裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

金曜日

うるわしきウルフガイひとつ

 去り行ける君に捧げん(捧げられても)。朝、少女と巨大な注射器の同棲という、よくわからぬシチュエーションの夢を見て目が覚める。7時15分。朝食、いつもの豆とオレンジ三切れ。雨瀟々。スーパーモーニングのオープニングはいつも“懐かしの歌謡曲”を流すが、今日の曲は小山明子『恋に落ちて』。サビの“ダイヤル回して手をとめた”は、もう小学生などには通じなくなっているのではないか。電話をかけるときのオノマトペ“ジーコ、ジーコ”ももう死語だろう。

 三浦和義無罪判決の報道を見る。あれから21年、彼は55歳で健在だが、『おれたちひょうきん族』でフルハム三浦と名乗っていた景山民夫はもういない。改めて時の流れを感じる。景山民夫が“本物”と握手しながら、“ホントはこの人がやったんですよ”とギャグをかましたのが凄かったし、それで笑っていた三浦氏も、実にいいタマであった。ギャグというのは、言うべきときはどんな時、どんな場所、どんな場合でも言わなくてはいけないのだな、と私は景山民夫に教わった。その人があんなザマに、というのもまたショックで、それだけに、ギャグに生きることの難しさを改めて考えたものであった。不謹慎、というなら全てのギャグは不謹慎なものだろうし、 不謹慎だからこそギャグになるのである。

 とか思っていたら不謹慎発言満載の自著『社会派くんが行く! 激動編』見本刷り届く。パラパラ読んでみるが、まあ二人とも(私、村崎百郎)気を使っているいる。いや、二人とも実は根は善人なのであって、なんとか不謹慎なことを言おう々々と努力しているのが、発言者当人が後から読むと丸わかりで、かなり恥ずかしい。読者にはわからないからいいだろうが。根っからの不謹慎になるのは本当に難しい。

 今日の朗読ライブの資料コピーを声ちゃんとベギちゃんに送る。FAX機の相性が悪いのか、届いたのが不達か、よくわからず、スッキリしない。一方で、作品の選定などは、それぞれにバッチリのを選べたという満足感もある。まろんちゃんに読ませる女王様ものはいいのが見つからなかったので、思いついて、女装癖のある男性の告白文を読んでもらうことにする。二重倒錯というか、ベルサイユのばら風というか。昼はいなり寿司を食って、それから外出。雨の中、東急本店地下で買い物。帰宅したとたん、ドッと疲れるのは雨のせいか。下がるテンションを上げるには甘いものがい い、と聞いたので、みたらし団子を二本、食う。

 廣済堂の原稿書き。今日、会場に来るというので一本だけでも書き上げねばならない。フロッピー読み取りが不調で、ちょっとこれで時間くってしまう。斎藤さんから今日のライブについて何度か確認電話。張り切っているなあ。なんとか書き上げて、 プリントアウト。Iくんに会場で渡す予定。

 タクシーで歌舞伎町。事務室で斎藤さん、ベギちゃんと雑談。やがてまろんちゃんも来る。宇多まろんは激鬱で、なんとか朗読は出来ても、ラストの即興芝居は無理かもとのこと。構成を変えて、声ちゃんとベギちゃんの二人でやるべく、いろいろ考える。やがてまろん来る。思っていたよりは大丈夫そうだが。ベギちゃんと三人で、ロフトプラスワンの入っているビルの裏手にある蕎麦屋で腹ごしらえ。ベギちゃんの家に、カレシに暴力ふるわれた友達が転がり込んできて、いま大変らしい。まろんは、なんとかテンションを上げようとしてがんばってくれている。なんかけなげだ。またまろんのその不安定状態に対する、ベギラマのフォローがごく自然体でいい。転がり込んだ子も多分そうなのだろうが、ベギラマはそういう状態の子にとっては凄まじい慈愛の存在だ。バランスの崩れかけた相手を自然に受け止めて、さりげなくフォローしている。彼女とつきあった男性には、知っているだけでもTとかIとかHとか、魔性の女にでも出会ったかのようにハマってしまうパターンが多く、本人は魔性とは対極のタイプなのに、不思議だなあ、と思っていたのだが、その訳がわかった気になった。テンパっているときには世界中が自分の敵、とか思いがちで、また、そう思いがちな心性の持ち主というのもまま、いるものであり、そういう精神状態をこういう子が受け止めてくれれば、それはもう離れられなくなってしまうだろう。ネガの魔性なのかもしれない。

 7時半、開演。雨のこともあり、客足が不安であったが、いつものことに三々五々入り続け、最初のトークが終わって朗読に入るときにはほぼ、満席。女性客が一回目より目立ったのが面白い。ベギラマの、モロな裏エロ朗読、まろんの女装男性告白の朗読、いずれもよし。黒服で壇上にあがっているまろんは、しかし決まるな。ベギラマの朗読の最中に声ちゃんも来て、きちんと乗馬服に身を固め、朗読の練習をしている。今日の朗読は『奇譚クラブ』からの乗馬切腹ものである。この乗馬切腹ものは、そればかりをえんえんと何年も奇クに投稿していた人(女性)がいて、本人は腸結核で余命いくばくもないという自称で、残された命の中で、自分がこだわる女性の乗馬服姿の切腹をとにかく、一編でも多く書き残しておきたいと思っていたのだそうである。そういう、気合いの入ったものを、天然の声ちゃんが読むアンバランス。

 なにしろ、声ちゃんのあの“声(コエとカタカナで書きたい)”である。それが、「武運つきた女将校が、どのような最期をとげるか、語りぐさによく見よ!」
 とか言うのである。
「すぐ、おあとからまいります。……ごりっぱでした。天皇陛下の万歳を!」
「お、おお……。……てん、のう、へい、か……ク、クククク……ば、万歳……」
 とかやるのである。最初思いついたときには自分一人でキッキッと喜んでしまったものだが、さて、実際にやるとなると、果たしてどのようなものになるか、私にも全く想像がつかない。案の定、始まるや否や、凄まじい世界が展開し、楽屋でK子と私とベギ、まろん、全員、その一言々々に大爆笑、腹を抱えた。ちょっと対人関係で気むずかしい印象のあるまろんが、“私、この子となら仲良くなれるかも”と言ったほどだった。客席の、どう反応していいかわからぬとまどいが、さらにこっちの笑いを 誘う。これは金のとれるシロモノですぜ。

 その後で、私が同じく奇クからのトンデモSM小説『涙は宇宙空間に輝く』朗読。人種差別撤廃運動にいそしんでいる白人女性と日本人女性が、ショッカーみたいな大組織であるK・K・K団に捕らえられ、拷問を受けた末にロケットで宇宙に打ち上げられてしまうという話。時間が押しているのでかなりはしょって読んだが、笑いと手 はとれた。漫画化したいねえ。

 で、お待ちかね(いや、観客がではなく、出演者たちが)の好美のぼる・作『にくしみ』。せむしのコスプレをしたコエと、ネグリジェ姿のベギラマとのかけあいに、ナレーションでまろんが。まろんが上がってくれたのが嬉しい。全員、大ワルノリ大会であった。満場大爆笑。11時撤収、が最近のロフトプラスワンの鉄則なのだが、これだけやって10時45分には終了。いやにサクサクすすんだ。みんな、異様なテンションになっている。私も脳内麻薬出まくり状態。朝方は、連絡の不備(こっちの責任)などでイラつき、だいたい、モノカキはきちんとモノだけ書いていりゃいいんだ、その方が不義理もしないし、金も貯まるんだ、なんでこんなわけのわからんイベントを、いい年して俺もシコシコやっているんだ、などとブツクサ言っていたものだが、上がってみると、いや、やはりこういうライブはやめられませんて、と考えがコロリと変わる。このストレス発散法があればこそ、私もモノカキなどという地味な仕 事を続けていられるのかもしれない。

 楽屋に、町田ひらくさんが訪ねてきてくれる。お互い、いつも読ませてもらっております、と挨拶。確か作中に美少年抱いちゃうカラサワって人物が出てきましたね、とか話すと、町田さん、あ、詩を書くやつですね、と。好美のぼるの単行本を見せたら食い入るように読んでいた。『猿少女』の主人公が、胸をはだけられてメスをあてられるシーンに、“あ、これ、キます”とのこと。好美のぼる作品でクるとは、さすが町田ひらく。出演者に町田さん、客で来てくれたS井さん、FKJさん、談之助さんなどと青葉で打ち上げ。青島ビールで乾杯。ベギ、まろんと、『にくしみ』をCDドラマにしよう、とか話す。と学会関係者は東京大会のバッジのロゴをどうするか、などという話をしている。町田さんとは単行本の誤記・誤植ばなし、三浦和義ばなしなど。逮捕直前の本人と会った談之助さん曰く“一言二言話しただけで、あ、やってるなコイツ、とみんな納得してしまう人物なんですよ”と。町田さんは私の朗読のことを“弁士みたいだ”と。カエルの唐揚げを、コエが“わあ、カエル、カエル”と、嬉々として食べていた。こういう子はいいな。12時半ころ、解散。歌舞伎町近辺はまるでホストの全国大会かというくらいに、路上に黒コートどもが大勢出て、女性たちを誘っている。ボラの大発生を思い出した。タクシー、途中まで談之助さんと乗り合い、東京大会の前座の人選など。1時半帰宅、疲れがどっと出るが、それも心地よし。いそいそとベッドに入る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa