裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

金曜日

ボンジョビ証拠

 タイトルは意味がない。言わなくてもわかるか。家の薬局(なぜか実際の薬局ではなく、アーケード下の商店街にある店)を継いだが経営難で、支店まであるのに従業員にサツマアゲの現物支給でしか給料を支払えない、という夢を見て起き、8時に朝 食。スープスパゲッティ。

 今日は工事が入るので急いで風呂へ入り、どかす本棚などを整理し、原稿書く。週アス一本アゲ。K子は猫を近くのペットショップに預けにいく。10時ころ、十人ばかりどやどやとやってきてどんどん、家の中にボール紙を引き、ホコリが飛ばないようにビニールをかぶせていく。ギリギリまで仕事しているが、そのパソコンと私の両方にビニールがかぶせられる。酸素室で仕事してるみたいだ。トイレの配管も工事するため、使えなくなる。地下の管理人室のわきに共同トイレがあるのだが、このマンションの住人はそこでするのを嫌がって、隣の税務署のトイレを使っているようだ。とにかく、家じゅう本だらけ、裏グッズだらけで、こういう他人様の家に入る工事の場合、あまりキョロキョロしないように、と言われているんだろうが、さすがにみんな、好奇心いっぱいの表情。年配の作業員が玄関にかけてある『黄金バット』(東映映画)のスチールをながめて、“こういう映画が作られてたんですなア。主演は誰?千葉真一? へえ、そんなのに出ていたんですか”と驚いていた。

 11時、歯医者へ行く。前歯の根を固め、噛み合わせを検査して、仮歯を入れる。この仮歯が、あまりぶつからないように、と小さめのが入ったため、歯を剥き出すと乱杭歯のように見える。テレビではあまり歯を出して笑わないようにしよう。

 あまり腹も空いてなかったが、とりあえずチャーリーハウスでトンミン一杯すすって、一旦帰り(交代でK子がメシに出る)、彼女が帰ったところでNHKへ。ウィークエンドジョイ出演。中山エミリに“今朝、カラサワさんテレビで見ましたぁ”と言われる。あれ、朝の放送だったのか。昼だと思ってた。控室に入ったら、スタッフが“こないだはカラサワさんに弁当を褒められたので”と、また弁当をすすめる。自慢らしい。断るのも悪いので食べる。ノリが二重になったノリ弁で、確かにうまい(ただ、食べたあと口をゆすがないと歯にノリがつく)が、昼二食になってしまったため胃に全身の血がいってしまったか、眠くなって、頭が回らない。リハのとき、順番を取り違えたり、ナレーションを飛ばしたり、映画の内容についてトンチンカンなこと言ってしまったりして、いささか不調。ノドはやたら乾くし、ダルくなって、本番までの一時間半、ソファでぐったりして、他の番組の収録模様をモニターでながめる。ディレクターのYくん(昨日Uくんと誤記してた。ユで始まるのでつい)、私にさんざツツかれて、『アイアン・ジャイアント』を今回はじめ、次回のロボット特集企画でも使うと言っている。やりましたね。

 で、本番。オレはライブ人間だな、と思うのは、本番になるとアドレナリンが射精のように噴出して、急にシャキッとなることである。特に今日はリハで失敗しているし、“マシンガントークのカラサワさん”などと紹介されているので、全速力でトバす。当社比15パーセント増しの早口で、脇の女性陣が呆れて“倒れませんか?”と心配した。しかもトチリによる撮り直しナシ。私は早口であればあるほどしゃべりやすい人間なのである。アナウンサーやっている子に“なぜそんな早くしゃべって文法が正確なんですか”と大感心された。早口と文法は関係なかんべえな。

 家に帰ると平穏無事、というわけにはやはりいかず、トイレの配管いじったら水が止まらなくなり、それがいじったせいでなく、そもそもの配管の老朽化のせいだそうで、K子がこのマンションの管理会社に電話していた。一応、使用は可能。7時半ころ手打ちソバ屋に行き、肉豆腐、野沢菜、揚げナスなどで酒。盛りソバ一杯。

 山本シュウが、前回の“カラサワさん”から今回、“センセイ”に呼称を一段、上げて(?)こっちを呼ぶようになった。やはりセンセイが似合う正体不明男らしい。徳川夢声化がどんどん進行しているようで、悪い気はしない。妙に無頼ぶって先生と呼ばれると怒る人々もいるが、私も昔、編集まがいのことをしていたとき、モノカキなどという人種を何と呼べばいいのか困惑したことがある。先生というのは無難な敬称なのである。そう言えば、以前の鶴岡法斎との電話での会話。
「植木不等式さんは、俺のような者でも先生と呼んでくれるんですよ」
「さすがジャーナリストだね」
「でも、名前の方を省略して、“ツル先生”って呼ぶんですよ」
「トキ課長みたいだね」

Copyright 2006 Shunichi Karasawa