裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

土曜日

マニキュア二階で木遣りの稽古

 オカマの木遣りくずし。朝8時起床。朝食、豆の冷スープと巨峰。テレビ『ウェークアップ!』でペマ・ギャルポが拉致家族報道の過熱ぶりと情緒報道を批判。とは言え視聴率を稼ぐにはお涙、涙でいくしかないのだろう。難しいものである、日本人を“性悪”に改造するのは。ペマさんのチベットはじめ、北朝鮮などもそうだが、人の善意とか絆とかを安直に信じては生きていけない厳しい情勢下にある国から日本をみ れば、おとぎの国みたいに見えることであろう。

 某サイトで、この日記から私の年収を推定して“あんなに働いてこんなに少ないのか”と驚いている人がいた。確かに労働量に比してかなり少ないとは常々私も思っているが(思っていないモノカキはおるまい)、ここで推定されている額よりはいくらなんでももうちょっと多い。一日の原稿枚数×平均原稿料で計算しているらしいが、その原稿をまとめた単行本の印税、増刷分の印税、さらにそれが数年後に文庫に入る(文庫に落ちる、という言い方は嫌いなのでしない)ときの印税という不労所得が幸い、モノカキにはあって、それでなんとかある程度のレベルは維持できている。とはいえ、サラリーマンと違って何ひとつ保障のない自由業の身としては、もう少し増え てほしいなあ、とは願っているのだが。

 風呂から上がってベッドに横になっていたら、そのまま昼過ぎまでグーと寝てしまう。体が休息を欲しているのだろう、と判断して、無理に起きず、寝る。夢を連続して見る。ひとつは夢にタイトルがついていて、“恐るべき黒い野獣”とかなんとかいうもの。三十年前の駄菓子屋の安プラモデルみたいなものの箱をあけたらゼンマイで動く猫が出てきて、“これが恐るべき黒い野獣かい”と呆れていたら、脇からホンモノが襲ってきて仰天して目が覚めた。あとはヤクザの出入りものとか。

 昼飯はカブの味噌汁を作って、飯にぶっかけて。いわゆる船頭飯。なんでカブの味噌汁が船頭と結びつくのか。食ったらまた眠くなって、横になる。これでは原稿料稼ぎも出来ない。不労不所得である。そこらにある本を手当たり次第読む。宮台真司氏と私(それにカメラマンの飯田耕一郎氏)の座談会が再録されている『透明な存在の不透明な悪意』(春秋社1997年)も、初めて目を通す。これが出たとき、中学生時代以来の女性から電話がかかって、“カラサワくんがこんなにエライ人になるなんて……”と言われたことがあったな。

 別段エラいことも話していないような気はするが、自分が、“21世紀の少女像の典型はエヴァンゲリオンのシンジですね。性を超越した少女像です、あれは”などと言っているのを読むのは面白い。も少しこの発議を敷衍すれば面白いものになったかもしれないとは思うが、なにしろあれからすぐ、こちらはエヴァを語る連中の、自分語りの羅列でしかないことに嫌気がさしてしまった。宮台氏が、“忙しくない生活を送れとか、僕自身はいろいろ言われていますけれども、暇ができたらやっぱり仕事で埋めちゃうわけです。そんなふうにしか生きられない自分があって”と言い、それを受けて飯田氏が“その点では三人とも共通しているかもしれない。なかなか暇をつくれないよね”私“限界近くまで仕事しちゃう。暇だと次の仕事の企画立てちゃうんですよね(笑)”などと言い合っているのにも苦笑。あの頃など、今に比べればはるかに暇があったはずだ。ただし、今は限界近くまでは決して仕事をしない。今日のようにタルミをもたせた日を必ず間にはさむ。年をくって、自分のコントロールが老獪になってきたということか。

 連絡しなくてはいけないところがいくつかあるが、大儀なのでせず。結局、また寝て夕方5時になってやっと起き出す。6時からシネパレスで『バイオハザード』を観ようと思って調べたら昨日までだった。HMVなど回って、小雨がパラついてきたので帰る。原稿少し書こうと思ったが、いや、どうせここまでダラけたのだったら今日 一日ダラけようと決意してまた寝転がって洋書など読む。

 8時、起き出す。昼にゆでこぼしておいた牛タンとカブの煮物、葱とイカの酢味噌あえなどで酒。またLDでコロンボ見る。この番組の犯人役専門役者みたいなロバート・カルプ(口ヒゲを生やした顔がジョン・クリーズそっくり)の『アリバイのダイヤル』。犯行も幼稚だしコロンボの謎解きも“いいのか、この程度で”という軽い話だが、なんとなくショート・ミステリのオチみたいで好きな話だった。そのあともいろいろビデオ見散らかし、1時過ぎまで飲む。やや飲み過ぎた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa