裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

ジジェクの屁

……すいません、元ネタは落語『四宿の屁』です。

朝8時起き、7時起床をこのごろK子はしていて寝室に明りをつけてしまう。入浴して9時、朝食。コーンスープ、青汁、バナナ一本、ブドー数粒。久しぶりに晴れる。日記つけ、ぼんやりとする。ぼんやりしている暇はないはずだが。

海外サイトを見歩いていたら、今月の10日にヴァル・ゲストが94歳で亡くなっていた。『原子人間』『恐竜時代』など、われわれの世代には懐かしいB級SF作品を撮った監督である。まあ職人かたぎの監督というか、SFからホラー、アクション、コメディ、エロと何でも撮った人で、犯罪アクション『ダイヤモンドの犬たち』は学生時代、名画座で何度も見た。見たくて見たわけではなくてやたら他の作品と併映されていたからだが、ちゃんとハマー時代に仕事をしていたクリストファー・リーを起用するあたり、義理堅い。

一番の大作は007の大パロディ映画『007/カジノロワイヤル』だろうか。もっともこの映画、ジョン・ヒューストンはじめ監督が5人もいて、とっちらかっちゃった映画だが。テレビでもロジャー・ムーアとトニー・カーチスの(と、いうよりわれわれには佐々木功と広川太一郎の)『ダンディ2/華麗な冒険』などを演出しており50年代から70年代にかけてのエンタテインメント作品を手堅く演出して、楽しませてくれた人だった。冥福を祈りたい。

ゆうべ出かけた『吉祥寺冗談音楽祭』、どんな評判かとmixi検索をかけたら、いしかわじゅんの日記が出てきた。これが見事に私の評価と逆のことを書いていて、面白い。ホントにわかってないやつだな、と思うし、向こうは私の評価を読んで同じことを思うだろう。

“私の立場”で言わせてもらえば、マンガ夜話での彼の発言などもそうだし、彼が言及するプロレス、芸能など全般にわたってそうなのだけれど、いしかわじゅんの批評というのは決して間違ってはいないが近視眼的、という典型的批評だと思う。個人の技術、才能、精進ということに視野が限られていて
「業界、もっと言えば時代全般の中で、その人とその芸や作品がどういう位置づけで認知され評価されているか」
という視点がまるでない。だから、大仁田のプロレスについて
「弱いくせにプロレスラーと名乗るのはけしからん」
というトンチンカンな批評しか出来ず、彼の登場がプロレスという“ショー”の形そのものを変化させたパワーを理解できないことを露呈してしまっているし、どこだったかの雑誌の芸能評でモー娘。の歌を聴いて
「下手だ。彼女たちはこんな歌唱力でテレビに出るのを恥ずかしいと思わないか」
という、タクシーの運ちゃんだっても少しヒネったことを言うだろうという小言どまりで、“じゃあ、何故彼女たちはここまで芸能界で伝説となるほどの存在になったのだろうか?”という、芸能界の本質に関わる構造についてまでは理解すら及べないでいる。

嫌われることをいとわずずけずけものをいう、というキャラだけで仕事が来ていると気づかず、自分の意見を正論と信じ込んでいるところがまたお話にならない。敢て正統論を言っているのだ、と言うのなら、その、正統的な人の芸なり腕なりをきちんと評論したことが今までこの人に一度でもあるか。業界内でのプライベートなエピソードをちょこちょこ紹介したにとどまっているような文章ばかり書いていて、偉そうなことは言わないでもらいたい。

原稿資料読んだりして昼すぎまで。2時、カバンかついで地下鉄で赤坂見附まで。そこからタクシーで駿台坂下。古書会館即売会。講談社の連載に使う雑誌資料などいくつか買うが、あまり目ぼしい買い物はないな、と思っていたら、いつぞやここの古書市で立ち読みはしたが買わなかった『ウォーホル日記』(文藝春秋)があった。

買わなかったのはあまりに大部(931ページ)な本で、興味はあるが役に立つという類の本でもなかったからだが、原価14000円。古書価5250円(どちらも税込値段)で出ていたので、まあ、と思い購入。トイレ読書用にして少しづつ読んでいこう。
古書会館を出たら何と、一時間ほどの間に空模様急変して大雨。今日はカスミ書房さんにも(昼間電話くれたので)立ち寄ろうと思っていたのだが、傘の用意なくずぶ濡れになりそうだったので、そこでタクシー拾って渋谷の仕事場に直行。昼飯も食いそびれる。

仕事場に届いていたトンデモ本大賞授賞式用のサインカードにサインし、幻冬舎のトテカワYさんに昨日の解説原稿のデータを(少し手を入れた後)メール。気圧の乱れか、眠くなったので仮眠用布団に横になったら気絶するようにオチてしまい、数度目を覚ましてはまたオチる、という繰り返し。結局グーと寝てしまい、起き出したら7時半になっていた。

急いで帰宅、今日はと学会の本郷さん、K川さん、それとパイデザ夫妻を招いて家の食事会。本郷さんに貰ったワンタンの皮での包み揚げ、トマトと野菜のゼリー寄せ、カブのスープ、ホタテとハマグリのガーリック焼き、鴨の葡萄ソースなど。本郷さんたちの台湾の話、パイデザのタイの話。それから、両人とも国家公務員である本郷・K川さんの就職エピソードなど。本郷さんはバブル期にリクルートに就職したことがあるが、入社式にあまりに人が多いので、江副社長はじめ会社の経営陣は、どこにいてもわかるように服に風船をつけて目印にしていたそうである。私曰く
「ピグモンじゃあるまいし」
パイデザに、リニューアルするホームページのデザインと機能を見せてもらう。日記機能が大幅にアップするようでうれしい。11時半、自室に戻り、半身浴。つかりながら岩波新書『悪役レスラーは笑う−「卑劣なジャップ」グレート東郷』(森達也)をほぼ読破。森氏は映画『A』や清田益章をレポートした『スプーン』などでは、ちとドキュメントする対象にシンパシーを感じすぎ、といったところがあるのだが、この『悪役レスラーは笑う』では、対象のグレート東郷も、彼をよく知る人もほとんどがこの世を去っており、距離をおかざるを得ない、という立場がほどよくその“近寄りすぎ”を妨げていて、いい感じの取材記録になっている。結局疑問が疑問のまま終わるところもむしろ好感が持てた。

寝床で『ウォーホル日記』を読むが、重すぎて腕が疲れる。パーティづくし、美女だらけゲイだらけの毎日。しかしそういう“日常”の記述に登場してくるメンツが凄くミック・ジャガー、マイケル・ジャクソン(『ウィズ』の頃の)、デニス・ホッパー(『地獄黙示録』の頃の)、マーティン・スコセッシとその横暴な母親、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ、ダスティン・ホフマン、ポーレット・ゴダード、ヘルムート・ニュートン、ロマン・ポランスキーというのだから豪華。ポランスキーは例の少女強姦事件で保釈されたばかりで、パーティで女性たちに“レイプしちゃうぞ!”とやって笑わせていたそうである。なにをやっているんだか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa