裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

金曜日

龍馬の休日

 タイトルに意味はない。朝7時半起き。8時半から工事がまた入る。1時間ほどで終わる。10時、朝食。スープスパ。食べて歯をみがき、渋谷デンタルオフィス。院長の部屋に招かれ、今後の治療方針についての説明。噛み合わせに一部問題があり、歯列矯正をしてはどうか、と勧められるが、こっちも人前に顔を出す仕事の多い関係上、一年間もブリッジを(正式にはあれはブリッジとは言わないそうだが)つけてはいられない。その旨を申し出て、現状維持で治療してくれるよう頼む。今日は銀冠の取れた奥歯の治療と、歯石取り。

 帰って、仕事。鶴岡からひさしぶりに電話。出版不況の話で大笑い。アマリノ果テニ、という感じか。某ライターは東京では家賃が払えないので千葉に引きこもり、某ライターは仲間と下北でTシャツ屋を経営、なんとか食いつないでいるという。それでもモノを書きたい、というのは一種の執念で、それほど書きたいテーマがあるのかと思うところだが、仕事を見てみるとなんということもないものしかしておらず、結局のところ、ライター(モノカキ)であるという肩書が欲しいだけであるらしい。どうにもわからん話である。だいたい、業界がこれだけ冬と言われている時代に、ライターの数だけはどんどん増えている。私くらいの年だと、何とか出版バブルも経験したし、オイシイ目も見てるから、ついズルズルと、ということもあるだろうが、この時代になって、何も選って食えない業界に入るには及ぶまいと思うのだがな。

 河井克夫氏から『ブレーメン』帯文のお礼の手紙。若いくせに滅茶苦茶礼儀正しい文章。どうも“手紙文の書き方”みたいな本をそのまま写しているらしい(笑)。とはいえうれしい手紙で、私の仕事のフォロワーたらんとしてマンガを描いているとか 言っている。くすぐったい反面、陽があたりそうにないなあ、とツイ、思う。

 メディアワークスのTくんから電話。3冊ほぼ連続進行になりそうな感じ。他の出版社との兼ね合いもあり、仕事を一本、増やすことにする。かえって忙しくなるではないかと思われるかもしれないが、これはすでに他の雑誌で連載していたものをまとめるもので、これを3冊のどれかの間にもぐりこませることで、仕事がメデイァワークスオンリーになってしまうことをふせぐため。うーん、話だけ聞いていると不況どこ吹く風、という感じであるが、金というものはここまで稼いでなお、貯まらないものなのである。

 2時半、喫茶店『時間割』で幻冬舎打ち合わせ。次の『B級学』の構成案もとに、基幹となるテーマを明示する。都市論というのはとかくあっちゃこっちゃに話が飛びがちなので、その視点の方向を定めることが必要。

 4時、赤坂見附駅で開田夫妻、FKJ氏と待合せ、草月ホールで文化庁主催の『ロボットイズム 鉄腕アトムからAIBOまで』を見にいく。招待券もらったのだが、これがこの数年に見たこのテのもので最低の催事だった。文化庁が悪いのか、企画責任者の伊東順二氏の責任か知らないが、ロボットファンなら行かない方がいい。腹が立つから。そもそも看板に偽りありで、ロボットを見せる催しではなく、現代アートの展示会である。そのアートそのものがどうにもならない出来なのである。開田さんとも話したのだが、成田亨の例を見るまでもなく、かつてアートというのはそのイマジネーションを、マンガや特撮などの商業芸術が取り入れる、その対象だった。それがいまや、アートの方でアニメやマンガ、特撮のヨダレを舐めているのである。それも、もっと謙虚に学ぶならともかく、“俺の手にかかればこんなゲテなものでもアートになるんだぜ”という(さすがに口に出しては言わないものの)意識が根底にあるからどうしようもない。そもそも、ロボットというものと最先端アートを結びつけようというのがマチガイなのである。『アイアン・ジャイアント』(出ました)を見ればわかる。ロボットはすでにノスタルジー、レトロの対象なのだよ。

 文句タラタラ、赤坂見附から渋谷に移り、料理屋『九州』へ。K子と待合せて、みんなで飲む。ひでえフェスティバルだった、と言ったらK子、喜ぶ々々。からか鰯、馬刺し、ニガウリ味噌炒めなど。それにモツ鍋。まだ食い足りなさそうな面々をつれてソバ屋『花菜』(この名前、店長の娘さんの名前らしい)で、生ガキ、ギンナン、トロ落ちなどで酒。それとモリ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa