裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

月曜日

ルイ・マルはみんな駅のそば

 エレベーター事故を起こしそうだな。朝7時半起き。朝食、ハモン・セラノトースト。こうかくとやたらオシャレな感じだが、要はスペインの塩っ辛いハム。ちょっとデパートでも行きゃ、今日びどこでも売ってますがな。朝、こないだの鶴岡との対談のゲラがゆうべ送られたのに手を入れ、青林堂に返信。

 青林堂のSくんによる対談起こし、さすがにうまい。ナオシはかなり入れたのだがもともとのオコシ原稿が、ちゃんと対談の形になっている。『ブンカザツロン』のが下手、というわけではなく、がんばってはいてくれたが、やはりそこは学生(早稲田の鶴岡の教え子がやってくれていた)の技で、今回のものはプロである。これは対談というものの“型”をきちんと押さえているからだろう。どさっと送られてくる文字の山を対談の形にまず仕立てるか、最初からざっと形になっているか、の差は天と地ほどに大きい。などと考えていたら鶴岡から電話。『ブンカザツロン』出足好調とのこと、目出度し。K子に弁当、桜御飯の残りに、豚肉の生姜焼き。

 2時、イーストプレスGくん、図版資料取りに来宅。最新号をもらう。平口さんのマンガを見ると、彼もちゃんと立派にフーゾク記者をやっているようである。でも、その一方で式貴志の命日に墓参りにも行っているマニアぶり。なかなかこのGくんがオモシロくなってきた。昼は生姜焼きの残りと、ミョウガの味噌汁、大根葉のタクアン漬け。丸一のおバアちゃんのだが、無くなったらまた送ってもらおうかな、と思うほどの味。これは炒飯に入れてもおいしいそうだが、もったいなくってそんなこと出来ない。

 体力気力、極端に低下。原稿に手を入れるのもおっくうになる。空模様を見るに、今日はダメ。一切の仕事(超急ぎのもの三本含め)放棄し、外に出る。消防署近辺の方に散歩。消防署がなくなっているのに驚く。どこかに引っ越しか? なら、この通りの通称の“ファイヤー通り”の意味が通じなくなるぞ。その通りにある、プチ・コキャンというヨーロッパ雑貨屋、前から気になっていたのでちょいとのぞいてみる。カラフルで悪趣味な雑貨がある。ちょいとお値段は高めだが、いくつか買い込む。スペイン製の、東洋の哲学者のゴム人形、というわけのわからんものとか、フランス製のおハシ(!)とか。

 そのまま青山まで歩いて、国連大学の近辺を歩く。この国連大学、講演やイベントなどをときどきやっているようだが、とても、これだけの巨大なビル全体を必要とする活動をしているとは思えず。ゴーストタウンとか幽霊大学とかタンゲ王のピラミッドとか呼ばれているし、ホームページを見てみても、御大層な世界平和とか人類の未来とかいう単語が羅列されているだけで、活動の具体的なことはさっぱりわからず。いまだに“21世紀を間近に控え”なんて文句が書かれていたりして、こまめに更新もしていないということが丸わかりで、東京のアヤシゲポイントのまず、トップクラスだろう。校章が六角形なのも、ダビデの星を表しているんじゃないかとか、いろい ろ都市伝説まがいの話が流れている。

 その裏手奥の青山ブックセンター。伝記の特集コーナーが設置されていて、『星を喰った男』が中に混じっていた。社会学関係の本をひとかかえ、買い込む。このまま六本木でK子と待ち合わせの場所へ行くつもりだったが、荷物が重くなったので一旦家に帰り、タクシーで六本木。交差点のところの三菱銀行、自動窓口が二十四時間営業になっていたので、ちょっと入ってみる。別に二十四時間営業だからといって他と変わりはないのだが。アマンド前でK子と合流、芋洗坂の居酒屋『あぶらや』。ここは、数年前までは時折通っていて、なかなかうまい店なのだが、バカ高い。そのお値段でも特に行きたい、というほどではないので、足が遠ざかっていた。今日は従姉妹の小野仁美ちゃんのライブなので、久しぶりにここで食事しよう、とK子の提案。K子にプチ・コキャンで買った、目玉の指輪(まぶたを閉じる)などをプレゼント。

 われわれが通っていたのはバブルの末期で、こんなクソ高い店でも押すな押すなの盛況だったが、さすがにいくぶん空いている。カツオ刺し、イワシ梅煮、筍焼き、蕗の薹てんぷらなど。お値段、このあいだのチャイナハウスの五割増し。やっぱり高いよ。今度はベストセラー作家になってから来るからね。で、防衛庁横の『アビーロード』、小野仁美ことヴァニラがリーダーの女性コーラスグループ『スリー・ビックリーズ』。二回公演で、どちらも前売券完売御礼の盛況。女房が彼女らの初CDのジャケ画を描いた縁で、なんとかもぐりこませてもらう。スリー・ビックリーズとはもちろん、スリー・ディグリーズのパロディなのだが、70年代レトロソウルを中心の持ちネタとする、お笑い実力派グループである。仁美ちゃんの兄貴の杉男くんと久しぶりに挨拶。すっかりマネージャーみたいな感じで、これから車を井草まで戻しにいかないと、と言う。親バカならぬ兄バカである。

 二回目のステージということで、ちょっとバテ気味かな、という声だったが、ライブは大盛り上がり。ブルースブラザースメドレーを皮切にジンギスカン、めざせモスクワなどの70年代ソウル、キャンディーズメドレー、そして『おら宇宙人見ただ』などのオリジナルソングを立続け。最前列に陣取ったサラリーマン風のおじさんが、やたら大盛り上がりで、途中からK子とそのおじさんばかり観察していた。ハセガワさん、などと呼び掛けられていたところを見ると常連か。きっちり一時間のステージで、アンコール一回のみ、というキリのよさがよろしい。仁美ちゃんの日記などを読むと、毎日々々、本当に忙しいらしい。あの小さい体で、よく倒れないもんだ。少し私もガンバらないとな。スリー・ビックリーズのサイトは以下のところ。
http://www.art-makoto.co.jp/3b
 11時、寒風吹きすさぶ六本木を歩き、ラーメン屋でつけめん啜って帰る。

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