裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

金曜日

ついたち二日ニッカボッカー

 シンプルな芸風のシャレで今月をはじめよう。朝、8時起床。7時ちょっと前に目が覚めて、いろいろとよしなしごとを想う。この年齢になると、月日のたつのがえらく早く思えるものだが、7月は何か、やたら長々と7月だったような気がする。いつまでたっても暑くならないので、暑くなるのをじっと待っていたせいか。待つ身は時間が長く感じるものである。フジテレビとのやりとりでじれたせいもあるかも知れない。それと、怪獣官能本、日記本などの作業、夏コミ準備、と学会会場下見などの雑事がやたら重なったためでもあるか。さすが7月でイベントも多かったし。

 朝食はミニアスパラとカリフラワ、ジャガイモ一切れ(K子の野菜オーブン焼きに使った残り)をスチームしたもの。焼く場合はオリーブ油をたらりとかけるけれど、スチームのときにはそれも無しで非常にヘルシー。茹でるより味が濃縮されておいしくなるし。果物は桃。それにミルクコーヒー。

 仕事関係、コミケ関係でメールやりとりいくつか。それを済まして外出、新宿京王百貨店古書市をちょっと冷やかし。あと、雑用を片付けるためにそこから地下鉄乗り継いで神保町へ出る。三つほど用事があったのだが、カケ違いカケ違いで、三つとも果たせず、ちと呆れる。ランチョンでエビフライを食う。カスミ書房さんに行って、店主のYさんと少し雑談。コミケのこと、『トリビアの泉』のこと、まんだらけ問題に関して。

 まんだらけ問題、そう言えばこのことで古書店さんと話すのは初めての経験であった。私は古書業界の人とつきあいが多いし、長い。この商売がはっきり言って単純な倫理観だけで割り切れるものでない(だから面白い)ことも十二分に承知しているつもりだ。そして、一番悪いのはまんだらけでも、古川社長でもない、さくら出版であることはあきらかなのである。……とは言い条、出のあやしげなものが商品として流通するそのルート上にあるからこそ、また、文字業界と違い、漫画業界というものが生原稿を基礎に成り立っている業界である以上、その原稿そのものを商品として売ったり買ったりする以上、そこには細心の注意と、欲望に押しつぶされないだけの心構えが必要であるべきで、ササキバラ・ゴウ氏の言う“小さくは間違っても、大きくは間違わない”バランス感覚を持たねばいけない。……もちろん私は最初から、この問題をいち古川益三氏、いちさくら出版を悪党にすればそれで済むものとは思っていない。“業界全体の劣化”が問題なのであり、原稿の権利の所在の明確化や、返却・保存のシステムを早期に確立しなくてはならないことは言を待たないのである(原稿のデータ入稿化促進も大きなポイントだろう)。そういう意味で、古川社長の言う、
「マンガ家たちそれぞれが自分の原稿の管理意識を高めなくてはならない」
 というのは、正論なのである。しかし、それは正論ゆえに、
「あんたが言うか、あんたが」
 に今回はなってしまっているのだ。しかも、問題の本質はもっと根深く、大きい。

 二冊ほど買って、辞去。地下鉄半蔵門線で青山まで出て、紀ノ国屋で買い物。荷物が増えてタクシーで帰宅。東京での仕事はまだ日が浅いらしい運転手さん、“お盆の時期の都内のゴーストタウン化をどう乗り切るかが問題”とか言うので、“15日から三日間はお台場を回ると30万人からの人出があるよ”と教えてやると、エッ、それは一体なんの集まりなんですか、と訊いてくる。コミックマーケットというものがその期間はあって、と一々説明してやると、ふんふん、と興味深くうなづき、信号待 ちのところではメモなども取っていた。

 4時半、帰宅。いつもならバテて寝転がるところだがさすが梅雨開けかテンション高く、そのままWeb現代原稿を書き始める。7時半までに10枚完成。書き終わったあたりでペリカン便から電話、8時に集荷の予定だったけど8時半でいいですか、とのこと。結局、来たのは8時20分ころ。コミケ搬入物なので届け日指定が17日になっているのを見て、汗だくのおじさん、“エ、こんな先でいいんですか?”などと訊いてくる。少し不安。まあ、古い売れ残りの同人誌だからミスがあってもそれほ ど影響はないが。

 夕食の準備。あのつくんから貰った大根を千六本にして豆腐と煮た大根湯豆腐、新サンマの焼いたの、それと、これもあのつくんのところからの茄子を細切りにして、モヤシと一緒に蒸したもの。上にラム肉の薄切りを乗せる。ラムの脂がほどよく落ちて、その脂は下の野菜にからまり、ジンギスカンのたれで食べると非常にうまい。羊の脂は消化が悪いが、こうやって蒸して食べるといくらでも入って、腹もたれをしな い。

 食べながら『キャプテン・ウルトラ』第二話『宇宙ステーション危機一髪!』を。キャプテン・ウルトラシリーズのパイロット版にして、シリーズ前半(バンデル星人篇)の最高傑作。スリリングなアクションのシーン数がとにかく多く、アイデアが豊富で、しかも最大のヤマ場、と誰しもが思う対決シーンが終わって、実はそれがクライマックスの序曲に過ぎなかったという構成の妙。種族保存が最重要事で、個体の生死に価値観を置かないバンデル星人の思考の不気味さもよく表されており、K子が見ながら“スター・ウォーズなんかよりずっと面白い”と評した。脚本がいいんだな、と思って、寝る前に監督の佐藤肇の回想録『恍惚と不安』(非売品)を読んだら、これは長坂紀生の脚本が弱くて、助監督の館野彰と三日かけて練り直し、さらに現場であれこれと思いついたものをどんどん取り入れていった結果、脚本が満足な出来だった第一話(同監督、高久進脚本)より面白いものになってしまった、と書いてある。これだから映像作品の個々のスタッフやキャストを褒めるのは難しい。それにしても佐藤肇は“この作品を撮っている最中は楽しくて楽しくて仕方なかった”そうだ。その昂揚は如実に画面から伝わってくる。

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