裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

金曜日

子供は数の子

 黄色いダイヤモンドなんですよ、きみたちは。朝7時起床。驚いたことにまだ、雨が降り続いている。朝食、ペッパーソーセージとトースト。このトーストのパン、昨日小田急トロワグロで買ったものだが、ゆうべ帰宅してから切り分けたときに、ダイニングじゅうに、ふわっと香ばしい匂いが充満して、思わず声をあげてしまったほどだった。今朝食べてみるにやはりうまいが、あの焼き立ての香りは残念ながら飛んでしまっていた。

 雨は9時過ぎにはやんで、陽がうららかにさしてくる。極端な変わりようである。昨日の元葬儀屋のタクシー運転手が、“この季節は年寄りとかがどんどん死んで、かきいれどきなんですがねエ”と言っていた(笑)。よく漫才師や噺家が“冬の間は年寄りもなにくそとがんばっているが、春になってポカポカしてきたころ、気がゆるんでポックリ逝く”とギャグをとばしているが、気がゆるむというより、この季節の不安定さに、老体が耐えられないのだろう。年寄りが死ぬと言えば、日本ではないが、ノルウェーの探検家エルゲ・イングスタッド(コロンブスの発見以前にアメリカ大陸はバイキングによって発見されていたという説の発見・証明をしたひと)がこないだ死去、101才。探検家にしては長生き。そういやインディ・ジョーンズも、100才まで(それ以上か)生きたという設定だったっけな。

 雑読用にとこないだ古書市で買った渡部直己『現代口語狂室』(1984、河出書房新社)をひろい読みする。“ロランバルト風味”と書名の角書についていることでもわかるように、露悪的に道化てはいるが現代思想派の批評集である。刊行当時の著者はスタジオ・ボイスやGSなどにおけるインテリ文筆業の若き旗手であった。戯文調がきついところは時代なるかなであるが、巻末の四方田犬彦との対談の内容や口調が、最近の山形浩生や東浩紀、阿部和重などにソックリなのが興味深い。要するに、“僕達こんなにアタマいい”口調。時移り人変われどナカミは同じで、これはひょっとして伝統芸のようなものかもしれぬ、と思えてきた。江戸時代は白痴が見世物に出たが、現代は頭がよく生まれついてしまった者がマスコミで見世物となる。頭のいいところを人様に見物してもらって食べていく、つまりは学者犬と同じ存在であるわけだ。見物するほうとしてはよろしく、その“アタマいい芸”の出来を厳しく品評し、こちらを感心させるべく、彼らに努力させなくてはならないだろう。厳しくしすぎて脱落するものが出ても、これまでのトップスターの移り変わりをながめているに、志願者は不足していないようだ。遠慮はいるまい。

 K子に弁当、フグ粕漬けの焼飯。自分も食べたくなって、昼に同じものを作る。菜漬け、ワカメ、ゴマが入ってヘルシーでもある。Web現代原稿を書き出す。資料にとあちこちネットを泳いでいるうちに、オトナのオモチャ(別に今回はそれがテーマではないのだが)のサイトで、“反野内拓哉(そりのうちたくや)”というバイブを見つけてひッくり返る。以前の“デカプリオ”はクネリ型だったが、こっちのは硬質バイブで、どういう風に役に立つんだかしらないが、頭の部分がライト内臓で光るんだそうである。

 12時、どどいつ文庫伊藤さん来宅。今回はいい品があんまりなかったということで、ちょっと少なめ。とはいえ、思わず笑ってしまうアホなもの、いくつもあり(人気ポルノ女優の似顔絵ぬり絵など)。雑談のうちで、見世物看板絵写真集『オール見世物』を発行したカルロス山崎氏の話が出る。残ってる在庫を管理するのがメンドくさくなって、始末したいと言ってるそうな。それも、全部積み上げてバーッと火をつけて、バーベキューをやりたいと言っているそうな。本気らしい。

 Web現代書き続ける。福音館書店T氏と4時、時間割にて打ち合わせ。むこうの言うことが二転三転、マンガの原作を書いたら文章でやってくれと言われ、文章で書いたらやっぱりマンガにしてくれと言う。いろいろと理屈は向こうにもおありでしょうが、ちょっと限界、キレかかる。何をもって面白いとするか、という基本理念も平行線。私は、目で見てインパクトがあり、アイデアがあるものが子供にはうけると言い、あちらは、一緒になって考えられるものが子供たちにはうけると主張する。それは一緒になって考えるというのはいいことかもしれないが、一ページしかない中でそんな複雑な内容を描こうとしても、中途半端になるに決まっている。おまけに、この連載、テーマがエンマさまの裁判なのだ。エンマさまが子供と一緒に考える、なんてこと、しますかというの。一時間近く、アーダコーダと議論。何度も頭に血がのぼるが、しかしこういうやりとりがキライなわけではない。人格の一方では、こういうケンカを面白がっているのである。困ったもんだ。結局、結論出ず、もう一度マンガ原作で描く、ということのみ承知して別れる。それでOKが出なければ仕方ない、決裂でしょう。

 帰ってWeb現代続き。思ったよりかなり手間取る。今日は家でメシ作る予定だったが間に合わないので、外で食うことにして、8時半までかかって書き上げ、メールする。ふう。K子と外出し、ソバ屋花菜。アジ天ぷら、厚揚げなどサカナに菊水を熱燗で。ストレスがほぐれていくのがわかる。風がやたら寒い。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa