23日
火曜日
かげまる子ちゃん
「あたしゃ遠くから来たよ。で、また遠くまで行くんだよこれが」
朝8時起床。昨日に変わって天気グズっている。こんな5月はイヤだ。野菜の値段が日射量不足の生育不全で高騰しているそうだ。
「自然が一番」
などと言っていると自然に復讐される。人工太陽に照らされて気候も気圧も自由自在なドーム都市くらい、21世紀になってまだ作れんのか、と鉄腕アトム世代は思う。そう言えばこないだ傍見さんなどと
「四季があるというのは実はメンドくさいのではないか」
と話した。四季折々の季節を迎える準備などで日本人の一年の大半は消費されているのではないか。
K子風邪でノドを痛めたか、咳と咳払い頻繁。トイレ読書の『ウォーホル日記』、今日の(1977年10月4日)登場セレブはティモシー・リアリー。14歳のガールフレンドにLSDをやらせて逮捕、スイスの刑務所に入れられたが、やたら豪華で快適な刑務所で、金さえ払えば盆に乗せてペイストリーを持ってきてくれるとか。
朝食9時、ホウレンソウのスープ。見事な真緑。ポパイになった気分で啜る。あと青汁(葉緑素をよくとる朝だ)、オレンジ小一顆、ブドー数粒。母はこないだK川さんに貰ったチケットで『大ナスカ展』に行ってきたとか。案外いろいろ出歩いている。
午前中は無為に過ごしてしまう。12時、弁当使う。菜はシャケのつけ焼き。味噌汁にウズラの卵を落とすが鶏卵と違ってすぐ固ゆで卵になってしまう。
2時、渋谷仕事場。大山のあたりで“HELL石油”という看板を見つけてわはは、と笑う。“SHELL石油”のSの字の部分が落っこちているのだが、誰か直そうとしないかな。
仕事場で『創』対談原稿チェック。それから急いでタクシーに乗り、青山フロラシオンホテル。15分しか時間がなかったが、5分遅れで到着。表参道の混雑が無ければ時間ピッタリだったろう。そこで『東京人』Kさんとカメラマンさんと待ち合わせ、少し今日のインタビューについて打ち合せる。
フロラシオンでやるのかと思ったら、その裏手に今日のインタビュイー、天野隆子さんのお宅があるという。小雨ポツポツ降り出し。通りを行く人がみな小走りになったりするがKさん、平気で
「まだ傘さすほどじゃないですね」
と言う。Kさんはこないだの対談のときも思ったが、ちょっと不思議少女系の人。
天野さんのお宅、私のような職業のものがまず、持てない、きれいに掃除の行き届いた東京の家、である。応接間に通され、お茶とお茶菓子が出る。上品な上流階級の御婦人、という感じ。夏の和服姿(掲載号が7月号なので)というのも気配りが。戦前からこの青山にお住まいという気品には、私のような田舎者はとてもかなわず。
インタビューのテーマは昭和30年代の食卓、で、インスタント食品などが次第に家庭に普及していった様子を聞こうと思ったのだが、なにしろ天野さんの家ではプリンですらハウスプリンなどを使わず卵と牛乳で手作りする家ということで、あまりこちらのねらった話は聞けず。その代わり、東京人の生活について、考証家の立場からずいぶんとためになるお話を伺えた。
「お買い物カゴか出ている葱も、放っておくと今の小道具さんたちは何の疑問もなく青いところが切られているお葱を入れてしまいますからねえ」
そうそう、サザエさんのマンガを見ても、いまからほんの10年ほど前までの葱は青い先っちょがちゃんとついて、折れて垂れていた。
NHKのドラマは小道具を本当に丁寧に作る。米穀通帳も、中の印刷はもちろん、捺してある判子の文字まで隷書体でしっかり作ってあるそうな。そんなところ、画面には絶対映らないのだが、
「そこをいい加減に作ると、役者さんたちが“これがカメラに映ってはいけない”と思い、演技が自然でなくなる。役者に完璧な演技をしてもらうために、小道具も完璧であることが必要」
というのがポリシーなのだそうだ。これは確かにNHKならではのぜいたくだろう。
長野県のファンだそうで(諏訪の方に山荘をお持ちだとか)、伊賀良の花火のことを話すと、
「あら、それ行きたいわ」
とおっしゃる。Kさんも行きたいと言っていたので、今年は誘ってみようか。写真写すとき、
「カラサワさんと一緒に撮ってほしいわ」
とおっしゃるので(今回は私はインタビュアーなので写真は雑誌には載らない)、並んで撮影。
話が(インタビュー終わったあとで)案外はずみ、延びて一時間、という予定が二時間を超す。これはいこと。出ると雨、またポツンポツン。KさんとM丸くん(こないだの青山に連れ立って来てくれた)の関係を訊いたら、大学の先輩後輩なんだとか。M丸くんは話つぃがこれまで知りあった編集者さんの中でも奇人の部類に属し、Kさんは不思議少女系。H橋大はこういう人材を出すのか?
カメラマンさんの車に便乗させてもらい事務所に。彼は今日のインタビュイーを男性だとばかり思っており、名刺を渡されて驚いたとか。
「だって、編集部からのメールに“天野隆子”って書いてあったでしょう」
「だって、子がついたって、川畑龍子とか男ってことがあるじゃないですか」
……そこまでムリして勘違いしなくとも。
事務所に帰る。バーバラ、昨日話した某企画のこと、もう実行のダンドリをどんどん進めている。講談社週刊現代漫画評原稿。書き上げて、さてNHK(『ふれあいラジオパーティ』)に行くか、とオノと準備したところに現代のNさんから電話、少しハミ出すという。私が文字数をカン違いしていた。週刊現代は高年齢層読者のためにしばらく前に文字の級数を大きくしたのだが、そのために各連載コラムの文字数が、少し減った。それを忘れていた。迷惑な話である。減らしたものをメールで送り、さらにそれでも一行オーバーというので行送りなどで調整、再々度送ってやっとOK。
それでやっと出かけたので15分遅刻。ロビーで待つが、迎えに来たお姉ちゃんが私たちを無視していきなり窓口に
「カラサワシュンイチさんという方はどこでしょう」
と訊いていた。私の顔を知らなくても、いかにもアヤシゲな人物が人待ち顔に立っていれば、まずそっちに声をかければいいのにねえ、とオノとひそひそ。
打ち合せ室、北原照久さん、太田裕美さん。打ち合せのときにもう、いろいろと話がはずむ。なにしろテーマが“復刻版”ということなので北原さんの独壇場。北原さんは今年57だが50からギターとゴルフを初めて、ゴルフは今日の午前中に軽井沢で100を切り、ギターは来週、コンサートを開くという。カラサワさんももう2年で50でしょう、ぜひゴルフと楽器はおはじめなさいと勧められる。
で、スタジオ入り。いったんマイクを前にすると、それは伊達に自分の番組持っていない。しかも生放送は久しぶりなのでテンション上がる。マイク泥棒の本領発揮で、大人買いの説明で
「“あの頃の自分”に買ってあげているんですよ」
などと言って太田さんに“ロマンチストですねえ!”と大感心される。それに嫉妬した北原さんが対抗心燃やしていたのが面白かったが、しゃべりではこちらが翻弄、ラストも台本を分捕る形で〆る。盛り上がり、全員が“楽しかった、またこのメンバーでやりたい”と言いあって別れる。やっぱりラジオは生ですねえ。
アナウンサーの青木裕子さん、旦那さんが精神科医で、あの『失踪日記』にも登場する吾妻ひでおの主治医だとか。その主治医本人に会ったより、こういう間接的な話を聞く方が興奮するのはなぜか。
タクシー券出してもらって新宿へ行き、紅房子でオノと晩飯。45分番組とはいえ、テンションを下げるには酒。今日の話や先の話いろいろしながら、特大肉団子、レモン鶏、大根餅などで紹興酒、それから汾酒。今日の原稿受け渡しキャンセル、トテカワにメールしたのだが彼女は朝から会社を出ていてメール読めず、東武ホテルでポツンと待っていたそうだ。想像するとちょっと萌える。いや、悪かったとは重々思うのだが。11時くらいにタクシーで帰宅。本を持ってベッドに入るがすぐグーと寝てしまう。