裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

日曜日

赤ザク欣二

 宇宙空間で殺し合え! 朝、7時半起床。夢はどういうもんだったかよく覚えていないが、“仮面ライダーに出てくる怪人イモリゲスというのは変な名前だと思っていたが、あれは「ロドリゲス」のシャレだったのだ!”“「リゲス」しか合ってないではないか!”などと論争していたような気が。いよいよ春、という気候。花粉の飛び方も半端ではないらしく、さすがにクシャミが連発。朝食、また豆サラダに戻す。果物はモンキーバナナ。

 一昨日の日記で『虎の子』にナンバーの編集部の人が来た、と書いたが、さっそくそのご当人からメールが舞い込んだ。『幸永』にも行ってるそうである。私は昨日、幸永で食い過ぎて、やや腹下し気味。とはいえ、あそこのホルモンを食べると、生きているシアワセ、みたいなものが口中から前身に染み渡る。ちなみに、この編集さんの書いた記事の画像というのも送られてきた。タイトルが『日本野球文化研究所』というのがなんとも。

 午前中はいろいろと雑用。昨日買った雑誌の整理。『怪奇雑誌』昭和26年12月号に、この月だけあってクリスマスネタのマンガ。サンタクロースが煙突から入ったところ、家の中では夫婦が蝶々喃々の最中、女がサンタに気がついて“あらっ、誰かいるワ”男がだれだッ、と叫ぶと、サンタが“おらあサンタだ!”というもの。同じネタをはるか後年(昭和53〜4年)、『セメダインボンド』のはらひろしが自主制作アニメでやっていたが、リアルタイムで(このセリフで始まるテレビ番組『三太物語』は昭和25年にNHKラジオで放送され、大人気となっている)やっていた人もあったのだな。

 昼食はパックごはん一膳、アジ干物半枚、紀州梅干の大粒なの一個、芽キャベツの味噌汁一杯。食ってから原稿(昨日に引き続き廣済堂エッセイ原稿)にかかるが、どうにもダルくなり、筆が進まない。寝転がってしまいたい誘惑にかられるが、イヤ、かくてはならじと気力をふりしぼって、400字詰め6枚強、書き上げる。書き上げて外出、西武百貨店地下で買い物。帰宅して牛乳一本。この、飯を食うとダルくなるという体質はなんとかならないか。

 今夜は開田さんの知人が吉祥寺に和食屋をオープンしたというので、そこで会食。K子はパソコンでのお絵かきを開田家に習いに行っている。6時、家を出ようとしたところで永瀬さんの電話につかまるが、なんとか逃れて、6時15分に外出。日曜なので中央線が阿佐谷や西荻にとまらないので、なんとか7分遅れくらいで到着したがK子にはさんざののしられた。

 駅前から歩いて5〜6分、あまり行ったことのない中央口側の通りを通って、和食屋『はなさき』。ここは川上登さんという、彫金師で革細工師で映画の衣装や小道具も制作しているJAP工房の主宰者の人が開いたお店。今日はプレオープンということで、開田さん夫妻が招待されたのについてきたもの。小上がりで十数人、あとカウンター入れて二十人、入れるか入れないかの小さい店だが、さすが造形工房をやっている人のプロデュースだけあって、外装の鉄ワクなどが凝りまくっている。工房のメンバーであるユウコさんという女性が描いた、髑髏の絵が北斎漫画か大津絵みたいで可愛らしい。長野の蔵元と川上さんが仲良くなって、酒のラベルを描いたものがこの店の酒で、純米、吟醸など四種類、それぞれ“飲め屋”“食え屋”“唄え屋”“踊れ屋”と名付けられているとのこと。

 川上さん、自分が製作したという『殺し屋イチ』のコートを着て現れる。ダンディな不良中年。なにか、イメージは林家しん平に似ている感じ。料理は彼がずっと昔からつきあっているという親方が担当だが、なかなかのもの。今日はプレオープンなのでコースのみだが、焼き物、刺身、和え物、いずれも結構。『船山』のように、日常の食と懸絶したプロの料理ではなく、牛タンの葡萄煮(干し葡萄と一緒に煮る)や、卵焼きなど、家庭の味の延長で、それほど凝ったものでないだけに親しみがもて、いかにも中央線沿線の和食屋さんという感じである。タンを煮た後の干し葡萄をダイコンの千切りの上にかけただけのサラダを特別に出してくれたが、あやさんやK子に、 これが一番の評判であった。

 そこから、歩いて数分の『BAR JAP』へ。ここは川上さんが好きなスペインのワインやつまみを食べさせるバー(スペイン風にバル、と発音)。いろいろと手広くやっていること。マスターが“魔王”と呼ばれ、バーテンダーが“大ちゃん”。さきほどの和食屋で酒を四種類全部試したあと、こっちではトーレス・サングレ・デ・トロをあけ(確か二本)、さらにジンまでおかわりし、何がなんだか最後にはわからなくなる。とにかくK子が大のご機嫌(あやさんが“どうしちゃったの?”と不思議がるほど)で、どんどんと酒をあけ、大丈夫か、と思っていたが、12時半ころ、みんなと別れてタクシーに乗ったとたんに、“気分悪いー、頭痛いー、死ぬ”とうめきだす。だったら少し控えればいいにと思ったが、突発的な躁状態だったのであろう。なんとか家にたどりつき、倒れこむようにして寝た。寝る前に百草胃腸薬と、鼻炎止 めにイブ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa