裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

金曜日

高血糖を叩くとビスケットがふたつ

 糖尿病のくせにこんなものを隠し持って! 朝7時半起床。朝食、K子にモヤシ炒め。私はコンソメスープ一杯。果物は種なしブドウだが、種がある。K子が留守のあいだ請求できなかった原稿料、出演料などのメモを渡す。事務仕事というものの極端に苦手な性質なので、こういうことが出来る女房をもらったことで私もやっと人並みの暮らしが出来るのである。沖縄の中笈さんに送ると約束していた本も、やっと彼女に託して送ってもらえる。

 午前中は雑用。裏モノ日記本のML開設の書き込みや、海拓舎の前書きに少し書き足してメール。それから冬コミ用のと学会誌原稿を書き上げる。昼はそうめん。この数日のドタバタで精神が疲れきっている。松文館の社長と編集長、マンガ家の三人が逮捕のニュース、直後に某業界関係者から連絡が入ったが、今日あらためて読売新聞を見るに逮捕されたマンガ家の名は本名で出ていたようだ。“ビューティ・ヘア”はまずいか、やはり? ネットで調べてみると、朝日もペンネームは出さず。産経は併 記していた。

 3時、時間割。フジテレビK氏と待ち合わせだが、なかなか来ない。電話あり、制作スタジオを出たところで車がオカマ掘られてしまい、いま、警察の到着待ちなので1時間ほど時間をズラしてほしい、とのこと。一旦家に帰る。帰っても時間が半チクなのでまとまったことは出来ず。1時間後にまた時間割。別に怪我もなかった模様である。番組にスーパーバイザーとして名前貸すこと、ネタ提供に一行知識掲示板のものを使用する許可(私がチェックする)のことなど。番組は来週月曜深夜1時半(もう月曜じゃない)から。番組名は『トリビアの泉』。“トレビの泉”のシャレであるらしい。

 また家に帰る。今日は時間がみんな半チクで、ロクなことが出来ず。6時半に家を出て、赤坂TBS。の、つもりが、時間を間違えて6時に出てしまった。早くつきすぎたのでそこらをブラつく。在東京のテレビ局、ほとんど出演したことがあるのだがTBSだけは初めて。周辺の雰囲気はさすがに一番都会的。近くのスカしたヨーロッパ式のコーヒーショップで、グレープフルーツジュースを飲んだが、いや、酸っぱいのなんの。夜に入って蒸し暑く、背広を着てきたので汗をかき、その汗の臭いが襟のところから立ち上って、非常に気になる。急に俺はワキガになったのか? と首をひねったが、これはTシャツのせいであったらしい。ちょうど一年前の夏、8月半ばから9月末くらいまでの一ヶ月半、甘ったるいような臭いような、奇妙な体臭に取っつかれたことがある。体調のせいだったのだろうか(確かに夏バテしていた)、自分でも気になるほどの変な臭いだった。いつの間にかそれは治ったのだが、その期間に着ていたシャツにはどれも、その臭いが染みついてしまった。ほとんどは始末したのだが、軽いのがまだ残っており、それが汗の水分で復活したらしい。

 7時、再度入ったTBSロビーでADのKさんに迎えられ、Bスタジオ楽屋。大部屋に入り込みであるが私のみは奥に着替え用の部屋が用意されている。もっとも使用はしなかった。簡単なメイクをしてもらい、ディレクターさんからざっとした番組内容の説明。10月16日(水)放映予定の『ウッチャきナンチャき』なる番組。今回からリニューアルだそうで、さまざま雑多な(いきあたりばったり風でもある)話題のビデオ映像を流して、それにコメントをつける。クイズもあるらしい。いかにもバラエティという感じだが、さて。さまぁーず、東野幸治などが共演だが、誰も面識あるものも、こちらを知っているものもおらず、いささか居心地悪し。7時半、スタジオ入り。別の楽屋に入っていた作家(女優)の室井佑月さんと、隣り合わせでゲスト席につく。前にどこかでお会いしてますよね、と室井さん言うので、内田春菊の結婚式で、と言うと、ああ、やっぱり、と言う。こっちは隅っこの方で目立つ筈もないの だが。

 番組内容に関しては見てください、とのみ。ゲスト席が前に机も何もない椅子だけのもので、落ち着かないことおびただしい。客が入っていて、収録前にムーダーの若手お笑い芸人さんが、ギャグ飛ばしてみんなのテンションを上げている。ご苦労さまなことだなあ、と、こういう下積み系の人には(昔の経験で)同情してしまうのであるが、しかし最近の大声でがなりまくるギャグはやはり苦手である。番組開始前半は私、いろいろしゃべろうとしたところが全部カラ回り。こりゃダメだ、と自分でも思う苦々しい出来。優香とか、自分のキャラの位地をきちんとつかんでいる。流石である。鼻を高くする器具を彼女が試して、鼻の穴につっこむ。“鼻クソついてへんやろな”と皆がツッコミを入れる。私は女性に対してはこれができない。年を感じる。この器具をこっそり持って替えれば睦月さんが喜ぶだろうと思ったが、他の連中も争って鼻に突っ込んでいたのでダメである。

 後半、一番最後のネタがなんとポリオで47年間を鉄の肺の中で過ごした詩人の記録。コメントを求められ、“私、実は同じ病気をしたんですよ……”と話すと、みんな驚いていた。ディレクターズルームの中でも、“うぉーっ”という声(これは演出家としての「やった、これは盛り上がるぞ」の声)が上がったそうな。身体障害者のセックス介護の話などもあり、このコーナーは私の独壇場となる。もっとも、事前に私のキャラは毒舌、ということになっていたが、スタジオの雰囲気が感動一色になってしまったため、まったくの善人的な感想ばかりで、これではダメである。スタッフには不満がられたことであろう。セックス介護のところで“(鉄の肺の中では)減圧されると勃起するんですかね”と言おうとしたんだが、トテモ言える場に非ず。自分採点で45点という不出来極まりない赤点。

 トークライブでのギャグは、受け手がそれを受け止めて、こちらに投げ返してくれる。私の客はレベルが高い、と威張るわけではなく、それがライブでのトークを楽しむ秘訣である、と客も知っているのである。どの程度のウケか、ということを空気を読んで、さらにツッコンでダメ押しをかますか、別の話題に移るかを測るのである。その緊張感と一体感がライブの強みだ。ところが、さまぁーずのギャグなどを見ていると、もう、どんどん投げっぱなしなのである。ウケるにしても、それは仲間内でのウケである。だから、笑い待ちもなければ、ギャグの加速度もない。一応スタジオに客は入っているが、彼らが笑うのはADからの指示があったときだけである。これはまったく水の違うところに来たなあ、と思う。テレビが悪いのではない。こちらの不 勉強である。

 ADのKさんにタクシー用意してもらい、帰る。“ホントウになんでも知っておいでなんですね”と言われるが、イエイエと口をにごす。ただしギャランティーは一応こちらの要求額で、と言ってくれたのはまあ、よかった。車中ずっと、テレビの仕事の特殊性を考える。要するに彼らは海に向かってただひたすらに石を拾って投げつけることをプロの仕事としているわけだ。少し感嘆する。こっちはまだまだ、“意義”とかにとらわれすぎである。渋谷まで行き、K子に携帯で連絡。パパズアンドママサンに行こうと思ったが一杯らしいので、花菜で酒。明日の朝仕事をしようと思っていたのだが、ちょっと過ごしてしまう。K子は何か機嫌がよかった。帰って、臭みのついたシャツ、タンスの中もチェックして、全部捨てる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa