裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

火曜日

空挺ハニー

 このごろ流行りの女の子、落下傘背負った女の子。朝、7時45分起床。夢頻々。ウルトラセブンの円盤龍ナースの回のリメイク作品を見るが、ナレーションが三遊亭圓生であるとか、文化人四人で沖縄出身のアイドルを取り合うゲームだとか。このアイドル“役”の子は、銀座の漫画協会で事務をやっていたWさんだった(別に沖縄出身でもなんでもない)。美人だったが、私はその頃美人というだけでチヤホヤされている女性というのがキライで(いや、彼女に能力がないというわけではなかったろうが)、いろいろいじめたりしたものである。健康な夢じゃないであろう。朝食、豆サラダ。ガルバンゾー豆を少し入れすぎた。果物はタンカン。寝ぼけたような味。

 ブッシュが愚であるのは、イラク攻撃の正当な口実を見つけるために長々と時を費やしていることであきらかだろう。そんな緊張状態が長々続けば、厭戦感が国にも世界にも広がることは当然の話だ。ブッシュが巷で言われているような戦争マニア、覇権主義者であれば、今、アメリカににらまれて何か言える国などないのだから、さっさとミサイルをぶち込んでおいて、相手の反論を不可能にしておいてから、実はこうでした、と説明するのが一番のはずだ。外交における正義とは強国の意志の意であるという原則をわかっていても、周囲の評判を気にしてなかなか手を下せない、所詮は戦争を知らずに育ったお坊ちゃんなのである。……ということは踏まえた上で、私はフセインとブッシュのどちらを支持するかと言われたらブッシュを支持する。なんだかんだ言ってもブッシュは民主主義に乗っ取った選挙で選ばれた大統領、フセインはクーデターで政権を握った独裁者(実際はクーデターで政権を握ったのはバクルで、フセインはその後を継いだのだが、政権初期から黒幕であった)だからである。彼が今の地位につくまで(ついた後でも)どれだけの粛正を行い、ライバルや批判者を死体にしてきたか、それを思えば、どちらに組みするべきか、帰趨はあきらかなはずである。

 いたいけなイラクの子供の写真を掲載し、“ブッシュはこの子らを殺そうとしている”とか訴えているマスコミがある。心が痛む。しかし、フセイン政権下では、フセインのポスターにコーヒーをかけただけで、その者は処刑される。現状においても、彼らは命をその程度の軽さで扱われているのである。こないだニューヨークの反戦デモで、ブッシュの人形を縛り首にしてはしゃいでいる連中がいた。彼らはそういう行為が許されるアメリカという国が、いかに特殊な国であるかということをわかっていないらしい。好戦主義者も馬鹿だが、反戦主義者も同程度に、いやそれ以上に馬鹿なのがアメリカという国である。ましてや、そういう騒ぎに乗っかって、日本でもその真似をするヤカラに至っては……。

 午前中は昨日の書きかけの『男の部屋』原稿。余計な部分(ギャグも入っていたので惜しいのだが)削り、文の首尾をきちんとすることにこれ務める。完成して11時半、メール。それから引き続いて、『フィギュア王』原稿にかかる。12時半、途中だったが外出、東急ハンズでビデオヘッドクリーナー買い、東急本店地下で買い物をして帰宅。

 昼食1時半、おとついの鯛の残りを醤油に漬け込んでいたもので鯛茶漬け。湯がぬるすぎて失敗。豆乳のんで、仕事続き。フィギュア王、当初頭に思い浮かべていた内容とかなり違ったものになってしまったが、なんとか完成。4時に編集部、及びイラ ストのK子へメール。

 それから、今日の『鬼畜大変態スペシャル』のためにビデオ編集。いつぞや、やはりゲストで招かれたときは鬼畜大変態なんだから、と、フケ専ホモビデオなど持っていき、一応公共施設であるなかの芸能小劇場から“本来はこういうものは上映されるとまことに困るのですが……”と言われてしまったので、今日は極めておとなしいものとなる。カタツムリ同士の熱烈な抱擁、ブレジネフとフルシチョフの濃厚なキスシーン、定番ネタでオタクのセックス、1929年のエロアニメ、チンチンにピースマークを入れ墨しているアメリカのホームレスおじさんなどの画像。

 5時半、家を出る。駅でSuicaを初めて使うが、なかなか快適。“スーパー・アーバン・インテリジェント・カード”の略だそうだ。こういう無理な略称が昔、何かカッコよく見えて、好きだった。ナポレオン・ソロの組織アンクル(U.N.C.L.E.)が“ユナイテッド・ネットワーク・コマンド・フォー・ロー・アンド・エンフォースメント”の略称で、敵対するスラッシュ(T.H.R.U.S.H.)が“テクニカル・ヒエラルキー・フォー・ザ・リムーバル・オブ・アンダーシラブルズ・アンド・ザ・サブジュゲーション・オブ・ヒューマニティ”である、なんてのを一生懸命覚えたものである。都筑道夫の『スパイキャッチャーJ3』に出てくる組織、チューリップ(T.U.L.I.P.)は“ジ・アンダーカバー・ライン・オブ・インターナショナル・ポリス”であるそうだが、こういう略称にTHEは普通入れないのではないか、とか、どうでもいいようなことにこだわっていた。

 楽屋入り、本日は出演者が豪華というか多彩で、いつもの快楽亭、梅田佳声先生の他に林家しん平、川柳川柳、笑組、それと私というメンツ。しん平さんは自分の作った『ガメラ4』がSF大会に参加、さらに宮崎映画祭にも正式参加作品として招待された、と意気軒昂。秀次郎はいつもうるさくかまってかまってとつきまとうが、さすが4月から小学生だけあって、おとなしく読書(クレヨンしんちゃん)していた。前座のブラ汁、ブラッCに6月のトンデモ本大賞東京大会のテカを依頼。笑組さんが、
「初めまして、笑組と申します」
 と挨拶してきてくれたので、
「イエ、実はもう十二、三年くらいも前に、横浜そごうの寄席に小野栄一のスタッフでついてまして、そのときにうちの若いののミスを見つけていただいて、危ないところ助けてもらったことがあります」
 と話すと、“ああ、小さん師匠の名前を林家小さんと書いた……”と、ちゃんと覚えててくれた。恥ずかしい事件であったが、思い出を共有しているというのは、なん か嬉しい。宮田くん、M川くんなど、ビデオの用意。

 客は7分の入り。告知が行き届いていなかったこともあって、イマイチであったがしん平が“いや、『鬼畜大変態』ってタイトルでこれだけ来るのはスゴイですよ”と感心していた。女性客が多いのはどうしたわけか。開口一番がブラッC、それから笑組、で、いきなりブラック、しん平と続く。快楽亭の『イメクラ五人回し』、今日は四人しかやらなかったが、まあ今まで聞いた中でもノリはベスト。楽屋に遊びに来た談之助さんと、しん平の落語聞きながらパロディって難しい(客層にあわせるのが)という話をする。その後がゴジラかっぽれ。自作のゴジラのぬいぐるみをかぶって踊るかっぽれ。袖で談之助、ブラ汁と一緒に“ヨイヨイ、ヨーイ”とか、囃す。大変な芸だなあ。かぶりものの造形に驚く。職業を間違えた人だな、この人も。

 それから川柳師匠。例により飄々と楽屋エロばなし。ここで休息、幕間にスクリーンを下ろして、さてそれからビデオ上映。マイクを手に解説。オタクのセックスとかやはり馬鹿ウケ。その後が佳声先生、珍しく出トチリがあった。紙芝居台の上に拍子木を置いたまま高座に出してしまったからで、拍子木を叩きながら出てくるいつものパターンが出来なかった。それでも、始まればいつもの通り。今日は孫悟空ものから 『女人国』の巻、さらにおなじみ黄金バット。快楽亭、今度の自分の企画に小沢昭一を呼ぶとのことだが、“小沢さんにも紙芝居は見せてやらなくちゃ”と、布教に務めている様子。

 終わって、会場のお客さんに挨拶。鈴木くん、QPさん、殿様、IPPANさん、水民玉蘭さんなど。開田夫妻はゆうべ風邪で七転八倒だったということだが、病み上がりにもかかわらず来てくれた。しかも、新感線の逆木圭一郎さん連れて。打ち上げに誘ったのだが、逆木さなんは稽古があるとのことで、開田さんたちは体調で、来られず。あやさんから単独では処女出版になる『女教師 白衣の痴態』いただく。

 久しぶりに『俺ん家』。K子もフィン語終えてくる。川柳師匠が酒が入って例のごとくご機嫌になり、“上原敏はいいねえ”と『上海だより』を歌いだし、さらに灰勝からバタヤンとメドレー、佳声先生がいささか呆れながらもそれに和して、72歳と74歳の朗々たるコーラス。別の席にいた若いグループが、ナニゴトが始まったか、とのぞきこんでいた。快楽亭が“ちと密談を”と私を脇に呼び、佳声先生がらみで、ちょっと大がかりなプロジェクトを。その間も川柳師匠おさまらず、ついにラッパが出たところで、みんなザザッと退場。佳声先生、川柳さんを評して曰く“怪獣だね、あの人は”と。残った川柳さんにはブラッCがついたそうだ。ブラッCは川柳師匠のあのノリが好きであるらしい。川柳師匠も、会場を出たところで、“アイツ、初めて木久ちゃんのところで見たとき、てっきり精薄児だと思ったンだ。そしたら、つくしの奴が、「師匠、彼、案外インテリですよ」って言ってきて、なるほど、話していることきちんと聞くと、なかなかしっかりしてるしさ……”と、気に入っている様子。いいコンビなのかも。宮田くんには、近く佳声企画で打ち合わせを約す。

 とらじで冷麺食いたかったがK子がラーメンがいい、というので談之助さんつかまえて、近くのラーメン屋でビールまた飲みながら雑談。“川柳師匠は二つ目で売れていた頃、小さんさんが「面白いから真打にしましょう」と言ったのを圓生さんが「あんな色物は駄目でげす」と取り下げて、それで荒れて酒におぼれるようになった、と円丈さんの本に書いてありましたが……”“イヤそんなことないです、昔からとにかく好きだったンです”などという話。今年は談之助さんも中野使っていろいろ企画をやるということ。楽しみである。食って出るが、風邪が身を切るように冷たい。タクシー乗り合いで帰宅。1時ころ。

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