裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

29日

土曜日

堺屋くんがゆく!

 もと経済企画庁長官が覆面して猟奇事件あふれる世相を斬ってます。ちなみに元ネタである『社会派くんがゆく! 激動編』の方はすでに出版社に在庫がない状態。今日びの時勢では増刷がなかなか遅れがちであるので、書店でお見かけの際はお早くお買い求めを。朝方、映像の無い夢を見る。音楽のみで、ずっとホルストの『惑星』が聞こえていた(第四楽章『木星』)。ホルストなんて、もう二十年以上通しで聞いたことがない。目が覚めて、書庫のCD棚から小沢征爾指揮・ボストン交響楽団のCDを取り出してきてかけてみたが、これもヤマノ楽器での安売りでまとめてクラシック買ってから、まだ封も開けずに棚にあったもの。聞いてみると、かなり正確に、しかも長く響いていたことがわかる。識閾下の記憶というものか。

 朝食はバジルスパゲッティ。こないだ新しく買った粉チーズふってみるが、さっぱりチーズの味がしない。やはり固まりで買って、使うたびに削らないとダメか。果物はポンカン、それにミルクコーヒー。日記つけながら『惑星』を通しで聞いてみるがいや、『スター・ウォーズ』のBGMそっくり。第一楽章や第七楽章なんか特に、まんまと思える部分がある。最初、ジョージ・ルーカスは映画音楽にはこの曲をそのまま使おうと考えていた、とか、70年代に雑誌で読んだ記憶があるが、まさに。ホルストという作曲家も、調べてみると、インド哲学や神秘主義に傾倒し、日本文化にも深い理解を示した、かなりユニークな人であったらしい。第一作が単純なスペオペであったスター・ウォーズが、次第に神秘主義の傾向を露わにするのも、この曲にイン スパイアされたものであるなら当然か。

 ニフティから、パソコン通信のFBUNKAが3月いっぱいを以て閉鎖、というお知らせ。もう七、八年も前になるか、一時期関わったフォーラムだった。とはいえ、あまりいい思い出なくやめたので、感傷はなし。それより、ニフのフォーラムというもの自体、すでにかろうじて余喘を保っている状態なのだなあ、と、そっちの方に思いがある。FCOMEDYなど、シスオペが行方不明に近い空席状況で、さていつまで続けるのか。このまま、K子の掲示板を拡大して裏モノ会議室にしちまおうか、という目論見もなきにしもあらず、なのだが。と、思い、FMISTYをひさしぶりにのぞいたら、UFO会議室に、パレスチナの戦争に対する書き込みがあった(2月末のものだが)。
「戦争は いかなる理由が 有ろうとも いけない 黙示録は 偽りだ イスラエルの 子らよ 同じ アブラハムの子 ノアの子 天皇よ どうする」
 ……おお、ここで日ユ同祖論が出るか。やはりいい味だなあ、FMISTY。

 ネット上の『社会派くん対談』原稿に手を入れてメールした後、11時半、家を出て半蔵門線で神保町へ。久しぶりの古書展。最近はせどり委託とネット通販が主(商売関係のもの、ここで言及することで古書価が高下する可能性のあるものは記さないことにしている)とはいえ、やはり古書というものは、自分で棚を見るのが基本である。今日を特に選んで出かけたのは、お気に入りの愛書会だからなのだが、これは失敗だったな。いくら土曜でもうめぼしいモノはさらわれてしまっている(破産せぬようあえて私は土曜日に行くことが多い)とはいえ、ドラッグ的に手が出てしまう小版カストリをはじめ、心霊関係、それからひと棚埋め尽くすという感じでB級性関係書籍など、私の範疇のものがどっさり。“金欠なんだからな、金欠なんだからな”と、呪文のように唱えながら、会場を回るハメになる。結局、小版カストリの中でコレクションから欠けているものを二十冊ばかり買い、後ろ髪をひかれるようにして出る。

 白山通りの『いもや』へ。時分どきなこともあって、店の中に長蛇の列。エビ天丼をかふかふと食う。下ごしらえ担当の女性が、タイ語の書かれた箱からエビを取り出して、殻を剥いては積み上げていく。頭は取られているが、その殻を剥く作業がほとんど一工程で、まったく無駄がない。あっという間に剥きエビの山が出来る。すると続いて、そのタイの箱を畳んで平にし、まな板の角に立てる。何をするのかと思っていると、出刃包丁でチャッチャッと、尻尾の先を削る。その削ったカスが飛ばないように、箱を盾にしているのである。それが終わると、さらに食いきりやすいように、身に三カ所、包丁を入れる。いずれの動きも無駄がなく、見ていて美しい、と感じるリズムがある。私の生業であるモノカキなど、プロと言い条、こういう美しさみたいなものはまったくない。

 カスミ書房さんやキントト文庫にも寄りたかったが、仕事もあるし、行けば行ったで金が出ることもわかりきっているので、パス。半蔵門線を逆にたどって、表参道で降りて、紀ノ国屋で買い物し、帰宅。ひと休みして、さてとパソコンの前に座り、仕事再開。7時までかかって廣済堂のエッセイ集の原稿を二本、アゲる。アゲたあと、寝転がって読書しばし。今日買ったカストリ雑誌パラパラ。そのあと、お固い古典ものを読む。

 8時45分、K子、藤井くんとマンション下で落ち合い、タクシー相乗りで東新宿『幸永』へ。加藤礼次朗夫妻と焼肉。例のSARSの流行直前に香港に旅行してきたそうで、オミヤゲ(ビンラディンの筆立て)貰う。藤井くんと、SARSてのは『復活の日』の真似ではないかとか。あと、天本英世の歯というのはいつ頃から総入れ歯になったのかとか、井上瑤のこととか、こないだのハンニバルの話から、肉食のウサギというのはいるのか、そりゃモンティ・パイソンだろうとか、要するにオタクばなし。礼ちゃん相手だとこちらも一般人と話すときの枷(一般人養成ギプス)を外してしゃべるので、脇の藤井くんの目から見ると、異様なテンションに映ったらしい。礼ちゃんのリクエストで“チーズ焼きタン”なる新製品を食べる。他にはいつものようにホルモン、スライステール、ゲタカルビ、レバ焼き、豚足、テールスープなどなどを。ホッピー2ハイ。

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