ダイナミックコグマさんからはと学会ネタとオタクアミーゴスネタをまた仕入れた。金はだいぶなくなったが狩猟本能満足させたような気分。血祭さんご夫婦来場、“奥様”の服装は今年は浴衣であった。礼ちゃんと、“あれを見ないとトイフェスという気分が”と話す。

 昼食は毎度例によってここではオリエンタルカレー。今年はハヤシを食べる。オリエンタルのハヤシと言えば、1970年ころ、猖獗を極めると言いたいまでに大流行した南利明の“ハヤシもあるでヨ”のあのハヤシであるが、スナックカレーのハヤシを実際に口にしたのは今回が初めて。33年ぶりにして、であった。しかしここのカ レーは年々、ライスの量が少なくなっていないか? 舞台ブースでは河崎実がナントカというアイドルグループを紹介、私は司会のレイパー佐藤の芸がもっと見たかったのだが。

 岡田さんのブースでは柳瀬くん、みのうらさんなど、スタッフ総出で食玩を売っているが、こっちではなかなかハケない模様。ワンフェス会場(講談社はどうしたかいな、と時々往復していた)では三箱(一人三箱限定)かついで、前が見えない状態でアブなっかしげに歩いている人たちがウロウロしていたが。そのすぐ脇では仮面ライダーインベラー役の日向崇のサイン会が、整理券配布の時から長蛇の列で、岡田さんが吐き捨てるように“これでますますキャラものが嫌いになった”と。なんでも、この整理券配布中、順番のことで並んでいるもの同士が髪を引っ張り合っての乱闘になりかけたという。聞いて、急いで飛んでいったら、落ち着いたようではあったがまだお互い口論していて、一方が“人生というのはな、そういうものじゃないんだ”とか説教口調でのたまっていた。仮面ライダーインベラーで“人生とは”とか言われてもなあ。ほどなくサイン会始まるが、オタク族半分、子連れお母さん軍団半分。その模様を撮影しようと思ったら、“撮影は禁止です!”と女性スタッフが制止。やはり、女性スタッフに言われた方がキツく、というか小面憎く感じる。これは別に、権力がバックに、とか言う問題でなく、女性特有のこういう場合の言い切りのミもフタもなさに起因するものだと思われる。“すみません”ひとつ語の前につけられぬか。

 12時を過ぎるとやや、限定品などをめがけての騒ぎなども一段落。楽屋(と、つい言ってしまうが事務局本部)でヌカダさんたちと雑談。最近テンパっている某人について“あれ、最近一層ワケわかんなくなってますな”“あのノリは気圧のせいですかねえ”などと話す。礼ちゃん、安斎レオ氏、ほりのぶゆき氏等も加わり、トメドなく雑談。安斎氏、2年も前の文芸別冊の『円谷英二特集』を何故か持ってきていて、私の論考を絶賛してくれる。礼ちゃんは、予想通りカバンを張り裂けんばかりにふくらませていて、さてこれを家のドコに置こうか、と悩んでいる。彼のオモチャ保管法の話などを聞いて腹を抱える。Mさん、ワンフェス会場へ行って空気の悪さに吐きそうになったと、鼻にハンカチを当てている。ヌカダさんが“彼らは今日のために、何日も寝ずに風呂も入らずに来たんだから”と、フォローにもならないフォローを。

 1時ころ、大御所・実相寺昭雄監督来場。安斎氏、さっそく自作の実相寺監督生首フィギュアにサインをしてもらっている。河出の怪獣官能本、“あれ、送ってきたのみんな人にやっちゃってさあ。もう一冊ないかな?”とおっしゃるので、たまたま加藤礼ちゃんにあげるつもりで持ってきていた一冊を差し上げる。ちょうどよかった。いろいろ話している最中に、桜井浩子氏も来場。実相寺監督に“今をときめく評論家の大先生”と大仰に紹介されて、名刺をさしあげる。だいぶ前、出版記念パーティでお会いして以来。黒縁眼鏡、男物のスーツに鳥打ち帽というスタイルを見て、礼ちゃん、“開田あやかと思った”と、トンデモないことを(何が)。スーツの胸には科学特捜隊のバッジがちゃんと輝いているのが何とも。もちろん、われわれがテレビで見ていた桜井さんはまだ十七歳の少女であって、今の年齢はもちろん争えないが、声がまるきり江戸川由利ちゃん当時のままなのが感激。

 会場を回って買い物して、疲れると本部に戻って雑談して、また話に飽きると会場回って、という繰り返し。何かこのままいると蟻地獄に引きずり込まれていくのではないか、とソラ恐ろしくなり、実相寺監督がほりさん伴ってワンフェスの方へ回る、というのをきっかけに、3時過ぎとりあえず退散。肩にカバン、両手に荷物をブラ提げて、タクシーで渋谷へ。シャワー浴びてベッドに横になったが、さすがに全身綿の 如くで、しばらく沈没。

 5時、起きだして、次の取材へ。これもWeb現代用で、JRで高田馬場まで。駅前のビッグボックスの“フィンランドサウナ”というところがいかなるものか、を探りに入る。フィンランドというくらいだから、焼けた石に水をかけて発生するミストを浴びつつ、白樺の葉(ヴィヒタ)で体を叩いて……というようなロマンチックなものを連想していたのだが、何のことはない、アスレチッククラブに付属している、単なるサウナ。ただ、浴場の壁の付近が丸太小屋風なデザインになっているのと、何本か立っているコンクリート製の柱が、白ペンキで塗られており、枝のようなものが突き出て張り出している。何なのか、と思っていたが、どうもこれが白樺の木をイメージしているらしい。それでフィンランドか、と可笑しくなる。浴場はかなり広く、川のように水が流れる工夫もあり、昨今の経済的デザインではない。たぶん、このビッグボックスが建った当初(昭和49年)から、ずっとある施設なんだろう、と思われる。入れ替わり立ち替わり人が入ってきて、かなり繁盛の様子。水風呂とサウナをし ばらく往復していた。

 8時、出て芳林堂ビル前でK子と待ち合わせ。声をかけられたので、見ると『虎の子』のジャイアンさんだった。3月に言った町田の焼肉屋さん『明花』のママが、私が日記に書いたのを読んで喜んでいたという。そう言えば冷麺を食べにまた行こう、と言っていたのであった。それにしても、どこでも知り合いに会ってしまうもの。

 K子と、ロシア料理『チャイカ』で夕食。このあいだ前菜にニシンがなかったのを覚えていて、ザクースカにニシンをプラスして、と頼む。ところが、ついてきたのを見たら、酢漬けではなく、燻製だった。もはや日本では酢漬けニシンは食えないのかと天をあおぐ。なんで急に酢漬けニシンが紀ノ国屋からも姿を消したのか? まあ、燻製も、塩っ辛いのをジャガイモに添えて食べると案外うまいのだが。それと壺焼きキノコ、ボルシチ、メインがシュシャリクとキエフ風鶏カツ。戦前の味、といった雰囲気の料理がここの特長で、鶏カツのソースの甘いところなど、大いに結構。ストリチナヤウォツカ二杯、生ビール、グルジアワインでちょっと酔う。帰宅して冷房を緩めて寝たが、中途半端にサウナなどに入ったものだから、全身(ことに内臓)が火照り、夜中に二回、目が覚めて台所で水をガブガブ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa