31日
土曜日
ブラマンテの夜
ヤーホイヤー。朝7時起き。別に感心なこともしてないつもりだが雪。またこの不安定な天気で、老人が何人も死んだことであろう。旦那さんを亡くしたお婆さんに、その葬式の日の話を聞くと、かなりの確率で“その日の朝、季節はずれの雪景色で、「ああ、これはお父さんがふらしたのね」と、家族で話しあってねえ”という逸話を聞く。これも、突如季節はずれの雪がふるこの季節に亡くなる人が多いからだろう。K子に豆モヤシ炒めを作る。果物はチリ産のブドウ。
朝から原稿、週刊アスキー。まず普通に筆が進み、1時には完成。世間の知識からこぼれたような知識を扱うのが私のコラムだが、資料を調べていくと、そこからさえこぼれる知識があるのが面白い。イーストプレスからゲラチェック原稿FAX。Gくんは式貴士マニアで、研究サイトまで作ってしまっているのであった。式氏のSF作品はSFというより綺談のおもむきがある作風で、発表当時勢力のあったハードSF主義者連中にはあまり受けがよくなかった。尊敬していたSF作家の某氏が、式氏を露骨な外様扱いにした書評を発表していて、ちょっとSF界の狭量さに失望した記憶がある。もっとも、私にとっても氏はSF作家式貴士というよりは、雑学ライター間羊太郎としての比重が非常に大きかった。少年マガジン連載の『ヘンな学校』は当時の私のバイブルだった。小学生で間羊太郎に出逢い、中学・高校生で呉智英(このヒトも昔は雑学ライターだったのよ)に出逢ったことで、私の雑学業への道は決定したと言っていい。http://www05.u-page.so-net.ne.jp/kb3/gosho/
テレビで、草原を若い野生馬が走る姿が映っていた。その躍動的な筋肉の動きの美しさにちょっと感動する。ツヤツヤと光る、褐色のひきしまった体は青年の裸体を連想させる。しかも野生馬なのでたてがみが長く、それが顔の片側にバサッとかかった風情は木村拓哉や反町隆史など問題にならぬワイルドな(まあ、馬なんだからあたりまえだが)男ぶりである。女は男に数倍して馬が好き、と言われる理由が、いささかわかった気がした。アソコが大きいから、というだけじゃなかったんだね。
原稿書き上げ、昼は惣菜のカツでカツめし。K子にはそのカツを菜の花と一緒に煮て、煮カツにして弁当に入れた。食後、神田古書会館、愛書会古書展。入口でダイヤモンド社のN氏にバッタリ。“今日はあまりいいのありませんよ”と言われ、ホッとする。最近、ちょっと古書買いすぎなのである。なるほど、ぐるりと回るが、雑本ばかりで、あまりコレハというものなし。千数百円ぶんくらいを抱えて、ラストの棚をのぞいたら、高いので有名なA書店のところに、こっちのツボをつくものがゴソッとあった。中でも大正十二年発行の『×××××××』(仕事に関連するので伏せ字)がなんと×万円で! これは業界でも有名な珍書であり、私の仕事の範疇と露骨にかぶさる。高いの安いのという問題でなく、古書マニアとしては買うのがアタリマエのシロモノなのである。とはいえ、手にしたとたん、うー、とウナってしまった。
今日はその一冊を買ったということでパワーを使い果たし、他の店に一切、寄らずに帰宅する。途中でスーパーに入り、夕食の買い物。海拓舎の原稿、カリカリ。外は雪がヒヒたるものになる。寒さのせいか目の疲れか、左肩がパンパンに張ってきたので、新宿へマッサージに出る。サウナに、バカ声でしゃべる若い二人がいて、気分を害する。話題が競馬の話だのキャバレーの話だのばかりで、教養のカケラも感じられない。もっとも、インチキ文筆業の私含めて、サウナの常連などにあまり質のいいのはいなかろうけれど(ここのサウナは高いかわりに水商売やヤクザ関係などの客が一切いないが、それでも時折、こういうのがまざってくる)。汗の玉が全身からポロポロというくらいこぼれる。マッサージされながら、ときおり気絶するように間欠的に眠りに落ちた。
帰宅して食事の準備。8時半、夫婦で夕食。菜の花と豚肉のスープ煮、キンキ鯛の桜蒸し。LDでK子に『キングコングの逆襲』などを見せる。メカニコングが可愛いと評判。食事中、阿部能丸くんから電話。某映画会社(ちょっと大手)に企画を出しませんかという話である。彼もいろいろ、そういうルートにつながりをもっているなあ。11時にはもう眠くなって寝てしまう。雪のせいか。