裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

土曜日

ディーバ、ディーバ、百貫ディーバ

オペラの歌姫ってのは体形がなあ。

朝9時起き。寝床で雨音が聞こえるともう起きられない。朝食30分ずらしてもらって入浴、洗顔、歯磨その他。朝食、トマトジュース、ブロッコリスープ、果物。『威風堂々うかれ昭和史』読みつぎ。驚異の博学、記憶の魔王みたいな小松左京氏だが、それでもところどころ、私でもつっこめるミスがある(『のらくろ』の三等兵というのはアニメのために戦後に作ったもので、正しくは二等兵から、というような記述。アニメでものらくろは二等兵である。三等兵は前谷惟光が『ロボット三等兵』で創造した階級)。逆に言うと、そういう箇所が読んでいるこっちにはフックになる。ミスがあることも本には大事なのだ。

12時までかかって日記つけ、メールその他。NHKのYくんからイベント仕事の話など。タクシーで事務所。バーバラと今日のイベント打ち合せ。最初、なかなか予約が埋まらなくて、ABCでは
「書店員をサクラで入れましょうか」
などと心配したメールをよこしていた。ロフトプラスワンでのと学会イベントも、前々日まで全然予約がなくって心配していたら大入りだったので大丈夫、とはふんでいたが、寂しいのもいやなのでマイミクさん中心に告知メールを回した。ありがたいもので、即座に十数人の方から“予約しました”と返事があり、感激。最終的には70人近い予約があったという。結構。

雨の中、タクシーで青山。オーバルビルの地下のおにぎりバーで昼食。黒人の女性が店員さんだった。マクドナルドやケンタッキーなら驚かないがおにぎり屋で黒人女性が店員とは国際的なるかな。おにぎりはご飯が柔らかすぎてちょっと。具だくさんの味噌汁がうれしかった。

控室入り。三才ブックスSさん来ていた。おぐりゆかと劇団の女の子二人、それに久保田くん金沢くんという大人数でフライヤーの用意とか何か。こちらは大内さん(カメラマン)来て『魂食!』用に撮ったおぐり写真をパネルにして展示。他に紀伊國屋公演のほりかわさんの写真も脇に展示する。jyamaさん来ていたので楽屋でヒソヒソ話。本郷さんK川さんも来場してくれたのでちょっと雑談。今日のソウルフード(例によりイナゴやハチノコ、それと駄菓子類、台湾の乾燥アップルマンゴーなど)のサーブをしてくれる女の子にはメイド服を着てもらう。

ABCのこういうイベントの仕切りもなかなかしっかりしていて開場15分前には全スタッフ集めて、それぞれの持ち場確認、さらに非常時の誘導担当と、脱出口確認などを行う。これはウチ(と学会)などのイベントでも見習うべき。

3時開演、雨の中、用意した椅子はほぼ満席の盛況。前半1時間半ほどをトーク、その後私の講義という形で。前半はユルいおふざけトークだったが、講義では『ソウルフード』が食のグローバル化で失われていく現状について30分ほど話す。こういう話もちゃんと聞いてくれるお客さんだったのが嬉しかった。最後にちょっと本郷さんにもマイク渡す。そのトークのうまさにおぐり驚倒。バーバラの用意してくれた駄菓子も好評、よかった。

おぐりとのコンビ、来てくれた人から“親子のように息があっていた”と、後で感想があって苦笑。そう、親父は娘のことを思うあまり、いろいろうるさく干渉してウザがられるものである。

その後のサイン会も、半数以上の人がその場で本を買ってくれて、三才ブックスさんへの売り上げ貢献も果たして安心(しかしバーバラの“物販率来場者半数の法則”は確かに正しいな)。おぐり写真もあっという間に取りあい状況でハケていた。実際、大内さんの腕は凄い。差し入れ(酒ばかりなのに苦笑。ガーナ製ガーナチョコというものもあったが)もたくさん。有難し。

本郷さん、K川さん、IPPANさん、KOWさん、引田さんなどの常連の他にも、YUKAWAさん、ササヤンさん、脳天王さん、いかちょーさんなどマイミクの方、美好沖野さん、それから以前レディースコミック誌を一緒に作っていたSくんや間羊太郎マニアで風俗誌の編集などということをやっていたGくんなど昔なじみの編集関係の顔もいくつかあったのはABCという場所がら。驚いたのは週プレの初代編集のMくんが来てくれたこと。しかも東京人でこないだ一緒に仕事したKさんとペア。知りあいだったそうである。世の中、狭すぎ。

結局予定時間を大幅にオーバーして、無事終了。いろいろと劇団側の対応の勝手さに意見もあるがまあ、今日のところは何も言わないでおく。猫三味線広告コピーをおぐりに渡す。店側も大変喜んでくれて店長さんとも名刺交換、また新刊出たらイベントを、というので次の本(『猟奇の社怪史』)も宣伝しておく。

おぐりたちと別れ、jyamaさんのリードで、私、オノ、バーバラ、大内、メイドの子、しら〜、それに三才ブックスのTくん(RICEさん)で新宿『ぼるが』へ。ビールでお疲れさまの乾杯。いろいろ事前には気を使ったイベントだったが、まず成果はよかった。jyamaさんは大学地代からこの店の常連で、なんと今の夫君と知りあったのもこの店という“酒場結婚”。オノがここの手羽先焼きの旨さに驚愕していたが、これはIさんという、焼物の上手な職人さんが今日の担当だからだそうで、この人が焼き場に立っていると“ラッキー”なのだそうである。

ビール、ハーフ&ハーフ、ギネスと、それから日本酒。『白瀑』という秋田の酒(しらたき、と読む)があるが、私は昔、これを『自爆』と誤読して、珍しい酒があるもんだと思い“ジバクちょうだい”と銘酒居酒屋で言って、文字通り自爆したことがある。吉祥寺の『笑門』で私と見る映画ナイトをやらないかなどという話。“それなら是非見たい”と大手協賛社がついてくれているとか。緊張のほぐれと気圧のせいの悪酔いで、かなり酔いがヘンに回り、Tくんにからんだりした。反省。

しかしTくんが話してくれた某ラジオ局でのエピソードはやはり、と思い、また考えさせられた。ものごとは誰かが厳しいことを言う役を引き受けねばならない。たいていの場合、一番その人物のことを思っている人間がその役をかってでて、結果、嫌われる。一種の自殺志願に近いものがあるな、これは。jyamaさんとタクシー相乗りで帰る。途中までのタクシー代払おうとしたら、ぼるがで細かいのを使い果たしてしまっており、払えず。酔っ払いはいかん。あ、それと今日は午前中、ドタバタしていたおかげで『ポケット』の巻頭言、書くのを忘れた!

Copyright 2006 Shunichi Karasawa