裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

日曜日

アロマオエ〜

 アロマ企画のゲロビデオ。朝7時半起き。朝食、スープスパ、ブラッドオレンジ。雨がしとど、という感じで降り、窓の外の光の色がセピアになっている。なにをするのもかったるし。

 都市論がらみで、フリマ関係のネットをさらう。初期のフリマのわけのわからなさが実におもしろい。昨日痔の模型を買った骨董屋さんのエッセイによると、最初のころは、そこらへんの石を拾ってきて値段つけて売っていた、という、つげ義春のマンガみたいなのが本当にいたそうだ。なんでもそうだが、初期の混沌時代を体験する、という経験以外に人生の面白みというのはないような気がする。

 昼は図版(その痔の模型)を編集部に宅急便で出すというK子と一緒に出て、東武ホテル地下のレストラン街でメシ。イタメシ屋が満席、仕方ないので中華に入って、牛肉のトマト炒め。うまいが、ホテルのレストランというのは、ランチのくせに時間かかっていけない。こっちは小売り商人の息子なもので、昼飯はとにかく手早にかっこめるものをヨシとするのである。外に出たら、一日中降るかと思っていた雨、もうあがっていたのに驚く。

 K子と別れて、パルコブックセンターで買い物。週刊読書人用のマンガ、新聞錦絵のデータベースその他あののものので一万七千円。ロゴスの洋書で買いたいものがいろいろあるが、なにしろ日本で買う洋書は高い。昨日骨董で金を使ったので諦める。

 帰って原稿。書評用のマンガ新刊、読み始めたがつまらないので放擲。別なものに しなければ。ダカーポ原稿、こっちはスラスラと完成。K子にメール。日曜と言ってもまるで他の六曜と変わらず。これってつまらない気がする。ちょうどこのダカーポの前々回に『笑点』症候群(あの“チャッチャカチャラチャカ、チャッチャ”を聞くと、“ああ、もう日曜も終わりなんだ”と思ってブルーになる症候群)のことを書いたが、確かにあの、せっかくの休日を無為に過ごしてしまったという軽い後悔の日曜のたそがれ、の愉しみは自由業では味わえない。

 6時になったので新宿ロフトプラスワンに出かける。やまけん氏プロデュースで、オタクジェネレーションギャップ討論。なんの用意もせずに出かける。小腹空いたので立ち食いソバ屋で肉ソバ一杯。ロフトプラスワンの隣の風俗ビルのカンバンがなんと『サウスパーク』のスタンのキャラを使っていて、頭に帽子の代わりにコンドーム をかぶっている。

 楽屋でやまけん氏、斉藤K氏、森田屋すひろ氏に挨拶。楽屋でいろいろ話す。眠田さんはちょっと警戒していたようだが、私はいつも通り。斎藤K氏のホストっぽい服装が面白い、と思っていたら、本当にその経験あるとか。やまけん氏含めどちらも、オタク一筋などという臭みのないところが今風オタクか。森田屋(ここで切っていいのか?)氏のキャラクターが不思議で面白い。楽屋に鶴岡、開田夫妻、遅れてエンターブレインのNくん。Nくんはチラシのみ置いて、これからなをきの原稿取りにいきます、と出ていく。

 私は、鶴岡との対談集でも言っているが、オタクにジェネレーション・ギャップというものは存在しないと思っている。作品をいくらでも遡って見ることができるソフト環境の充実さえあれば、他の人種より世代間の断絶は軽く飛びこせるのだ。それはこちらも同じ(眠田さんなど、モロに今のおたくと差がない)。逆に言えばそれが問題なので、“第一世代勝手にやってろ”“若い連中が何やってたってオレは知らないよ”と、お互いに相手を横目で見ながら自給自足しすぎている。そこにはあまりに世代対立による互いのポリッシュアップがなさすぎる。壇上に上がった前半にその危惧が見事に出て、互いにいろいろと主張を述べ、第一第二世代の違いを摘出しようとしても、結果、“でもまあ、俺には直接関係ないしぃ”という雰囲気がお互いロコツに出て、双方、声を大にしていろいろしゃべっても、さっぱり方向性が前に向かない。唯一盛り上がったのが、村上隆の“オタクをアートに引き上げる”発言の傲慢さについて意見が一致したとき。共通の敵を前に世代の壁を越えてオタクが手を結ぶ、と言えばキコエはいいが、あんな連中を相手に団結してもどうしようもない。問題は、お互いの相違点すら見つけられないわれわれ自身の内部にある。

 そう感じたので、後半、予定調和的にやまけん氏がまとめにはいろうとしたところで、ちょっと悪がらみをしてみる。“俺の話を二○○人が聞くという状況はオカシイんですよ”というやまけん氏の発言に、“なんでそう思うの? 自分がオタク的生き方を選択して、それに人が耳を傾けるなら、その数は多ければ多いほどいいじゃないの”とツッコんだら、俄然、そこで議論の対立が生まれた。オレ的見方、ということを価値観的最上位に置いて、それが独断と偏見であることを最初に自嘲的に認めておきながら、それをタテに逆に他からの干渉を許さず、己れの陣地を固めようとする若い世代と、自分の考えを敷衍して世界基準にまでもっていこうとして、その世界基準にスリあわせるうちに自分の価値観を変容させても、それはそれでよしとしてしまう第一世代の差異が見えてきた。どちらがヨシというのでなく、その二つの世代は果 して共存すべきなのか、あるいは対立すべきなのかというところまで突き進みそうだったが、残念ながら、日曜日のロフトは12時閉店11時半がトークの限度で、この話題が出たのが11時ころ。結局、三○分ほどしかここを詰めることが出来なかった。 とはいえ、本日ロフトに来た人は、この三○分を聞かなかったら、まあ無駄足であり ましたな。

 ロフトでは明後日にまた睦月さんのトークがあるので、開田さんたちも終了と同時に帰って、私もさすがに疲れた(やまけん氏にあわせてデカい声をだしすぎた)のでK子と近くのお好み焼き屋で文化焼き食って、帰る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa