23日
土曜日
飛びだすな、車はQが改造だ
「このボタンを押すと、屋根が開いて、座席ごと外に飛びだす」(ブースロイド少佐)
※『都電で紙芝居を見る会』
朝、7時半起床。大嫌いな奴に力を貸して成功させてやる夢。入浴、カカト削り。メールチェック、アルゴピクチャーズH氏から某企画ストーリィ絶賛のメール。そっちにも急いで手をつけねば。
9時朝食。アメリカンチェリーとミカン。コンドロイチンドリンク。足の治りを早めるため。某所からのいただきものでミルクティーを作ったら変な味になった、というので見てみたら北欧のもので、松の木で葉を燻してあるのだった。これはブランデーでも垂らして夜に味わうもんだね、と。母は明日から札幌。
日記つけなどして昼まで。1時に家を出る。本日は中野晴行氏の肝煎りで『都電で紙芝居を見る会』である。それに誘われたため。
行きの車中、藤川黎『虹の橋 黒澤明と本木荘二郎』(1984,虹プロモーション)読む。黒澤明前期のやり手プロデューサーから一転、その元を離れてピンク映画の制作者となり、最後は陋巷に斃死した日本映画黄金時代の暗部である人物。一応、その謎を、生前の本木を知る人物を訪ねて歩き話を聞くというドキュメント形式になっているものの、一読、その読みづらさに閉口。
小説体になっているのはどういう意味があるのか、迫ろうとしてついに迫りきれなかったところを想像で補いたかったのか、文中に本木の妻だった女性の言葉として
「文学は事実を描くものではなく、真実を暴くものではないかしら」
とある。自分の書いているのは真実なのだ、と言いたかったのか。
それにしても、インタビュー集みたいなものだから会話の連続なのだが、その会話文が一種独特、映画業界の人間も場末の飲み屋の人間もみんな一律同じ調子で、同じような人生観を持ち、一様に“必ず”話の終わりに警句を吐く。
「本木さんの人生、敗残だと思いません。勝利だとも考えません。勝ちも負けも土の中では同じ色でございます」
「ねえ君、活字に文化を求めるのはサハラの砂漠に龍舌蘭の花をさがしに行くようなものさ。果たして、本木荘二郎、敗者の論理がこの浮世に通じるかな」
「あの人は苦労に苦労を重ねて作り上げた手品のタネを、観客席の盲目の少女のために明かしてしまう手品師なの」
「一握の土にさせておくには惜しい。一陣の風に見立てるとなると虚しい。おこがましいけど、今ひとたび、一粒の麦として蘇らせたいものだね」
「もはや、映画は虫の息よ、本木さんは愛しい我が子の臨終を知らずに亡くなった、大往生ですよ。蓮華草は人知れず野辺に咲き、人知れず野辺で枯れるもんですよ」
「本木荘二郎も黒澤明なるジョーカーを掴んだはずだよ、ババになるか、切り札になるか、さておき、その一枚を手繰らずして、上がり目はないね」
……小説家気取り、無頼派気取りのその文体にヘキエキしながらも、読み進んでいくうちに、またインタビュー部分が始まると、どういう名文句が出てくるか、期待してきてしまうようになるのもまた事実。
都電早稲田駅、ついたら中野氏とちくま書房のAさん。こないだの書評の礼を言われる。準備にこれからかかるらしいので、その間、近くの蕎麦屋で、昼飯。味噌カツランチをとる。なかなか美味い。
また駅に戻ると、三々五々、メンバー集ってくる。長谷邦夫先生、芦辺拓ご夫妻、小学館のS女史、浴衣姿。その他マンガ家のうぉりゃー大橋さん、朝日新聞の人、大修館書房の人、藤本ゆかりさんなど、総勢三十人ほど。レトロ仕様の都電9001『宝くじ号』に乗って早稲田から三ノ輪までの車中で、鈴木常勝氏の口演で左久良五郎こと、中野さんの名著『酒井七馬伝』の主人公左久良五郎・作の紙芝居を観賞しようという趣向。
今日の演しもの、『鞍馬天狗』のいただきの『鞍馬小天狗』、『ローン・レンジャー』の本案の『少年ローンレンジャー』、面白いがどれも最初の一巻のみなので主人公がそう活躍しない。世界最終戦争ものである某作品、これは最終巻のみで、放射能を浴びて怪物化した二人の悪漢がサンダとガイラのように互いに戦いあって死に、池に沈んでいくという凄惨な話。
語りの技術に関しては、悪いが私は梅田佳声をもう知ってしまっているので、比較するのは鈴木氏にとっては気の毒だろう。ただ、大阪の紙芝居独特の、客の子供たちのツッコミを自明のものとして、ひとつのフィールド(場)を形作っていくやり方は非常に新鮮だった。途中でクイズあり、一問当てて、弥生美術館での武部本一郎展のチケットをもらう。
そこらで終点の三ノ輪。ここで商店街の蕎麦屋『砂場』。1954年の建造で荒川区の指定文化財になっている店。ここでビールと酒が入り、今日の出席者の自己紹介がそれぞれあって、さらに鈴木さんの新作紙芝居、それと『暴れん坊左膳』というチャンバラ紙芝居。これは構図といい絵といい見事。店内のガラスケースに汽車のミニチュアが走っており、芦辺さんが
「こういう趣味もええなあ」
と言うと、奥様が
「それだけはやめて」
と。これ以上趣味を増やしてもらいたくない、とのことで笑う。50にして鉄ちゃんに目覚められたら確かに奥さんとしてはやってられないだろう。それにしてもいい夫婦だ。
そこらで散会。藤本ゆかりさんから原稿依頼一本、受けた。時間は7時だったが、外はまだ明るい。行きは紙芝居に気をとられて、周囲の光景を見逃していたのでさきほどの都電に乗り、早稲田まで遡行。夕暮れの街々を楽しむ。早稲田から渋谷、仕事場で明日の笹公人さんの結婚式に着るモーニングをとり、新中野に戻る。さっきの砂場でそば湯割り焼酎など入っていたが、酔いが醒め加減だったので、もう一回、ビールとホッピーで酔い直し。
ビデオでウルトラセブン、『超兵器R1号』『盗まれたウルトラアイ』。『超兵器〜』のマエノ博士役の田村奈巳、美人だなあ。もともと東宝で星由里子、浜美枝と三人でスリー・ペッツとして売り出された中で、一番コケティッシュな顔立ちだった。
http://www.tamura-nami.com/eiga.html#
↑ここの『宣伝用写真』参照。
他の二人が東宝特撮映画でヒロインを演じていて、田村奈巳だけそれがないのをこの一作で取り返すほどの名作ではあるが、しかしやはり、彼女を特撮映画のスクリーン上で見てみたかった気もする。『盗まれたウルトラアイ』の渋谷風俗も、ああ時代、という感じ。ウルトラシリーズで最も未来志向のセブンに、もっとも“昭和”が反映しているというのが面白い。