16日
水曜日
プチャーチン東京に現る
長崎に来たと思ったら今度は江戸か! 朝7時50分起床。朝食、タラコペーストとノリをトーストに乗っけて。果物は二十世紀。昨日、コンビニで偶然見つけたものである。すでにスーパーなどの果物コーナーからは二十世紀は姿を消している。食後日記つけ。最中に小野伯父から電話があった。もちろん、このあいだの芸術祭のことである。声がかなり荒れているところを見ると、あれから飲み続けであったらしい。
妙に神妙に、音響のことなど“失敗だった”と言う。何か、芸術祭は取れないのでないか、と弱気になったらしい。“オレにとっては、自分で満足した、ということが大事で、賞はどうでもいいのさ、と言う。あれで満足されても困るのだが、とは思うが私もあまりキツいことも言えず。ただし、私が外れたことで今回のステージが、不備の多々あるものになったことは認めているようだ。これからはブレーンの言うことを聞いて、オレはただ舞台に専念するよ、と言うが、それが言葉通り実現できていれば、今みたいなことにはなっておらんのだ。そのときには俊ちゃんの力も借りたい、と言うが、はっきり言ってこれは願い下げ。私とケンカ別れしたとき、周囲に彼がどのようなことを言いふらして回ったか、こっちにはほぼ全て情報が入っているし、それに肩をすくめて、また笑って元の鞘に……と言うほど私も人格者ではない。ただ、明確な断りを入れぬということは向こうにとっては承諾とほぼ同意だろうから、後で手紙でも書いて、もう一度そこらにはクギを刺しておく必要がある。別に今は伯父をどうとも思っていない。ただ、それは距離を置いているからであって、近くに戻れば また、“どうとか”思うようになるのは必至。
ちょっと長電話になってしまった。また日記を続けて書き、書きあげて、さて、と腰を上げようとしたら、何かヘンである。腰に力が入らない感じで、立ち上がって腰をのばすと、グキリという痛みを感じる。ギックリ腰ならかがんだ時になるものだと思うが、これは背筋を伸ばすと痛む。最近オーバーワーク気味だったせいだろうか。あるいは風邪気味なのが腰の関節に来たのかとも思う。まあ、気にしないでも体動かしていれば治るだろう、と軽く考え、とりあえずコンドロイチンとアリナミンをのんでおく。海拓舎のH社長がゲラ取りに来たのに手渡し、風呂入ってしばらく休んで、 さてと立ち上がろうとしたが、まだいけない。
どうも、長時間同じ姿勢でパソコンに向かっていたのがいけないらしい。うーむ、痛いいたい、とうめき、腰を老人のように曲げて、のったらのったらと歩く。情けないことになったものだ。腰にバンテリン塗ってみるが、あまり効き目なし。少し熱っぽいかな、という感じがする。やはり、関節とかでなく、風邪からくる筋肉のシコリによる痛みだと判断。これで今日は銀座までOTCの撮影に行かなくちゃならないんだから嫌ンなる。
一行知識掲示板に指摘があったが、一昨日の日記の中の、『オーソリティ』のマーク・ミラーが『ビッグガイ・アンド・ラスティ・ザ・ボーイロボット』の作者、という記述は完全なこっちのカン違い。『ビッグ・ガイ〜』の方はミラーはミラーでも、フランク・ミラーであった。どっちも日本フリークなので混同してしまった。『ビッグ・ガイ〜』の単行本はここで日記つけているパソコンの脇の書棚にあり、ちょいと顔を右に向けて背の作者名確認すればすむことだったのに、首を横っちょに向けるという、ホンの数センチの動作の怠惰で誤記をおかしてしまった。
K子は荷造りその他に余念なし。今日から一週間、母のお供でニューヨーク行きである。こないだフィンランドから帰ったばかりで今度はニューヨークとは豪儀なものだ。見送ってやりたかったが、彼女が仕事場の方に行ってる間に、こっちは銀座に出なくてはならない。骨折のときに井上くんから貰ったステッキついて、外出。見栄えはしないが仕方なし。タクシーで日航ホテル前まで行き、そこから歩いて、撮影現場のスカしたカラオケ居酒屋『ダルマ』へ。タクシー降りて歩き出したときは一歩進むごとに痛ててて、と叫び出したくなるが、歩いているうちに体がしだいにほぐれてき て、二十歩も行くと、ステッキももういらなくなる。
現場について、すぐ撮影、と思ったが、マイクの調子が悪く、しばらく雑談。ロフトプラスワンに×ちゃんが入った、と教えてあげたら岡田さん驚いていた。しばらく数人の若い連中についてオヤジ的視点からの談義。“年取ると考え方がオヤジ的になるのは、センスが悪くなるからではなくて、世の中がホンットにオヤジ共が自分の趣味嗜好で動かしていることがわかってくるからだよなあ”と、二人で慨嘆す。話し終えてもまだマイク回復せず。また雑談。
「女房が今日からアメリカなんですよ」
「おお、では浮気をしなければなりませんね」
「したいんですけどね、やっぱりこの年になると、その後のことがメンドくさ〜、になっちゃうじゃないですか。大体、日記をどうするのか」
「完全にカバーするウソ書くのはカラサワさんの日記じゃツラいですよね」
「それに、昔なら私や岡田さんクラスのマスコミ人の浮気なんか誰も興味持たなかったけど、最近は私ら程度の艶聞でも喜ぶ情けないネット人種とか増えましたしね」
「ああ、それはフ×ギ×ア×のNくんも言ってましたね、たかだかオレの浮気くらいで2ちゃんにスレ立てる暇人までいるって。しかも、未遂なのに」
「鶴岡なんかがね、よく“やってんでしょう、相手誰ですか、え、誰なんですか”とか訊いてくるんですがね、アイツが名前知ってるような同じ業界の女なんかと、絶対やる気起きませんよ。そういうの相手は、特に私くらいの位地が一番アブナイ」
「あ、それはモ×マ×ジ×のD編集長も言ってましたねえ、同業界の女性相手だと、一方的にこちらにリスクがかぶさってくるって」
……まったく中年というのは情けない。
などというラチもない話しつつ、さらに待つことしばし、やっとマイクが回復、したのではなく、ピンを使うのをアキラメて、カメラマイクのみで音録りすることにした(またハメ録り方式だ)ため。本日は岡田さんと『謎の円盤UFO』のDVD発売(来年3月)予定記念トーク。私と岡田斗司夫を揃えておいてネタが謎の円盤UFOで、放映時間が7〜8分とは贅沢なことをするものだ、と思う。初放映時のこと、役者、声優、メカニック、ストーリィなど、だいたいのことを15分ほどしゃべって、まとめて、ハイという感じで終わり。二人とも『平成オタク談義』などでもうすっかりこのテの撮影に慣れたので、“そろそろまとめてください”のフリップが出たとたんに、話し足りてなかったことをだだだ、と語って、急転直下収斂させる。アクロバティックなまでに見事である。帰りがけ、22日の岡田さんとの焼肉オフのことなど話す。柳瀬くんが、“今度、オタキング退職することになりまして”と言う。エッ、と驚き、じゃ今度のオフは追い出し会? と言ったら、イヤ、まだ半年はいますとのこと。再就職先は未定だそうである。一瞬、“ならウチに来ないか?”と誘おうと考える。オタク的なセンスとビジネスのセンスの両方を持ち合わせる人材は貴重だ。彼は食にも詳しいが、母がひょっとしたらニューヨーク住まいの後はこっちで料理屋をやるかもしれないことでもあるし。……しかし、岡田さんのところは破天荒に見えて実はビジネスとしてはきちんと運営されていた。ウチは結局個人業で、変則的に過ぎ るかもしれない。
腰、さっきよりは回復したがいまだ本調子ならず。タクシーで帰宅、行き帰りで今日のギャラは飛んじまいそうである。マンション下のソバ屋で天ザル一杯。部屋に帰ると電話、講談社Yくん。昨日のロフトでは本の売上げ、大変によかったそうで、まず一安心、次の連載原稿のことなど。3時半、時間割。フリー編集のTくんと、出版の話。メディアミックスの『トンデモ本・男の世界』の話、その次に出すオタク史の話、さらにその後に出したいという新しい企画の話。オオ、それならと調子に乗ってこういうのはドウデスカ、と話す。彼のもってくる企画は不思議とこちらの温めているものと合致することが多い。これでまた来年の出版企画が一冊、増えた。商売繁盛は結構なことである。そこを出て、タクシーで新宿に出て買い物。タクシーで買い物は贅沢なようだが、近間に歩いていくということが出来ないので詮方なし。銀行で振り込みも数点。
帰宅、SFマガジン、モノマガジン、早川書房単行本からそれぞれ催促の留守電。なれど体が言うことをきかず。熱を計りみるに7・7あり、やはりこの腰は風邪の症状の激しいものとわかる。そう言えば岡田さんも喉をやられていた。ゆうべのロフト での殿様の劇症の腹痛も、風邪ではないか?
しばらく横になっている。11時過ぎに起きだして、何か腹に入れねばと、新宿で買った鉄火巻きをムシャつく。途中で飽きたので、残り五、六個を茶碗に入れて、上から熱いお茶をかけてほぐし、、醤油を垂らして即製まぐろ茶漬け。むかし、都筑道夫のミステリで、美女が寿司屋でトロの握りの桶を頼み、そこにお茶をかけて茶漬けにして食べる(その食べ方がトリックになっている)、というシーンを読んで、何かうまそうでやってみたいなあと思っていた。三十年後に実行できて(うまかった)満足。寝付けないので刑事コロンボ『殺人処方箋』。浮気相手の女と共謀で古女房を殺す話である。見るだに“ああ、やはり浮気はめんどくさい”である。しかし、もう十回は見ているであろうこのドラマだが、今回初めて浮気相手役の女優(キャスリン・ジャスティス)を、ああ、可愛いコだなあ、と認識した。あちらでも無名のままで終わった女優だが、コケティッシュで、肉感的で、藤原紀香にかなり似ている。これならジーン・バリーが夢中になるのも無理はない。こういう感情移入が出来るのもオジ サンになった御利益。