裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

ヘボン・明星

 ローマ字でスター情報を伝えます。朝方、イギリスの郊外の、古いビルの地下にある医学博物館を見学に行く夢を見る。昔よくあった、壁の下が淡いブルー、上がクリームイエローに塗り分けられた、寒々しい建物内部。夢の中に出てくる建物は大体においてきわめて寒々しく、そして懐かしい。目がさめて、しばらく布団の中でぐずぐずと。聾唖者の少女がロボットに乗り込むアニメなどはどうか、とか考える。いや、『おしのこえ』、と言いたいわけなのだが。

 朝食、豆サラダ、ブラッドオレンジ。小雨がパラつく天気。体調すぐれず。最近のこの、手足のしびれはやはり寒さのせいなのかね。日記つけ、太田出版の『と学会年鑑』の私の担当分のテープ起こし原稿チェックに入る。やはりしゃべったものというのは内容をきちんと紹介しているものではなく、ほぼ全面的に改稿。予定では今日中か、もっとサクサク行けば午前中に終わらせるはずが、結局一日かかって半分しか行かず。しかし、洋書の資料などを読み込む作業というのはこういう“仕方ナシに”やるときでないとすぐ放り出してしまうので、きちんと読むいい機会でもある。

 昼は冷凍庫の牛肉と葱、エリンギを煮込んでまたカメチャブ。このあいだよりはうまく出来た。食ってまた原稿。3時に、出来たところまでとりあえずメール。体がなまったので、散歩がてら外出。原宿の方へ歩く。原宿で行われている、こないだ花を送っておいたDちゃんの個展をのぞこうと思ったが、渋谷に住んでいながらの田舎モノで、個展会場のLAPNET SHIPなるところのあるフォレット原宿の在処がわからず、少し迷う。十分ほどあちこちあるいて、やっと見つけたときには背中に汗をかいていた。会場には『ファンタスティック・サイレント』や『キグルミ』の原画の他、いつぞや私通じて連絡先を教えたベアブリックの2003年バレンタインモデルもちゃんと置いてある。

 これまでのDのモチーフキャラクターは“あくま”という熊のぬいぐるみだったが今回は新しく、DEETHという、“歯”のキャラクターをメインに出している。歯がキャラクターというのはなかなか凄い。犬歯らしく、二人(二匹か)いて、片方はツノが二本あるが、もう片方は一本。感想ノートがあるのでパラパラ見ていたら、歯科衛生士だという女性からの書き込みがあり、“左の方の歯のツノが一本なのは交耗を表しているのですか?”とあった。こういう場でいきなり“交耗”なんていう専門用語が出るのが可笑しい。三々五々、若いカップルが入ってきていた。

 そこを出て、さらに青山まで歩いて紀ノ国屋で買い物。帰宅して、三鷹の井の頭こうすけ氏の元に図版用ブツを送る手配。ゆまに書房から送られた解説文ゲラに赤入れし、ふゅーじょんぷろだくとから送られたベストアニメ解説文原稿に赤入れする。と学会のMLで、新百合ヶ丘のマイカルでは『ボーリング・フォー・コロンバイン』、不入りにつき今週で打ち切りとのニュース。反米一色のマスコミがやたらに持ち上げすぎ。家族で見にいく映画じゃあない。笛吹けど踊らずで、国民は案外サメているんじゃないのか。

 6時半、新宿でサウナ&マッサージ。今日はサウナ貸し切り状態で、気分よく汗をかく。ただし体重は1キロ増。外食が続いたからなあ。マッサージ、むちゃくちゃ強く揉まれるも全然痛まず、気持ちよくて眠ってしまった。脳への血行よくなったと見えて、ダジャレがいくつも浮かんでは消えていく。9時、そこから幡ヶ谷に直行。K子、藤井ひまわりくんとチャイナハウス。雑談いろいろしながらビールと紹興酒。マスター、こないだ上海で満漢全席を食べてきた話。また近く、あちらへ行って、今度は虎を食べてくる、という。“パンダも食べたいねえ”“あれは食べられるんですかねえ”“剥製にするとき、肉が残るでしょう、あいつら、あれきっと食べているよ”“草食だからうまいかも”“しかし、捕っていいんですか”“野生のものが家の中に突然入ってきたら、自己防衛のためと称して殴り殺しても”“パンダは別に危険じゃないでしょう”“色盲なので熊と間違えた、と言う”“そんな色盲があるかな”“黒白色盲”“それは色盲じゃなくて単なる盲なのでは”“だいたい、パンダがいきなり家に入ってくるのか”“パンダコパンダだね”などと(一部脚色)。

 メニューはチャーシュー(黒酢かけ)、アヒルの舌の八角風味煮、うるいとイノシシの炒め物、焼売、のれそれの卵焼き、豆苗と干しエビの炒め物、スッポンの炒めもの、それに里麺。イノシシ肉の濃厚な風味、豆苗の、まるでミルクのようなまろやかな甘味(藤井くん絶賛)と、それに見事なアクセントをつける干しエビ(アミみたいに小さいのだが)の塩辛い旨味。スッポンは小さな卵がいっぱい入っていて、これがまた実にうれしい濃厚さだったのだが、マスターに言わせると今回の卵は小さめだった、も少し大きいと、これだけで卵焼きが出来るのだが、とのこと。スッポンの卵の卵焼きというのはちょっと想像がつかない。いつもは焼売はちょっとここの料理にしては普通すぎ、という感じだったのだが、今日のは実に結構。最後の里麺、三人で二つもとってしまってK子に叱られたが、何のことはない、すっかり腹におさまってしまった。帰宅、少し微熱あるかな、という感じなので、改源風邪薬と小青龍湯をのん で寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa