裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

水曜日

あなたならドゥルーズ

泣くの歩くの死んじゃうの(本当に投身自殺した)。

『ウォーホル日記』が面白いのでちょっとその文体で書いてみよう。

朝7時半に起きた。K子は簿記の講習に朝早くから出かけていった。僕にはあの情熱は理解できないね。数字の書き込みで資格を取るなんて! 昨日インタビューした天野さんから、“追伸”として、話し忘れたことがメールで送られてきていたのには驚いた。昔の人はやっぱり違うね。感心したよ。

朝食は母の室で、いつもの通り。母は僕が食事をしている間、僕の髪にイオン発生器をかける。大きな真空管みたいな、バリバリと音を立てる装置で放電させてイオンを頭皮の付近に発生させるんだ。これが毛根を刺激して脱毛を防ぐというんだけど、効果はあるのかないのかわからない。ま、気休めにはなるだろう。

ミリオン出版から、6月10日の新刊刊行記念講演のレジュメを送れといってきたので考えながら書いていたら、それがそのまま次にミリオンから出す予定の書き下ろし猟奇マンガ本の企画に出来ることに気がついて、そう言って送った。面白くなりそうだし、何か得したような気がしていい気分だったよ。

そうこうしているうちに11時半になった。NHKからの差し迎えのタクシーが来るというから着替えて玄関に出た。オノは待っていたがタクシーがいつまで待ったって来やしない。道にどうやら迷ったらしい。でも、それがかえって幸いしたのは、薄暗いウォーク・イン・クローゼットの中で着替えたんで、黒のつもりで来た上着が、日のあたる場所で見てみたら、紺色のものだったんだ。急いで部屋に戻って黒の上着に着替えてまた出た。そしたらタクシーが来ていたので思わず
「お待たせしました」
とあやまっちゃったよ。待ったのはこっちなんだが。

連日のNHK入りというのも珍しい。今日は昨日みたいに僕の顔をしらないADじゃなくって、ちゃんと玄関に担当者が待っていた。控え室で二人で用意されていた弁当を食べた。昆布巻きとか黄金イカみたいな、酒の肴ぽいものがものがおかずになっている、奇妙な弁当だったよ。まあ食べられたけれど。食べてる最中に司会の半田健人が挨拶に来た。さすがにハンサムだ。ディレクターがうれしそうに
「仮面ライダー555ですよ」
と紹介していたけど、本人はどう思っているんだろう。

それから廊下にある洗面台で歯を磨いて(廊下でこういうことをするのはあまりいい気分じゃない)、メイクをした。NHKのメイクってのはどうしてこう他局に比べて濃いんだろう。半田健人もこれから舞台にでも出るのかと思うくらいに濃く、ファンデーションを塗られていた。

打ち合わせ、高樹沙耶さんと。彼女は沖縄で泳いできたばかりということで真っ黒に日焼けしていた。台本はこのあいだ僕が打ち合わせでしゃべったことをほぼ、なぞっているだけのものなので楽だ。その打ち合せ最中に『トレマーズ』のことを話題に乗せたら、健人が(こう名前で書くとウォーホルぽい)
「自分もあの映画大好きで、四回くらいは見ていますよ」
と言い出して、二人でちょっと盛り上がっちゃった。イケメン俳優と『トレマーズ』で盛り上がれるとは思わなかったな。

司会の女性アナウンサー(柴田祐規子)と高樹さんは
「あれ、いい映画だよねえ!」
と僕ら二人が言うのに
「え〜、そうですかぁ?」
と眉をひそめていた。オトコにしかわからないんだよね、あの映画のよさは。もっともオノもあの映画が好きで、あれでケビン・ベーコンのファンになっちゃったらしいけど。

スタジオでカメラテストをちょっとして、すぐ本番だ。僕と高樹さんはセットの階段を降りて登場する。二人ともこういうことは慣れているのでキューの出る寸前まで、沖縄の話とか、実際に電気も水もない山小屋などには住めたものではないとか、そんな話で盛り上がっていた。キューが出て、登場のとき
「腕でも組みましょうか」
と、二人、カップルのようにしていい感じで階段を降りた。こういうことが照れずに出来るのは、おじさんになった特権だね。

それでちょっと立ち話のあと、席につき、まず僕の分担の『マイティ・ジョー』についていろいろ話した。話し出すと悪い癖でとまらなくなって、何回もFDから
「その話はあとで」
とか指示が出たよ。モニターに映る僕の顔、目がちょっと異様に見開かれていて、なんかピーター・ローレみたいに見えて嫌だった。少し目を隠す、色つきの眼鏡なんかが必要かもしれない。

健人は本番中より休憩のときの方によくしゃべった。
「今の映画には家族で楽しめるファミリー映画というのがない」
と番組中で言ったら、休息のときに
「それって歌謡曲にも言えますよね」
と話しかけてきて、昭和と平成の歌謡曲の違い、なんて話をした。彼はこういうことに詳しいのがウリで(それってイケメン男優としてはどうなのかとも思うけど)『タモリ倶楽部』とかに出ているくらいだ。

「『愚か者』がレコ大とったときに、これはどうかと思った」
んだそうだ。面白い。あまり彼に興味を持ったんで、本番中もめったに高樹沙耶の方を見ずに、健太の顔ばかり見ていた(ここらへんのゲイテイストもウォーホル風)。
後半は高樹さんが紹介するドキュメント映画『WATARIDORI』の紹介なんだけど、ちょっとでしゃばっていろいろ僕も発言した。まあ、そう頼まれていたかでもあるんだけど。最後のまとめで、また『マイティ・ジョー』のことを話すのだけど、これもちゃんと『WATARIDORI』のことにからめてコメントした。高樹さんには悪いけどまとめをさらっちゃったわけ。自分じゃ会心のコメント芸だったけど、スタジオの反応はどうだったかな。終わって出るときにオノがそっと
「昨日のラジオに引き続き結論泥棒ですね!」
と耳打ちしたのに笑っちゃったよ。こういう、何でもわかっちゃってるマネージャーは得がたいね。

メイク落として楽屋に入ろうとしたら、健人のマネージャーが僕に挨拶してきて、
「今日は本当にありがとうございました、半田は昭和の歌謡曲とか大阪万博とかが好きで大変くわしいんで、もし何かありましたら」
とか言って名刺をくれた。唐沢俊一・半田健人の昭和レトロ探訪、なんて本を作れば売れるかもしれないね。どこか、企画買わないかな?健人には
「トレマーズみたいな映画撮るときには主演してよ」
と言っておく。是非、と乗り気だったよ。こっちと入れ替わりみたいにスタジオに地井武男と有馬稲子が入っていた。『ためしてガッテン』の収録だったみたい。地井さんはまるで僕のことを前から知ってるみたいに
「いやあ、おはよう。御苦労さま」
と挨拶してきた。ああいう人というのは好かれるだろうね。(以下、面倒くさいのでいつもの調子にもどす)
事務所には歩いて帰る。今日はこのあとは4時半からアスペクトの談笑本の打ち合わせだがその席に来るトテカワのYさんに渡さねばならぬ原稿をせっせと書く。なんとか恥ずかしくない枚数、アゲることが出来た。

時間割、談笑、カワハラさん、K田くん。打ち合わせ事項は収録演目、タイトル、解説とコメントの分担、対談の日時設定などだがまずサクサクと。K田くんのテープ起こしした談笑の『イラサリマケー』や『片棒・改』を読んだが、これが見事な出来。ちゃんと最低限のしぐさまで書き込んであり、読み物としても通用するものになっている。

Yさんも来たので原稿渡し、ちょっと打ち合わせにも同席してもらう。5時半くらいに時間割を出ると、ボツボツと雨が降ってきて、やがてドシャーッという感じの大降りになる。雷まで鳴った。談笑夫妻が誕生日でおごってくれるというので、新楽飯店にでもと思ったが休み。じゃあ、と久しぶりに『宇の里』へと足を向ける。店内、ややこぎれいになっていたが料理などは昔と変わらず。ホッとした。

突き出しが、サヤエンドウを不思議なもので和えた一鉢。お菓子みたいな甘い味。
「なんだろうね?」
と話すがわからず。店員さんに訊いたら
「ヤマイモと生クリームを合わせたもの」
という答えだったが、ヤマイモというのは納得できず。クリームの中に、茶色い、繊維みたいなものが混じっている。貝柱かな、と思ったがよくわからず。カワハラさんが言った
「キャラメルコーンをふやかしたもの」
というのが一番イメージ的には当たっている。

とはいえ、他のメニューは美味し。和風コロッケ(名前は変わっていた)、地鶏と青海苔の小鍋立て、カンパチの刺身などで、黒生ビールと焼酎など飲みつつ。カワハラさんは日本酒だったが、この徳利が面白いデザインで、成田亨デザインみたいな感じのもの。Yさんの話、落語のこと、高田文夫氏のこと、うわの空のことなど話して、いい気分で酔って時間を見たらまだ8時半。9時ころタクシー使って帰る。まだ雨、ポツンポツン。ミクシィに書き込みなど少しして、母に明日の朝食を早くしてもらう旨電話して、寝る。食べなかった弁当を茶漬けにして寝る前にかきこむ。ダイエットには悪いが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa