裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

月曜日

いしる、いしる東芝

 タイトルには大いに意味あり。朝7時ころ寒くて目が覚める。部屋のストーブがタイマー設定になっており、夜中に消えていたらしい。窓の外、曇り空に時折雪がチラつき、能登湾の波が美しい。開田さんが庭に出て海を見ていたので、私も身繕い厳重にして出る。雲間から漏れる太陽の光が神々しい。開田さんが出た時間にはもっとすごかったそうだ。しばし寒さを忘れて二人で恍惚とする。

 9時、朝食。イワシを小糠に漬け込んだこんか鰯の焼いたの、数ミリの大きさの貝の身をいちいちマチバリでセセリ出した“しただめ”の煮つけ(7人ぶんで数百個はセセリ出さねばならないだろう。労力を思うと食べるのが悪いほど)、豆腐のいしる漬け、野菜の漬物(これもいしるに漬けたもの)、タラの浜汁、岩モズクなる、岩に付着するモズク。パリパリする食感のモズクというのは珍。そして、究めつけが(毎食キワメツケがあるのだ)ナガモという海草を、今朝早く船で取ってきて、洗ってほぐしたものをお椀に各自で取り、酒粕汁の熱いのをかけて食べるもの。暗褐色の海藻が、熱いお汁をかけたとたんにあざやかな緑に変わる。シャキシャキして、ほんの少しぬめりが出て、今まで味わったことのない味。仕事で全国回っている談之助が“いわゆる旅館の朝飯の定番がひとつもないですね”と驚嘆していた。ここの奥さんは、話のセンスがしゃれていて、なんとなく芸能界の人、ふうの雰囲気だったが、やはり地元のラジオ番組でレギュラーだかセミレギュラーだかを持っている人らしい。桜井さんに、“みなさんのお話が漫才みたいで面白いので、つい、話し込んでしまった”と言っていたという。

 部屋に戻り、色紙を書く。今回は宮丸書店さん、バン借りた人、金沢のファン連合の人たち、ここの宿などにやたら色紙を書いた。いしるを注文しておく。この宿、夏はテラスで能登湾を眺めながら生ビールが最高だそうだ。私たちは是非また行くつもりであるが、みなさんはくれぐれも行こうなどと思わないように。

 雪、かなり強くなる。桜井さん運転のバンで羽咋市に向かう。ゆうべ、布団にもぐりこんで読んだ田中香涯の本に屈葬の風習のことが述べられており、羽咋と沖縄にこの風習が残る(戦前の話)と書かれていた。ほんの数頁読んだだけで寝てしまったのだが、そこに羽咋などという難読地名で、しかも生まれて初めて訪れる町の名前が記載されているというのもシンクロニシティな話である。

 コスモアイル羽咋。というよりUFO記念館と言った方がいい。UFOで村おこしと一時有名になったところである。思っていたよりはるかにデカい建物で、ジェミニロケットが入口に突っ立っている。能登というところは古記録にUFOらしい飛行物体の記録が多く残っているところらしく、そこからUFO博物館の建設が通ったらしいが、最初はUFOによるアブダクションやロズウェル事件の様子をジオラマにして並べていたのが、官費を使ってこういう秘宝館みたいなのはいかがなものか、という意見が出て、今は宇宙開発博物館のような感じの展示物になってしまっている。いささかトンデモではなくなっているのが残念と言えば残念だが、それでもNASAから提供された(月面探査車の初期デザイン仕様などは、本物をNASAが100年の期限で貸与してくれているという)数々の展示物は見応えあり。アメリカのものよりも旧ソ連製のものが珍しく、ボストーク宇宙船の、まるきり丸い砲弾のようなカプセルだの、球体をいくつもくっつけあわせたような奇怪なデザインのルナ無人月面探査船だのが非常に面白かった。

 博物館の隣のラーメン屋で、UFOラーメンなるものを頼む。UFOと宇宙人つきとメニューにある。何が乗っているかと思ったら、UFOは円盤型の揚げギョーザ、宇宙人の方はイイダコの茹でたの、だった。こう書くとバカみたいだが、イイダコのつるんとした頭は、なるほどグレイに似ている。食後、さらに車を飛ばし、行きの道で見て全員“おお!”と声をあげたドライブインに入る。巨大なコンクリ製の龍船の形をした建物で、七福神センターという名称であり、地下に恐竜博物館と七福神展示館がある。もっとも、スゴいのは外見だけで、中はただのオミヤゲ屋。アイデアが中途ハンパですな。談之助さんは、旅行前日送った筈の原稿が送られていないというトラブルが発生、事後処理に追われていた。

 そこから金沢市に戻り、ホテルアスティに投宿。荷物のみ置いて、桜井氏の食器店に行く。K子が、いきつけの寿司屋に食器を買ってきてやると約束したため。桜井氏の奥さん、ご両親にも挨拶。睦月さんは陶器の招き猫(巫女の格好をしているやつ)を買っていた。談之助さんの原稿、無事善後策済んだ模様。

 近くの喫茶店で時間つぶし、7時に市内の和食屋『紙屋市べゑ』に行く。ここは、『さんなみ』さんからいしるを卸している、桜井氏おすすめの和食屋。和食屋なのに紙屋というのは、紙問屋の倉庫を改造して店にしているため。おすすめのワインで乾杯。いしるドレッシングのサラダからはじまって、目の前で豆乳から製造する豆腐、自家製ちくわ、炭火焼きの魚介類など。ここで焼いたハタハタが甘くて絶品、おかわり二回する。桜井さんの友人も加わり、盛り上がってまた大酒。桜井さんはもともとあまり飲めない人なのだが、みんなに勧められて飲んだのと、昨日までの緊張がほぐれたのとで、あやつり人形の糸が切れたみたいな格好になって寝てしまった。私もかなり酔っ払い、睦月さんからタバコもらって吸っていた。こないだの銀座でも吸ったような記憶がある。ワインで酔うとタバコ吸いたくなるのか?

 それからカラオケに移動。アニソン特ソンしばり。K子がかなりオタソン連発。ううむ、知ってるんじゃないか。何がなんだかわからない盛り上りのうちに金沢二夜目はふけていくのであった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa