30日
火曜日
君のイク道は果てしなく遠い
まだなの? 本当にあんた、遅漏なんだから(ソープ嬢・談)
7時半起床、元気々々。肩がちょっと凝っているがマッサージ行く暇もこのところとんと無し。入浴、朝食9時。トマトのスープ、酸味さわやか。それとスイカ。
午前中は日記つけ、トンデモ本大賞エンディングムービーの件で連絡など。しかしいろいろと用事の多い男である。ミリオンの打ち上げの場所も(当初予定していた虎の子がその日は休みだった)決めねばならぬ。
先日日記に書いたいしかわじゅん批判に“溜飲が下がった”“猫の首に鈴をつけてくれたようなもの”などと絶賛メールがいくつも。人の悪口を言って褒められるのもどうかと思うがみんな思っても口に出来ないでいたらしい。なぜ、口に出来ないのかよくわからない。別に業界の実力者というわけでもなかろうに。いしかわ氏が辛口コメンテーターであることに異存はないが、その意見に人、ことに言われた当人が反論できないでいる、その状況が問題なのである。
2時に打ち合せなので早めに事務所に出る。事務所で弁当を使い(おかずはキンピラゴボウ)、メディアファクトリーからの使いの子に図版資料渡し、2時に時間割。廣済堂出版Iくん。会うのはもう、1年半ぶりくらいか。
Iくんは大和書房時代『トンデモ一行知識の世界』を企画制作してくれた人である。言わば私にとってはマイナーモノカキからメジャーの末端に上らせてくれた恩人の一人である。その恩人を一年半以上ほったらかしにしておいたのはまことに申し訳ない次第。おわびに、いろいろ出版先を探していたちょっと大きめの企画をIくんに差し上げることにする。Iくん、『プロント・プロント』の内容を褒めてくれる。業界人にはプロントで打ち合せする人間が多いから、この連載は目に付く、とのこと。
事務所に帰り、『ダ・ヴィンチ』原稿書く。書けばお手の物のテーマと、蘊蓄を並べられる楽しい原稿なのに、なにゆえここまで遅らせたかというと、ひたすら天気ゆえである。さればとて落語の『天災』じゃないが天をうらめるわけもなく、なんとか打開策を今後のために講じねばなるまい。ヒロポンがあればと、半ば真面目に思うのである。
途中でどどいつ文庫さん来て洋書十数冊。伊東さん、先日の楽工社との打ち合せ以降これまで扱ってきた本の分類などを始めており、近くそれをメールしますとのこと。何か現代の仙人みたいな風情のあったこの人がものにそんなに一所懸命に取り組むのを見たのは初めてかもしれない。やはり、著書を出すということは大きい。
また仕事場に戻り、なんとか原稿アゲてメール。それから連絡事項あちこちに。向こうサイドの思惑とこっちサイドの思惑との調整、双方の間詰めていくのが仕事というもの。とはいえそれが複数あると案外ワタワタ。
さらに原稿執筆、幻冬舎トテカワさんのもの。なんとか、前回半チクで渡した原稿のエピソードの最後まで書いてまとめをつける。……と、いうことは、つまり今回も半チクってことだが。6時半、東武ホテルで。トテカワは時間割より、こっちの方が好みのようである。原稿、枚数がなかったが内容には満足してくれたよう。もっとも、こっちはまだ先が長い。優先してやらねばならぬ新書の話をする。彼女が出してきた次の新書企画を聞いて、こういう風にまとめたら、と即興で構成して話すと、それをすぐまとめて企画会議に出したいという。
即興で話がまとめられたのは別に私がスゴいわけではなく、いつぞやTBSの収録の際に彼女が立ちあって、その後一緒に飲んだ酒の席で私が話したバカ話を面白がった彼女が、それを新書に仕立てられないか、と考えたのである。そのときのバカ話を、少し論理的にまとめただけ。酒の席の効用ここにあり、という感じである。
ただし酒の席でのバカ話が元の企画だけにかなりキワドイファクターもあり、担当編集でなければ妙齢の美女に向かってこんなことを延々話すというのはセクハラになるだろうというようなもの。かわいい顔して、それを聞いて嬉しそうに目を輝かす嫁入り前の娘というのも、親が見たらどうか。
面白いのは、この企画は前の企画の結論部分とリンクするということ。先の本のラストに、この本の予告を入れてしまう、というアイデアを出す。これはこの数日、トンデモ本大賞のエンディングで来年のイイノホール開催の予告を打とう、と話しあっていたため。発想の連鎖というか、全く別のところで考えていたアイデアが別のところで生きるというか、こういうのは実に面白い。
駅近くで彼女と別れて(悲しい)、西武デパ地下で買い物、タクシーで帰宅。夜半に大雨という予報だったが、霧雨みたいなものは降っていたものの、濡れずに帰れた。ただし湿気ひどし。
シャワー浴びて体のベトベトした汗を流し、夕食。ホッピー飲みつつチキンカツ煮、目刺し、ホタルイカ酢味噌。DVDで『竜馬暗殺』。黒木和雄追悼の意味で。私の青春は名画座でこの映画を追いかけることだった、ような気もする。最初に見たのは千石の三百人劇場での上映だったか。やたらコントラストがきつく、粒子の粗い白黒画面の中で、政治闘争の内ゲバで身動きのとれなくなった若者たちが、息苦しく自分たちのアイデンティティを模索しつつ、挫折していく。原田芳雄の竜馬もいいが、石橋蓮司の中岡慎太郎が、ハマリ役という言葉を具象化したような存在感。妙にホモっぽく竜馬とからむところは、やおいファンが見ても損はしないと思う。まだ初々しい松田優作の女装姿も見られるし。……しかし、自分で映画製作とかに加わってみると、この映画、はしばしのところで、金がかけられなかったんだろうなあ、ということがわかって、あんまり純粋に楽しめないような気も。
ネットニュースで今村昌平監督死去の報。『復讐するは我にあり』の力技には感服した思いでがあるが、私はこの人のいわゆる“重喜劇”があまり好きではなく、いま現在批評する言葉をあまり持たない。丹波哲郎が、この人の『豚と軍艦』に出て、子犬の死骸が海岸にあるシーンで、本当に犬に注射して殺しているのを見て、“二度とこの監督の映画には出ないぞと思ったね。リアリズムってのはそんなもんじゃない”と憤慨したと言うエピソードを読んだことも原因。しかし、遺作となった『赤い橋の下のぬるい水』のナンセンス性には大変に興味を持った。改めて、まとめてこの監督の作品を観て、イメージを新たにしてみようと思う。それにしても、ここ数日の訃報続きはいったいどうしたことか。
酒のつまみ、どれも大変結構。〆に、ビーフンを茹でて、ナンプラー風味の汁うどんを作って食べる。香菜が西武になかったので、代わりにイタリアンパセリを大量にぶちこむ。美味。K子が帰ってきたので、あまりの汁ビーフンをやる。12時半就寝。