裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

木曜日

ぼっけえ、きゅうてえ

 とっても可愛いという岡山弁。朝、6時に目が覚める。細辛湯のせいか? 本など寝床で読んで、7時15分離床。朝食、ソーセージと胚芽パン。果物切らした。スーパーモーニングで拉致被害者家族が川口外務大臣に怒る怒る。怒りの理由はわかる。わかるが、あまり怒ると、何かこの人たちに逆らってはイケナイのか、と世間は少し引き始めるんじゃないか。リクツじゃない、感情のレベルで。

 とはいえ、チカマにこういう危険な国があり、今朝もノドン発射準備の徴候があった、と報じられている状況において、アメリカが“拉致はテロ”と明言したことが、どれだけあの国に対する威嚇になったかを考えると、今回の訪米の意義は大きいだろう。軍備を所持しない国がいかに文句を言おうと、軍事によって成り立っている国は屁とも思わない。価値観が違うからである。世の中はパワーゲームだ。将来的に北朝鮮を法廷に引きずり出し、その脅威を取り除くには、アメリカさんの軍事力をアテにしないといけないのである。イラクなどという遠い国だから実感なく平和だ非戦だと日本人はわめいているが、今の日本は自分は丸腰で、アタマのおかしくなった隣人が出刃包丁を研いでいる状態なのである。対イラクでアメリカが弱腰になれば、金政権はもはや、アメリカを脅威と思わなくなり、日本をさらにナメてかかることは自明の理。それでもやはり平和が一番、というなら、北朝鮮問題でも、ソレを言うべきなのではないか。フセインは悪だ、というキャンペーンに反対するなら、金正日を悪の権化のように言うのはいかがなものか、と言う声がも少しあがってもいい筈なのだが、それがさっぱりなのはどういうわけのものか。所詮は遠吠えにすぎないのか。

 ……などと言うものの、ホワイトハウスの食堂で、フレンチトースト、フレンチフライを、イラク攻撃反対のシラク大統領に対する不快感から“フリーダムトースト”“フリーダムフライ”に変えた、とかいうニュースを聞くと、アメ公てのは馬鹿だねえ、と笑えてきたり。ところで、今回の戦争に『サウスパーク』の作者たちはどう反応してんのかな。映画版であれだけフセインを悪役に描いていたのだが。

 扶桑社Oくんから、やっとゲラがあがりました、と電話。入れ違いに鶴岡から、その件で電話。今はとにかくこれを早く終わらせて、次の『愛のトンデモ本』にかかってほしいという思い。夕刊フジから電話。いきなり“で、『近未来蟹工船』ですが”とか言われて、ちょっととまどう。ナニゴトカと思ったら、アルゴの細谷さんからの紹介で、馬鹿映画近辺のことについて話を聞かせてほしい、ということだった。細谷さんからお話あったと思いますが、と言われるが、記憶にない。この数日はこっちも心が上の空だったし、聞いて忘れていたのかも知れぬ。

 少し電話で話し、あとはでは4時に会って、ということに。原稿書くが進まず。何か口の中が乾く感じ。腹も空かず、二日続けて昼を抜かす。牛乳一本飲んだのみ。扶桑社のゲラ、届く。漫才的な面白みは十分あるが、読み物として読んだとき、どれくらいの人が面白がるか、だなと思う。とにかく、進行しだしたのはめでたし。

 4時、東武ホテルロビーで夕刊フジの人、待つ。10分後れで、それらしき人が来る。直前に、同じくロビーにいたひげ面の人が出ていったのだが、その人に“カラサワさんですか”と訊いていた模様。イエ、私です私ですと、挨拶し、時間割へ誘導。夕刊フジ編集局M林さん。よくあるタイプで、話や動きに前フリがなく、立ち上がるときでもいきなり立ちあがるという人。最初はとまどうが、こちらの話しはよく聞いてくれる。こっちが話している途中、やはり唐突な感じで“私もいろいろ映画関係者や作家の方々に取材しますが、このように原稿にまとめやすいカタチでしゃべってくれる人は初めてです”と言って、“今後の参考にお聞きしたい”と、日本の文化状況のことなど質問してくる。童顔なので、まだ30になるやならずだと思っていたら、もう40だそうだ。

 こっちもいろいろ、現在の文化状況を聞く。一番ショックだったのは、BOX東中野が、今の松梨智子作品上映を最後に閉館というニュース。去年の夏、ヤマトでトークした際、“来年の夏にはソルボンヌさんの企画で上映しましょう”とか盛り上がっていたのだがなあ。映画がらみの企画が出来る場所がどんどん少なくなっていく。

 1時間半ほど話して出る。M林さん、別れ際にまた唐突に“僕、40ですがまだ独身なんです”と言う。“頑張って下さい”としか言えず。別れて、その足で青山に向かい、紀ノ国屋で買い物。今日は自宅で、と思っていたがいろいろ雑用重なり、外で食べることにする。帰宅して留守録聞くと加藤礼次朗さんから電話あった。“じゃあ携帯にかけます”ということだったが、携帯は鳴らず。あとで思い出したが、新しい携帯の番号を教えてなかった。こないだのインタビュー担当のOさんからはメール。清酒『作(ザク)』と焼酎(度数三倍)の赤い作、の話をしたのだが、バンダイの人 にそのことを教えてやったら手を叩いて喜んでいたそうな。

 書庫で太田出版の年鑑本ブツ探し。1冊を除いて、なんとか全部揃う。その1冊もあるところは大体わかっているのだが、その山を崩して出して、また山に直す、という作業がめんどくさい。ビデオのブツは、動きがないと面白さが伝わらないものなので、別のものに差し替え。その旨太田のHさんにメールして、7時、また時間割(私にとっての客間みたいなものである、この店は)で、ワールドフォトプレスヌカタさん。

 フィギュア王原稿の図版ブツを渡し、雑談いろいろ。ここには書けない話も多々、聞いて、ひっくりかえって笑う。町山さんのことも出て、やったことは正しいにしてもも少しオトナになってくれんと、と電話で注意したが、あっちはまったく邪気がなくて、“オレ、なんも悪くないもん”と言ってけろりとしているとのことで、いかにも彼らしい、と苦笑。今回の件では町山氏に対し批判的な立場にたってしまったことは申し訳ない。しかし、その行為を痛快と思いながらもただ笑ってすませられなかったのは、やはり“人に言いつける”という行為が釈然としなかったからであろう。出版業界が自らの言論の自由を守るのに必要なのは自浄力をつけることだ。他者の目や力をアテにすることではない。それが言論の自立、ということではないか。バスや電 車の中で騒ぐ子供に
「ほらほらボク、そんなことしちゃダメ、こわいおじさんが見てるでしょ」
 と、注意する若い母親がいる。私も勝手に“こわいおじさん”扱いされたことが何度もあるが、あのような情けない真似はしてくれるな、というのが正直な気分であった。エロの取締に官憲が介入するのはけしからんが、差別問題にSWCがものを言うのは別だ、というリクツは通らない。そして、冗談半分で投げたものでも、自分の手を放れた雪玉は、どう転がってどこまで大きくなるか、投げたときには判断がつかない。そのときに“オレ、なんも悪くないもん”ではすまんのである。もう、それがわ からない年齢ではないだろう。

 8時20分、新宿でK子と。伊勢丹で天ぷら食べて、久しぶりに二丁目に行く。米子ちゃん(米屋の前で声かけられるのを待っている立ちん坊)がいるが、ジャニ系の可愛い子なのに驚く。なんで立ちん坊なんかしてるのか。『いれーぬ』、タケちゃんは完全にうちの母のファンになっている模様。入ったときはわれわれだけだったが、やがて女性二人組、あと業界人らしい人、この界隈の住人らしいおじさんなど、客、頻々で繁盛。話がはずんで、K子がなかなか帰りたがらない。業界の人は日刊スポーツの記者で、“唐沢俊一さんですよね? よく読ませてもらってます”と帰り際に挨拶された。ひさびさに完璧な飲み過ぎ。

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