24日
土曜日
幕張燃えた太陽だから
タイトルに意味はない。朝7時半起き。朝食、肩肉ハムのサンドイッチ。奈良本辰也氏死去、87歳。なんか87じゃまだ若いじゃないか、というような感じである。昔、この人の監修したマンガ版日本の歴史が私の愛読書だった。そう言えばこのマンガを描いていたカゴ直利って、まだ存命なんだろうか? 私の記憶にある最も古いマンガ家の一人で、石川球太などと一緒に『狼少年ケン』のマンガなどを描いていて、ギャグタッチでかなり面白かったんだけども(注・と、イキオイで書いてあとで思い出したが、カゴ直利の描いたマンガ日本史の監修は和歌森太郎であった。奈良本辰也の日本史は、マンガばかりで日本史を押さえるのもどうも、と後で買った読み物の方であった)。
ロフトかどこかで、とにかく古い、記憶の底を探るような話の会をやってみたいと思う。団鬼六が、年寄りにはそういう話のできる場所が必要なのだ、とエッセイに書いていたが、若い者にもこれは必要じゃないかと思うんである。そうこうして記憶を探るうち、その記憶が、実際のものとは違ったものであることに気がついたりするだろう。その、食い違った記憶こそ、彼のアイデンティティを構築している、彼独自の歴史なのではないか。
朝、K子のマンガのプロットを一本、書いて渡す。それから弁当作り。ホタテのタラコまぶし。週刊アスキーの原稿のための資料をいろいろと集める。おもしろい雑学系のサイトを見つけて、読みふけってしまった。昼は残ったタラコと、トウフの味噌汁ですます。食べたら腹がくちくなり、眠くなり、一時間ほど死んだように寝る。
三時に神保町へ出て、古書会館の城南古書展。古書即売会というのも、いつ行ったところで同じじゃないかと思われるかもしれないが、杉並と神田でまったく雰囲気が異なるのと同じく、神田古書会館の即売会も、会と会では棚の感じが少しづつ違う。ことにこの城南展は、他の会に比べ、棚の感じがよりホコリっぽい感じがする。ぐるりと回るうち、いつの間にかかなりの量を抱えていた。“おや、カラサワさんじゃありませんか”と声がするので振り向くと、QPハニー氏がいる。へえ、この人も古書展にくるのか、と一瞬思ったが、どこか違う。見ると他人のソラ似だったが、しかし似ていた。“いつも読ませてもらっております”と言うところを見るとファンなのだろうが、こちらを知っている人がこちらの知人にウリ二つ、というのも奇妙なものである。
先週、雨でいけなかったカスミ書房にも寄る。主人は不在だったが、いろいろとここでも買い込む。鏑木恵喜著『戦前戦後社交(料飲)史』(日本社交タイムス社)という本があったので、三○○○円とちょっと高かったが、タイトルの奇抜さに引かれて買う。飲料史かと最初思ったら料飲史、である。料飲とはなにかというと、“料理飲食業”の略である。社交業とは何かというとキャバレーやダンスホールである。要するにこれらの業界をとりまとめた組合紙を発行していた著者が、戦後の飲食業界、社交業界の変遷を書き記したもの。戦前のダンスホールに興味があったので期待していたが、ほとんどが戦後の記事ばかりでタイトルに偽りあり。それでも、終戦直後、ダンスホールのダンサーたちが、三度のご飯さえろくに食べられない栄養事情で進駐軍のジルバにつきあわされるのは困難、と訴え、東京ダンサー組合幹部三十名を引き連れてGHQに嘆願し、ダンサーには一日二合の米を加配してもらうことになった、などという話はまことに面白い。製本から推薦文にあるお偉方の写真などから、それにタイトルの古色蒼然たるところなどから、てっきり昭和三十年代の本だと思っていたら昭和も五十一年の発行なのに驚く。
荷物がバカ重になったので帰りは途中からタクシー。車窓から見る夕暮れ前の都心風景、春靄に霞んで美し。この季節のこの時間帯の東京には、なんとも言えぬ 気分にさせられる。帰ってすぐ、週刊アスキーにかかる。9分9厘完成したところで待ち合わせの時間になり、幡ヶ谷へ。チャイナハウスでK子と晩飯。店内、土曜で込み合っているので、通路に出たところのテーブルで最初、食べる。これもまた面白い。今日のチャイナはどの料理も絶品で、ジューシー極まる焼豚から、アスパラと鹿肉の炒めもの、キヌガサタケの炒めもの、ツクシと牛肉の繊切り、コゴミとエビ、豪勢な厚さの角煮など、堪能する。中でも、アサリ剥き身とブロッコリ炒めは、最初口に入れて“む?”と首をひねる不思議な味。梅肉をつかって酸味をつけたソースだということだったが、中華に梅肉は珍しいのではないか。しかもお値段格安。
棚の漢方材料を眺めていたら、“夜明砂”を発見、驚く。聞いたら、やはりコウモリの糞。中にキラキラと鈍く光るものが混じっており、それがコウモリの食った蚊の目玉だという。これを洗って目玉だけ残し、スープにして食べると目の病気にいいという、その話は『和漢三才図絵』などで読んで知っていたが、てっきりジョークの一種か、あるいは古代にあったという馬鹿馬鹿しい食べ物の例だとばかり思っていて、ホントウにあるとは思わなかった。花粉症防ぎになるかと思い、蟻酒をイッパイ。すぐに体がポッポと暖まって汗が吹き出てくる。