22日
木曜日
ドンペリ勘定
シャンパン代をまとめてつけること。朝、7時45分起き。朝食、昨日と同じソーセージ。朝刊に水谷準の死亡記事。97歳。いままで存命であったということに逆に仰天する。新青年第四代(確か)の編集長だった人ではないか。私がミステリ関係の人名をぽつぽつ覚えはじめた当時、すでにレトロな名前であった。作家としては典型的短編派で、『お・それ・みお』『恋人を喰べる話』などの幻想味は掬すべきものがあるが、長篇となるとたいがいが途中で飽きて放り投げたか、さもなくば構成が混乱して話がよくわからなくなった、といったものが多かったように思う。ゴルフマニアでその方面の著作が多いどころか、北海道には氏の設計したゴルフコースまである。こういう、多趣味多才な人間というのは、長篇執筆といった地道な作業には向かないらしい。
天気は晴朗、体調もいいのだが、なにかやたら眠い。寝は足りているはずなのに、である。ゆうべ、鼻炎薬のスカイナーをのんで寝たが、これ、一回一カプセルのところを、間違えて二カプセルのんでしまっていた。それで、効果が翌日まで残っているのだろう。ちょっとパソコンの前に座るだけでウトウトとしてしまい、仕事にも提灯にもなったものに非ず。
なにごとも成さぬうちに午後になり、2時から村崎百郎さんとの対談があることを思い出し、あわててマンション下のソバ屋で天丼食べて昼飯にし、時間割に。担当のKくんが、“実は……”と言い出す。今回でこの対談、最終回ということで。村崎さんと二人、口を揃えて“いや、よくここまで続きました!”と叫ぶ。なにしろ、3Dアート専門誌に猟奇殺人事件の対談をエンエン載せていたんだから、怒られないだけでメッケもんであった。“やはり、読者の反応が?”“いえ、そうではなくて、実は×××××××××××××××××××××××××××”とのこと。Kくんと編集長、ぜひともこれは単行本にしたい、と言っている。で、あればなかなかオイシイ仕事であったということになる。
対談自体は例の愛犬家殺人事件の死刑判決が中心。最後の撮影を、北谷公園脇の、ファッションビルの屋上ベランダを利用したシャレた喫茶店で。われわれ二人にはまるで似合わないスカした喫茶店で撮影、というのが基本コンセプトだったが、ここを入れて過去9回、宇田川町近辺のみでダブらずによく場所を捜せたもの。カメラマンの坂本さんが毎回凝りに凝って撮影してくれていた。この連載、鶴岡が“さっさと降りて僕に譲ってくださいよ”と言っていたが、譲るも譲らないもなくなったわな。
今回のネタ探しをネットでしていた中で偶然見つけて、笑ったニュースが、去年の暮に九州で撮影されたと報じられた日本オオカミの写真が、実は四国犬だった、という話。“あれ、私の犬です”という告白の張紙が山中で発見されたという。撮影者は“確証がない”とコメント拒否しているらしいが、最初から、どうみてもイヌだったよな、あれ。
対談時はともかく、撮影に入ると、また眠くなり、どうにも仕方なくなる。買い物して帰り、夕刊を見たら、新珠三千代死去のニュース。17日に亡くなっていたという記事に大々驚愕。まさにその日、この日記のタイトルで名前を使わせてもらっていたのである。と学会を退会しなきゃならんのではないか、とさえ思わせる西手新九郎のミステリアスな腕の冴え。
そのタイトルの受けでもネタに使っていた『細うで繁盛記』以来、新珠三千代は優等生的イメージの役ばかり多くなったが、NHKの銀河テレビ小説『やけぼっくい』では同じように優等生的な女医さん役だけれど、元・夫(高橋昌也)に入浴シーンを偶然のぞかれてしまい、少女みたいに“いやーん、見ちゃ、いやーん”と恥ずかしがるというスゴい演技を軽々とやっており、見ていてその女優としてのハバに驚いたものである。顔は美人というより、高級な犬みたい、とずっと思っていたけれど。
新珠三千代で好きなエピソード。ある日、ロケ先で彼女は目を傷めてしまい、その土地の眼科を探してもらって、マネージャーと一緒に出かけた。ところが、どう間違えたか精神科の病院に行ってしまい、診療室に入って、“新珠三千代でございます”と先生に頭を下げると、先生、マネージャーの方を向いて“で、いつからそう思い込んでいるんですか”。確かミッキー安川の本で読んだ。
あまりに眠く、ちょっと寝転がったら、七時過ぎまでグーと寝込んでしまう。これはスカイナーばかりでない、何か体調の理由があるのではないか。起き出して夕食の支度をし、8時半、帰宅したK子と食べる。LDで『ドラキュラ72』。ドラキュラの19世紀スタイルより、70年代イギリスの若者風俗の方がすでに古臭いのが笑える。ここで共演していたピーター・カッシングとキャロライン・マンローは後に『地底王国』でも一緒に出ている。チャチなヌイグルミのB級SFだが、これが私の非常なお気に入りであり、カッシングがコメディ演技も実にうまい役者であることを確認できる、貴重な作品でもあるのである。