裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

火曜日

メラネシア伊右衛門どの〜

『四谷怪談』パプア・ニューギニア公演。

朝5時半に目覚め、日記つけなど6時半まで。それから改めて寝て8時45分まで。短い夢たくさん。急いで入浴し、朝食。豆スープ、オレンジ、イチゴ。昨日と打って変わった天気模様で鬱。トイレ読書の『威風堂々うかれ昭和史』、小松左京と桂米朝の対談で、米朝師匠の発言の頭に“桂”とつけるのはいかがなものか。桂は亭号なのだから、ここでは“米朝”としなければいけない。中央公論社にしてなお、こういうもの知らずなことをするか、と呆れる。本の中で小松さんが何度も、トーク相手の女性編集者の無知に呆れてみせるが、それは世代の差による無知だ。こういうことは常識に属する。もっとも、これが“三遊亭”とか“柳家”だと校閲者もさすがにオカシイと思うかもしれない。一般の名字にもある“桂”だからつい、見逃してしまったのかもしれぬ。

オノからスケジュール、今日は週プレのコメントインタビューが1時から。困ったことに、依頼があったのは覚えているが、サテ何について訊かれるんだったか、まったく覚えていない。オノに何だったっけと返信で訊くが彼女も把握しておらず。途方にくれる。いろいろ記憶を探るが、確か原稿執筆中に来た依頼で、予定だけ入れてまたすぐ執筆モードになったのですぽんと脳からそれが抜けた。ま、仕方ない、ぶっつけ本番で臨もうと決める。

佳声先生の本(こっちで進めているのとはまた別の本)の件で、佳江さんとメールやりとり。佳声先生もそこは芸人でいろいろわがままも言う。自分の代名詞のようなものになっている猫三味線に関しては神経質にもなっている。佳江さん通しで話は進めないとダメなのである。

日記つけ、メールやりとり(日高トモキチさんの単行本のオビに一言コメントつける件などについて)。弁当使う。昨日のてんぷらの残りを味付けしたもの。子供のようだがこれで嬉しくなる。幼少時に食ったものの記憶は強い。

タクシーで時間割へ直行。車内で携帯がなり、今日の週プレインタビュアーのS氏から電話、場所の確認だったが、コレサイワイと、
「えー、そちら着く前に話をちょっとまとめておこうと思っているんですけど、今日のテーマですけどね?」
と、“それとなく”訊き出してみる。
「ああ、例の北米トヨタ自動車の社長のセクハラ……」
というところで思い出した、“高額訴訟社会”だ。
「ああそうですよね。変更はないですよね、わかりました。いま、ちょっと道が混んでるので10分ほど遅れるかもしれませんが」
と言って、事務所に駆け込み、ざっと資料に目を通す。元ネタの事件に関しては『名もニュー』のネタ探しなどでかなり追いかけていたことあり。うん、これなら話せると踏んで、時間割に改めて。

ライターのSさん待っていたので、ネタとこの件に関する持論を述べる。いや、この電話と10分ほどの下調べがなければかなりシドロモドロだったろうが、まるで10年前からこの問題を追っている専門家のように話す。向こうが感心して、
「これは今回の事件とは関係ありませんが……」
と、日本人の性犯罪について、という質問をしてきて、それにもしばらくつきあって講義したくらいだった。

帰宅、湿気凄し。体調不調甚だしく、倒れそう。東急エージェンシーとの会談、明日に決定したので、その件もふまえてシネマアルゴのHさんに報告。文藝春秋社Mくんから、『猟奇の社怪史』感想が丁寧に手紙で来る。社会(社怪)分析で
「文藝春秋がミリオンに負けた、と思いました」
とあってテレる。実際はこれも昼のインタビューと同じドロナワ勉強のたまものに過ぎないのだが。

3時、家を出てオノとタクシーで六本木ヒルズ『J−WAVE』。山田五郎さんの番組『東京REMIX族』収録。こっちは東京の雑学を視聴者が、という感じの番組なので、何の準備もせず出かける。いや、こっちはダメだった。パーソナリティが山田さんなんで何を言っても向こうも知ってる知識ばっかり、ハネ返される。せめてこっちのネタで番組を引っ張れればいいが、なまじ台本に元雑学があるので、それをネタにしなければならず、体調不良もあって冷や汗三斗。なんとか1時間しゃべって、ホウホウの体という感じで引き上げる。こういうときにボロが出る。反省しきり。放送作家のお姉ちゃんには馬鹿ウケしていたみたいだったが。

それにしてもJ−WAVEの中というのはスカした社内デザインである。TBSとか文化放送とかという、いかにもなラジオ局ばかりで仕事をしていると、エスエフの中の施設みたいに見える。

事務所帰り、バーバラと宝島社の本のことで打ち合せ。打ち合せを円滑にするために担当Aさんとマイミクになる。最近は一緒に仕事する編集さんとはまず、マイミクになるのが仕事の第一歩、みたいな感じ。しかし、mixiのサーバーが不調で、何度も落ちる。そう言えば今朝、一部トップページのレイアウトが変わっていた。見ると新機能追加、などとある。そのせいで負荷がかかりすぎて落ちたのだろう。これまで何度もあったことで、その対応を考えないのかと思う。だいたい、新機能を追加するなら、レイアウトなどどうでもいいから、マイミクシィにメールの一斉発信が出来るようにしてもらいたい。

6時半、首筋の凝りどうにもならずタントン。ベッドが温ベッドだったこともあり、揉んでくれたのが女性マッサージ師さんでソフトだったこともあり、途中でオチる。気持はよかった。揉まれ終わって帰宅。原稿書き放棄してDVD。ゆうべ見た『ベニスに死す』の特典映像で、撮影初日のビスコンティを追ったテレビ番組。昨日の日記に、夏の映画なのに妙に画面が寒々しい、と書いたが、やはり撮影はシーズンオフで観光客がいない冬に行われたそうで、それじゃ寒々しいのも当然、海から上がってきたタジオがふるえていたのもあたりまえ、なのであった。黒澤明の『野良犬』も、夏の話なのに俳優たちの息が白い、という妙な映画だったが、いかにクロサワ、ビスコンティと言えど季節感はどうしようもない。

ビョルン・アンドレセンを“この映画一作しか残さずに映画界から引退した”と書いてある記事が多いが、確かにこの映画から数年は映画界から遠ざかっていたものの後に復帰、実は本国スウェーデンで今も俳優を続けている。一作だけの出演、という話が好まれるのは、その美を永遠にこのフィルムの中だけに留めおきたい心理のあらわれだろうが現実はそうもいかない。
http://www.pelikaanimies.fi/pelicanman/images/henkilot/Bjorn.jpg
今の顔はこんなものらしい。

晩飯は豚肉と白菜の鍋、メザシの焼いたの(西武のデパ地下で買ったちょっと高級なメザシだったので美味い)。イカソーメンを飯に乗せてイカ丼。こないだの紋甲イカのソー麺が臭くて駄目だったのでスルメイカのにしてみる。今度は成功。

夜中、さらにDVDで『殺しの烙印』。まさに深夜の映画。大学時代オールナイトで何十回観た映画か。これほどオールナイト上映のあの雰囲気が似合う映画もちょっとない。真理アンヌのアンドロイド的美しさもいいが、まったく対照的な日本人風貌と貧弱なヌードで頑張る(最後は洋式便器の上で死ぬ)小川万里子がけなげに見える。ぜいたく趣味のゴージャスな女で、彼女との肉体関係におぼれて金を使い果たしたために宍戸錠の殺し屋がよく事情も知らない仕事を引き受けざるを得なくなる、という設定からすればミスキャストなんだが。1時、酔って就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa