裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

火曜日

華族そろって歌合戦

 はい、近衛さんチームと九条さんチーム、どっちが上がってどっちが落ちるか。朝7時半起床。5時ころ、腹が減ったのか猫がニャーニャー鳴いてエサをねだりに布団の上に上がる。そのせいか、変な夢を見た。猫がいやに天井を気にするので、見ると黒猫がどさっという感じで上から落ちてきて、うちの猫を追いかけ回す。いったいどうしたんだ、と思い、見上げると、天井には稚拙な黒猫の絵がいっぱいに描かれており、誰がいつの間に描いたのか、と戦慄する、というもの。

 朝食、トウモロコシ、グリンピース、ジャガイモの賽の目を茹でて。モンキーバナナ、ミルクコーヒー。いよいよ米英西三国が国連決議を撤回、戦争開始確定。テレ朝のスーパーモーニングは嫌味のように『オール・ユー・ニード・イズ・ラブ』を流していたが、こういうときにむしろふさわしいのは、映画『我輩はカモである』の開戦宣言シーンでグルーチョはじめチコ、ゼッポが(もちろんハーポは歌えない)合唱する『The Country’s Going to War』ではないだろうか。戦争を前にした人々の興奮と混乱をこれほど端的に表したナンバーは他にない。願わくはブッシュ及びフセインがグルーチョ・マルクスよりは正気な国家首席であること を(私はまあそう思っているけれど)。
http://www.asahi-net.or.jp/~KZ3T-SZK/mar_war.htm

 もっと派手にブチあげるかと思った産経新聞がやや控えめ、読売の方が“開戦は当然、日本の協力も当然”とかなり前向き。アメリカの母から電話、日本の友人たちから“アメリカはテロが怖い、早く日本に帰ってきて”と連日、FAXやメールが来るそうだ。日本だってアメリカへの協力を明言していて、しかもガードが甘いどころかまったく出来ていない。むしろ危ないのはこっちの方ではないのか。4月に初孫のお宮参りで帰国するのだが、“もしものときのために”と、いろいろ必要事項を伝達される。“でもね、湾岸戦争のときを思い出すわ、パパがビール飲みながらテレビ見ていてね、「ああ、昔はラジオの大本営発表を灯火管制の下でビクビクしながら聞いていたけれど、こうしてヨソの国の戦争をビール飲みながら見物できるんだから、いい時代になったなあ」って言ってたのよ。あの人、戦争好きだったからねえ”と言うの に笑う。

 昼はパックご飯を温めて、納豆とおつけ。おつけの実はジャガイモとワカメ。開田あやさんから貰った『人妻教師白衣の痴態』(ベストロマン文庫)を読む。短編集だが、表題作が養護教諭と男子生徒のセックス、『リアル・プレイ』がエロゲーオタクの専門学校生同士のなりゆきセックス、『若妻淫ら介護』がタイトルそのまま義父とのいけない関係で、『女は楽し』がレズ、『内緒でチェンジ!』が一卵性双生児の入れ替わりというオタクもの定番のネタでのSMレズと、入れ替わった相手の恋人とのセックスと、設定が全部違うのが凄い。この器用さが吉と出ればいいのだが。

 2時半、家を出て、四谷荒木町太田出版。『と学会年鑑』の図版用ブツだが、今回はコワレものがあるので、宅急便で出すよりは、と持参することにした。時間より少し早めについたので、少しあたりをブラついていたら道に迷い、結局10分遅れ。何のことはない、太田出版は井上デザインとよく行く『どど』の、ホンのちょっと路の奥の方にあるのであった。エレベーターで二階の編集部に上がり、Hさんと一緒にまた一階の会議室へと降りる。私は基本的に編集部への出入りはしないタチのモノカキで、ここも今回来たのが初めて。太田出版と言えば仮にも現代思想から悪趣味系までをカバーするサブカルチャー系の一方の雄で、『完全自殺マニュアル』『消えたマンガ家』などというヒット作もあり、雑誌も『QJ』はじめいくつも出している中堅出版社なんだから、それなりにこじゃれた編集部なんだろうと想像していたが、フロアに資料から在庫からが積み上げられ、せまいスペースに人が肩を寄せ合ってシコシコと仕事しているという、昔ながらの編集部風景で、何か、ホッとする。倉庫みたいな会議室で、Hさんにブツ渡し。ウケてくれる。

 いろいろ雑談。なぜか、いつもHさんの前だと饒舌になり、東京大会のこととか声ちゃんのこととか、若手ライターでは誰が見込みあるかとか、オタクというカタチが残るのはこれからどの分野かとか(オタク大賞のときも発言しているが、もはやアニメやゲームだけでオタクは語れない)、混沌的文化こそ大事なのだとか、しゃべりまくってしまい、ふと気がつくと二時間近く、駄弁をふるっていた。酒飲んでのおしゃべりはタアイないことばかりだが、こういう、しらふで業界の今後を憂えるみたいなことを話す機会は、ありそうでなかなかない。ちょっと上滑りしていたかも知れず。

 別れて、地下鉄で青山へ。昨日雨で行けなかった、講談社用のネタの取材&撮影。国連大学がネタなのだが、入ってみて、思った通りの絵が撮影できて、なかなか充実した仕事になった。国連大学の名板の前に、“Peace”と書かれた札のついたバラの花が一本だけ、立てかけられていたのが、妙にカッコよかった。しかし、この騒ぎの中で、それに関する展示やお知らせのようなものがどこかにあるのかと思ったが国連関係の新聞の切り抜きが二つばかりボードに止められていた(それも二階の通路に)だけで、一切そういう生臭いことに関するメッセージはなし。国連とはやはり、非常時に役に立つ組織ではないな、ということが実感できたのみ。そこからタクシーで帰宅。

 8時半、K子と神山町『華暦』。カワハギとマグロの刺身、カンパチの煮付け、セリの胡麻和えなどで酒。K子が首の後ろのスジが痛いという。また去年のような頭痛か、と少し心配したが、どうも昨日、ベランダを片付けた筋肉痛らしい。お互いに体がなまっていることである。水泳教室にでも通うか。生ビール、日本酒一合、それとウイスキー水割り一杯。小雨降って陰気な晩である。

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