裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

水曜日

生理用品流水

 新本格派ナプキン。朝、7時15分起床。このごろ朝の目覚めがちょっと早くなっている。朝食、貝柱だしの粥、梅干。イチゴ数粒。朝刊と一緒に、昨日読み損ねていた読売新聞夕刊も読んだら、例の埼玉の校長のドレミの歌のラ、が書いてあった。なにか“ドラキュラのラ”、だそうである。ドは髑髏のド、とかぶるではないか。ラは 来世のラ、とかに出来なかったものか。

『ホット・ワイヤード』によると、フランス系カナダ人の少年(15歳、典型的オタク体型)が、一人スター・ウォーズごっこで、ホウキをライト・セーバーに見立てて口で“ブゥゥゥン、ブゥゥゥン”と効果音を唱えながら振り回しているビデオがネットに流出、世界中の笑いものになり、深く傷ついた(で、あろう)この少年のために寄付が募られ、1000ドルが集まったとのこと。今でも消えない私の心の傷に、札幌のアニメファンクラブ時代、仲間内のギャグで作った『グレンダイザー』の一人パロディのテープを、大迫秀人という男が勝手にラジオ局に送りつけてしまった一件がある。放送こそされなかったものの、いまだに、あれを外部の人間が聞いたのかと思うと頭を抱えてウワッと叫び出したくなる。じゃあ、他人のこういう事例には同情するかというと、やはり“馬鹿だねえ”と笑いころげてしまう。若いうちに世間に笑われ馬鹿にされつっつかれ、という体験はしておくものだ。何故かというと、歳をとってからでも世間はアナタを笑い、馬鹿にし、つっつくからであって、そういうことに耐性をつけておかないと、本当に取り返しのつかないところまでに傷ついてしまいか ねないからである。

 モノマガ原稿ゲラチェック、別段問題なし。と、いうか、文章をどうこうしようという気力がわかない。河出Sくんからはそろそろ本のタイトルを、という電話。最初はムックとして企画したもので、タイトルはこの場合やや固め(“〜の世界”とか)でもかまわなかったのだが、単行本となると、も少し目立つ感じに考えねばならぬ。

 昼は母から送られたカレー。上記“ドラキュラのラ”、これまでで最高数のご教示のメールをいただく。一行知識掲示板、K子の掲示板にも書き込みあり。言いたくなるくらい苦しい、とみんな思っているのだろう。その後も体調すぐれず、ネットなどを回っているばかり。読売新聞夕刊、一面に朝鮮総連が万景峰号で北朝鮮へミサイル部品輸出、の証言者が並んで写っているが、黒い布を頭からかぶった異様な姿。一瞬 死刑囚か、昔フィルムセンターで見た『ジゴマ』の悪漢かと思った。

 ネットでいくつかのサイトを回るうち、ある人のサイトを見つけた。以前、私のよく知るちょっと名を知られた業界人が、“とにかくカンにさわる”と言って毛嫌いしていたサイトであった。ほう、これかと思い読んでいるうちに時間がたつのを忘れてしまったくらい、情報量が多い。なかには、その知人の書いたもののコピーかと思って読んでいたら、そのサイトのオリジナルの文章だった、という部分もあった。このサイトの設立者はその業界人の大ファンなのである。彼は無意識のうちに、嗜好も、思考も、知識も、文体も、さらには人格的欠点までもその信奉対象のものを模倣しているかのような形になってしまっているのだ。それがまことに面白いが、しかし、その業界人が、なんでそんなにそこを毛嫌いしているかもよくわかる。クリエイターという職業は、模倣者を嫌う。自分のオリジナル性が損なわれると思うからである。自分に似た者が近くにいて、彼を見ると、自分の欠点までもが鏡に映したように見えてしまうのが、イヤなのである。まして、その設立者が信奉の高ずるあまり、その信奉対象と自分が同格であるかのような言を第三者に対しときおり吐くのに、身震いする ほどの嫌悪を覚えるのであろう。

 模倣したわけでなく、もともと自分と似た性向を持った人だから好きになったのだと、その設立者は言うかも知れない。しかし、それならなおのこと、彼はその信奉する者とは距離を置くべきであった。自分のドッペルゲンガーみたいな存在が近くにいて、本人が気持ちのいいわけがないのである。三遊亭好生(春風亭一柳。晩聲社『噺の咄の話のはなし』の著者)が口調から着物の趣味、高座での癖まで師匠の圓生を模倣しながらついに師匠にハマらず、やがてあの悲劇的な決裂とその後の死を迎えたのがいい例(と、言うと一柳さんに悪いが)であろう。どの業界を見てもそうだが、自分と似たタイプを上に持った人というのが成功した例はあまりないような気がする。

 阿部能丸くんから電話。彼もいろいろ身の回りがせわしないらしい。夜8時半、華暦。今日も満席の盛況。もっとも、9時半になるとカウンター席の客がとたんに引き上げ始めるのもいつもの通り。人物月旦などでK子満悦、例の替え歌ばなしなど。ドレミの歌は大体いつもファとラでつまづく、という話。宗教ネタならファはファンダメンタリストのファ、ラはラエリアンのラ、と楽に出来るのだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa