裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

土曜日

いつか、ギララする日

 奥山和由には古巣の松竹でぜひ、いつかギララを製作していただきたい。朝、7時半起き。どういうものか、この頃見る夢は長く、話が一応(夢にしては)筋の通 っているものが多い。今朝は一度、マリリン・モンローが来日したときにヤキソバを食べたという記事を読む夢を見て6時ころ目が覚め、それからまた寝て、水戸黄門が娘と撮った記念写真(ここらに疑問を持たないのが夢)に、ちらりと黄門一行をつけねらう忍者の影が写っていたことから起こる騒動を描いた時代劇の夢を見る。どちらの夢も、それを元に一本、原稿を書いているところまで夢になっているのが情けないと言 えば情けない。

 朝食、オニオンスープに卵を落として。果物は切らした。日記つけていたら、テレビの『ぶらり途中下車の旅』に、『幸永』が出てきた。おかみさんが、“お客さんたちが、あの店はおいしいってインターネットで宣伝してくれているのよ”などと言っている。ハイハイ、してます。豚骨たたきが紹介されていたが、アバラを叩いている と言っていた。あれ、食道だとメニューに書いてなかったっけ?

 午前中、海拓舎原稿。まとまらず。12時半、家を出て、飯田橋ラムラの骨董市に行く。こないだ解剖人形を買ったお店からメールで、いい医学模型が入ったというので、取り置いてもらったのである。遊歩道のところに二十店ばかりが出店。いくと早速、コレデスヨと見せてくれたのが昭和三○年代くらいの鼻腔模型。鉄製の台がカッコいい。普通の骨董屋さんで買う値段のほぼ三分の一くらい。なぜ、普通こういうものが高いかというと、こりゃまったく想像なんだが、普通の骨董屋さんではこういうものは商品というより、店のカンバンとして置いてあるもので、売る気がない、というよりは売れないのだと思う。ここの骨董屋はこういう品をほぼ専門に置いているので、ちゃんと商品として成り立っているため、現実的な値段をつけているんじゃないか。これに耳の模型、それと、傑作はトランクのようなケースに入って持ち運びができるようになっている、痔の模型を買う。痔の模型というのは前にも見たことがあるけれど、持ち運びができるようになっているなんてのは初めて。用法を想像すれば、痔についての巡回講演をする人のための講演資料、というところだろうが、そういう数少なかったであろうニーズのためにわざわざこんなものを製作するかどうか、やはり疑問で、とにもかくにもトンデモなものであることに変わりはない。これに、こないだ入ったという、これも戦後すぐあたりの、医者の往診用セットカバン。ハサミや聴診器つきである。“医者の往診カバンはよく出るんですが、たいてい、薬がこぼれて、底が腐食しちまってます。これだけ状態がいいのは珍しいですよ”と言われて、これも購入する。いくら状態がいいとはいえ、私のように、書くもののネタに使える商売でないと、ちと買い手もいないのでは、と思う。

 かなりの荷物になるが、主人が手際よく箱を縄でくくってくれる。“この業界に入る前は緊縛師やってましたんで”と言うが、ホントかね。そばでじっと見ていた同業者(?)がいて、この人はどうも、私の読者らしい。それにしても、こういう青空骨董市というのは奇妙な空間である。結局、四点で×万。最近の骨董相場から考えれば驚くような安値、と言っても一般人から見れば、コンナモノにソンナ金を、という感じであろうな。親父に“日露戦争当時のロシア人の頭蓋骨あるよ”と言われた。

 荷物エンヤコラと抱えて渋谷に帰る。昼飯がまだだったのでラムラのレストラン街で食事でも、と思ったのだが、入っているファミレス系の和食、洋食共に、食べたくなるようなものひとつも無し。家でモチの残ったのを焼いてノリ巻いて食べる。普通はこういう買い物した後はグッタリ疲れて昼寝するんだが、今日は何かハイで、そのまますぐ、週刊アスキーにかかる。5時ころ完成。K子にメールして、日暮里の立川流の寄席に行きたいが仕事多々で無理なのが残念。夕食の買い物に出かける。

 帰宅して、届いていたエンターブレイン対談本『ブンカザツロン』の青焼きチェックを8時まで。前の初稿チェックのときにほとんど目を通しているから、今回はテンやマルの確認くらい、と思っていたら、すさまじい誤植を発見。いや、私や鶴岡の発言部分ではない、章のあいま々々に『オタクメルクマール』というコラムを設けているのだが、その見出しの文字が全部、『メルクマーク』になっている。初稿チェック時には私も鶴岡も、自分の発言のところにのみ神経を集中していたので、まさかこんなデカいところに、こんな大きなミスがあるとは思いもしなかった。というか、編集のNくん、編集部の人たち、誰もこれに気がつかなかったわけである。『盗まれた手紙』ですか。思わず笑ってしまう。『盗まれた手紙』と言えば、この日記のアドレスのスペル、diaryがdialyになっているのを気付いている人、いるかな。

 Nくんに電話したら、あちゃあ、という感じで、活字ならともかくデザイン文字では、もう間に合わないので、初版はこれで通します、ということ。私の発言の中ではちゃんとメルクマールと言っているので、モノ知らずでメルクマークとやった、という疑いはかけられないだろうが、ずいぶんとバツの悪いことではある。夜、受け取りに来たNくんと、善後策たてる。訂正の紙、入れたらと言ったら、その時間ももう、無い状態だそうだ。わしゃ知らんよ(笑)。

 夕食、豚バラとゴボウの鍋仕立て、菜の花とアナゴの蒸し寿司。ビデオをいろいろと見散らかしながら。夜半に入って天候乱れ、雨が降り出す。そのせいか、酒があまりすすまず、12時ころ就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa