裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

月曜日

板東玉 パブロフ

 舞台を見ただけで濡れちゃうの。朝8時起き。昨日はやっぱり雨でバテていたのかねえ。何やら西海岸的なところにいる夢を見る。夢と言えばロフトの斎藤さんが昨夜話してくれた夢が、なぜかK子とホテルに泊っていて、K子に“ウチのがいないからアナタが食事作るのよ!”と言われ、スーパーに買い物に行く夢だったとか。何かを買うたびに、“そんなもの買ってどうすんの!”と怒られ、ビクビクしながら料理する。で、“意外な結末なんですが、作ったものをおいしいって褒めてくれるんです”には笑った笑った。朝食は、タラコスパとブラッドオレンジ。ブラッドオレンジてもの、気味の悪い食いものではある。

 朝、数名の方からこのサイトに行けない、とのメール。昨日、そう言えば眠田さんも同じことを言っていた。井上デザインに連絡して調べてもらったら、ネットスケープでそのような事態になる模様。近日中に対応はするけれど、とりあえずネスケの初期設定を変更してスタイルシートを適用しないようにしてご覧下さい。現在のスタイルシート記述方法ではネットスケープに対応しないようであります。

 東京大学出版会『日本の階層システム5・社会階層のポストモダン』はいかにも大学の論文、といった悪文羅列、内容曖昧の読みにくいシロモノだが、いろいろと興味深い本だった。第6章『文化的寛容性と象徴的境界』において、関東学院大学教授の片岡栄美氏は文化的オムニボア(雑食性)仮説を紹介して、エリート階級ほどこのオムニボアであり、文化的寛容度が高い、というデータを示している。つまり、文化的高位置者はハイ・カルチャーであるクラシック音楽やアートも観賞できるし、大衆文化である歌謡曲、マンガなどにも寛容性を示す、という。ここらへん、東浩紀ハマリなどの方々には大変耳に心地よい理論であろう。ところが結論部分で、片岡氏は、わが国の大衆文化は、文化の象徴的境界の存在を隠蔽する機能を果している、と記す。つまり、文化的優位が正当化されていない組織文化の中にある日本のサラリーマン社会(別にサラリーマンに限らぬ、同化を強要する構造の社会のことである)では、文化エリートは大衆文化に対する理解を示すことで階層的ルサンチマンを回避する戦略をとっている、ということだ。
「それゆえ文化的再生産メカニズムは人々の意識しにくいメカニズムとして隠蔽されみえにくくなっている。(中略)そしてあたかも日本は文化的に平等であるかのような言説が流布するのである」
 そういう隠蔽のコロモの裾からはみ出た鎧が、例えば村上隆の“オタク引き上げ”発言であり、そのウサン臭さを肌で感じ取った反発が、ゆうべのやまけん氏などの発言につながっていると見るべきだと思う。とにかく、文化的寛容性を示す自分にナルシズムを感じている馬鹿どもの、“みんななかよく”的に軽薄な開放論一辺倒では、今に日本人は自意識を持たぬ連中であふれた、壊滅的なアイデンティティ危機に陥る予感がする。もっと石を投げろ。立てこもれ。

 K子に弁当作り。オカズは札幌から送られたロールキャベツ、御飯は菜の花飯。自分は12時過ぎに、冷凍のカルビ焼肉で一杯。エンターブレインから電話、例の誤植はやはり訂正するので(結構なことである)、発売が一週間ほどズレ込むとのこと。鶴岡からも電話、昨日元気なかったことの詫び。箱根でオフやった帰りでバテていたらしい。そのあとタクシーで六本木まで出て、銀行に寄り、記帳。印税と原稿料入金で、ちょっと豊かな気分(気分のみ)。買い物し、帰宅して、また仕事。週刊読書人原稿、松本次郎の『熱帯のシトロン』。アリスは走るウサギを追って不思議の国へ行き、双真(主人公)はラビット・ジュースに溶かすドラッグで異界の街・三月町へと迷い込む。ひとつひとつはルーティンなストーリィを幾重にもハリ合わせた多重構造 の迷宮的魅力。タイトルの意味は何処に?

 アスクルに注文していた、回転式書架(以前、ハンズや新宿で見つからなかったやつ)届く。さっそく机の上に散乱していた書籍類を整理する。使い勝手は上々だが、すぐこれもゴタゴタしたものの山になって稼動しなくなるのだろうなあ。

 そのあと、フィギュア王を書き出すが、なかなかいいテーマ決まらず、三度ばかり書き直す。やっといい資料がめっかり、やった、と喜ぶが時間切れ。明日に回し、時間割にてメディアワークス本打ち合わせ。オタク・カルチャー論と、日記本、二冊ほぼ同時進行。いや、仕切り直しで始める『トンデモ本男の世界』も入れると三冊か。私は大した仕事量ではないが、間で進行係を勤める芝崎くんが死にはしないか。前二書のコンセプトを少しまとめて話し、テープ起こしをしてもらう。

 終わって8時25分。華菜でK子と待ち合わせ。厚揚げ野沢菜添え、豚角煮、マグロの和風サラダ、ソラマメ。ソラマメはさやごと蒸して(?)おり、トロケるように実がやわらかい。これはなかなか。ペールエール一本、日本酒四合。タヌキうどん二人で一杯。風邪がぶりかえしそうだったので、パブロンのんで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa