25日
日曜日
ジョー・ダンテ・ショー、ファインマンさん
博士、早く! 『グレムリン』上映が始まりますよ! 朝、7時半起床。朝食、またアスパラガス。スーパーものにこの甘味は求めても得られない。それと桃。服薬、入浴等如例。メール等整理。FCOMEDYのまんぷさんから、このたび正式に新・シスオペ就任の挨拶メール。裏モノ会議室の継続につき、協力要請あり。ニフティの方からも、私の継続参加確認を強く求められているとのこと。あの会議室を開いたときの私の目論見のひとつが、“ニフティサーブ(開設当初の社名はこれだった)に、開設を許可したことを後悔させるような内容の会議室を作ろう、というものであった が、この対応を見るとどうもその目論見は失敗だったようである。
もちろん、協力にやぶさかではないものの、さて、この時代にパソコン通信の会議室をどう運営していくか、ということになると、いささか苦労だな、と思うのも事実である。とりあえず、7月アタマの会議室統廃合・整理までに、いろいろ考えていこう。それにしても、偶然ではあるが、このあいだ大変ひさしぶりに三枝貴代(三鷹うい)さんの日記サイトをのぞいたら、一時まったく生彩を欠いていた状態だったが、最近活動を再開したらしく、東京の出版社(?)と打ち合わせをしたりとか、担当がついた、とか書いてあった。当時のスターたち、みなそろそろ復活の季節か。
昼は明太子ごはん、と思ったらパックご飯が切れていた。外出して東急本店紀伊國屋へ行き、ご飯を買って帰って明太子とジャガイモの味噌汁で食べる。1時15分、K子とタクシーで赤坂サントリーホール。クラシックコンサートに行こう、とK子が珍しく言いだしたのである。乗ったタクシーの運転手さん、千葉っ子とでも言うような威勢のいい人で、“東京てのはゴチャつくばかりで、馬鹿な若いののウロウロしてるどうしようもないところだねえ!”などと話す。海外旅行の話になり、私がアラスカだのチベットだのにも足を運んでいると知って、大感心し、感心のあまり降ろすと ころを間違える。
本日のコンサートはクリストフ・エッシェンバッハ指揮、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団。曲目はアルフレード・シュニトケの合奏協奏曲第二番、それとブラームスの交響曲第四番ホ短調。現代音楽の異才と、19世紀ロマン派の中で最も古典主義に忠実な作風のブラームスの作品の中でも、特に古風な趣を持つと言われる第四番との組み合わせである。私たちの席は最後部の安席だったが、それでも一万数千円。クラシックてのは高いねえ。……もっとも、パンフは1000円。新感線のパンフの半分 以下である。
現代音楽に疎い私としては、シュニトケを生で聞くのは初めて。知識として、この人のバイオリン協奏曲第四番の中には『視覚的カデンツァ』という、“絶望的”というテーマを演奏者がパフォーマンスで表すという指定のあるものがある、なんてことを知っているというくらい。今回のバイオリニスト、ギドン・クレーメルはシュニトケを積極的に演奏している人らしく、彼の『視覚的カデンツァ』CDには、絶望を表現して“アー、アー!”と叫んでいる声が収められているという。それをやらないかな、と期待していたのだが、残念ながら今回は合奏協奏曲2番。バイオリンとチェロ中心のフルオーケストラに、ハープシコード、銅鑼、木琴、鉄琴、チューブラーベルなどを大がかりに備える。パンフにはシュニトケの音楽は“多様式主義”と呼ばれるそうで、バロックからジャズに至るまでの様々な過去の音楽様式をパッチワーク式につづり合わせて、デフォルメやパロディの手法を用い、そのゴッタ煮的混沌の中から音楽というものの本質を浮かびあがらせるという、まさにポストモダン的と言っていい楽曲である、と書いてある。どっかで聞いた文句だ。6〜7年前だったらオタク的 手法とか、岡田さんや伊藤くんが騒いだことだろう。
当然のことながらロシア音楽界の中ではシュニトケは異端で、旧ソビエト崩壊前はあまり活動できず、映画音楽を書いて食いつないでいたそうである。なるほど、各所にまるで映画のBGMみたい、という部分があった。印象はと言えば非常にとっちらかった音楽で、まあ、とっちらかりをとっちらかったままに放置するのが多様式主義というものなのだろうが、初めて聞くこちらには、目新しさ以上のものは残念ながら感じられず。隣の席のアベックの女性が、曲が始まったとたん、大きくアタマをゆらしはじめ、私の方にぶつかるかと思ったくらい。ああ、演奏に思い切り身をゆだねているのか、ファンは違うなあ、と思っていたら、単に居眠りをして上半身がゆらいで いるのであった。
休息時間にオーケストラ席をすっかり配置換え。ピアノやハープシコードをせり上がりから奈落へ片付けるのだが、お客が最前列までみんな寄ってきて、奈落をのぞき込もうとクビを延ばしていた。日本人は好奇心の強い民族だなあ、と思う。後半のブラームスは、さすがに安心して聞ける。古典というのはやはり強い。『龍騎』のあとで『V3』を見たような気分か。隣の女性はまたも上半身をトランス状態でゆーらゆら。そのうちご神託を述べはじめるのではないか、と心配になった。一万数千円払っ て居眠りに来るとはぜいたくである。
帰宅、4時。家で原稿書き。ふゅーじょんぷろだくとから『世界と日本のアニメーションベスト150』が届く。140人ほどのアニメ関係者(なかには関係ない人もいる)が選んだ、古今東西のアニメ作品ベストアンケート。選ばれる対象はアートアニメからTVアニメまで、1914年の『恐竜ガーティ』から2002年の『頭山』まで、とにかくアニメと名が付けば全てのものの中からあなたがベストと思うものを20作選べ、という幅の広さ。こうなると、結果が出たとして、ただ作品名が並べられているだけで、何がいいたいのか? という気もいささかしないではない。とはい え、まあ、今後アニメを人が語る際の、ある種の資料にはなるか。
ちなみに、1位が『霧につつまれたハリネズミ』、2位『話の話』、3位『ファンタジア』、4位『木を植えた男』、5位『やぶにらみの暴君』、6位『未来少年コナン』、7位『となりのトトロ』、8位『白雪姫』、9位『イエロー・サブマリン』、10位『わんぱく王子の大蛇退治』、以下『ホルスの大冒険』『クラック!』『バッタ君町に行く』『ウォレスとグルミット』『手』『禿山の一夜』『真夏の夜の夢』、と続く。ベスト1とベスト2をどちらもノルシュテインが占めているところが、いか にもふゅーじょんぷろだくとのランキングという感じである。
私も選者の末席で、ベスト20選定とアレクセイエフ『鼻』の解説を書いている。ちなみに、私のベスト20は以下の通り。順位なし、のつもりで出したのだが、手違いで順位アリで載ってしまった。訂正すれば少しはランキングの移動があるかもしれないが、まあどうでもいい。イカニモな選定なのは、最初からイカニモで選出しようとしたからであって、奇をてらうのはもうこの歳になると(ことにアニメでは)したくないのである。
1・ベティの白雪姫 フライシャー兄弟
2 ・ベティの笑へ! 笑へ! フライシャー兄弟
3・呪いの黒猫 テックス・アヴェリー
4 ・呼べど叫べど テックス・アヴェリー&マイク・ラー
5・ネオ・ファンタジアより『ボレロ』 ブルーノ・ボゼット
6 ・ファンタスティック・プラネット ルネ・ラルー
7・漫画の国のアリス ウォルト・ディズニー
8 ・やぶにらみの暴君 ポール・グリモー
9・ストーリー・タイム テリー・ギリアム
10・開会の辞 ノーマン・マクラレン
11・カメラマンの復讐 ラジスラフ・スタレーヴィッチ
12・マスコット ラジスラフ・スタレーヴィッチ
13・対話の可能性 ヤン・シュバンクマイエル
14・男のゲーム ヤン・シュバンクマイエル
15・霧につつまれたハリネズミ ユーリ・ノルシュテイン
16・キングコング ウィリス・オブライエン(アニメーション部分)
17・生存競争 ポール・ドリエセン
18・鼻 アレクセイエフ
19・くもとちゅうりっぷ 正岡憲三
20・わんぱく王子の大蛇退治 芹川有吾
片山雅博、五味伸一、角銅博之、角川弘明といったアニドウ同期系はさすがに大体選定作が似ているのが可笑しいし、森下勝司、真鍋理一郎、坂本サクなどの70年代生まれはやはりナウシカや攻殻機動隊、AKIRAといった作品を挙げ、年齢明記の人の中ではたぶん一番若いだろう1978年生まれの辻村マヤさんはWebアニメをベストの中に入れている。世代というか時代というか。古い世代にとり、今のアニメが駄目ということは勝川克志さんなども言及しているが、いわゆる年寄りのボヤキもここまで徹底すれば、と思ったのは久里洋二氏(1928年生まれ)のコメント。
「若者に見せたい作品はアートアニメです。とにかくアートアニメを見なさい。カナダのノーマン・マクラレンであるとか、フレデリック・バックであるとか、まず海外の短編を見なさい。くだらん子供のアニメは許されない。作者の顔が見たいよ。僕らの回りの人間は軽蔑しているよ。でも売れるものは強いんだよ。でも今にわかる。あ〜しまったと思うよ。今のテレビアニメはCGを使って……許されない。とにかく、 くだらん作品ではなくて、海外の短編を見なさい(以下略)」
これと対極的で笑ったのは芝山努さん。1位を『やぶにらみの暴君』、2位を『木を植えた男』という、正統的な選定にして、あと20位までは『のび太の日本誕生』 から『のび太と鉄人兵団』までの、自作のドラえもん18作をずらり。理由が
「他の人の作ったアニメをほとんど見ないから」
うーむ、いっそ男らしい。
夕方、もう一度買い物に出て、西武地下で食料品買い込み、9時、自宅で食事。カツオのジンギスカン風味手こね寿司、豆腐とアブラゲの煮物、伊東のキンキ干物。キンキさすがに美味。DVDで『ボーイズ・イン・ラブ 君に出会って恋をして』。イギリスのゲイドラマだが、これはテレビムービーなのか? 深夜番組風の、いかにも金がなくて撮りました、という感じの貧乏映像が笑える。DVDのジャケット写真がやけに美形同士のからみなのに、本編は全然違うイモ兄ちゃんが演じていたり。その後、『笛吹童子・第一部』。お子さま向け映画とはいえ、冒頭の乱戦シーンの迫力はやはり大したもの。さらに焼酎など飲みながら小林正樹の『東京裁判』を見る。さすが、引き込まれてしまった。