裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

日曜日

美少女戦士無ー精卵(ムーセイラーン)

 月に代わって排卵よ! 朝、8時15分起床。アボカド半分に切って、朝食。ミルクコーヒーにサクランボ。朝刊に宮崎尚志氏死去の報。68歳。“スカッとさわやかコカコーラ”のCMソングの作曲者、として報じられていたが、それ以上に、というより、そのCM製作でのコンビを引き継いで、大林宣彦監督作品、『さびしんぼう』『廃市』といった映画の音楽担当として、日本映画界に貴重な足跡を残した人。いやいや、私の世代ではアニメ『海賊王子』の音楽を担当、幼少時の愛唱歌のひとつだったエンディング『海賊稼業はやめられない』を作曲した人(オープニングは服部公一による)。と、いうよりなにより、私にとっては小野栄一の親友として、オノプロ時 代から、私の代になってもいろいろおつきあいのあった人だった。

 舞台での小野の仕事で何度も脇についたことがあるし、私が社長を引き継いだ頃、お仕事の話も持ちかけていただいたことがあるが、当時(平成四〜五年ころ)、宮崎氏は自作オペラのプロデュースに凝っておられ、お笑い芸人のプロデュースでかつかつな弱小プロダクションとしては、話があまりにも雄大というか遠大というか、いやむしろ茫漠としていて(どこだかの県の山奥の採石場跡を買い取って屋外オペラ劇場にする、とか)、ウチではまったく力不足でして……と、引かざるを得なかった。その後その話が実現したということも聞いていないから、あれもいわゆる芸術家病、という口の、夢に酔った計画のひとつではなかったかと思う。その後、病気から復活してからの小野栄一や、娘のひとみちゃんの舞台でのピアノ演奏につきあってくれていた姿を何度か見たが、正直なところ、作曲家としては超一流でも、舞台演奏家としてはアドリブが効かず、あまりはまり役ではなかったと思う(小野の舞台でのピアノには以前も書いた長島史幸先生や、あのバロン滋野の子息であるジャック滋野などという、パリのクラブに連れていってもトップのギャラをとれるような、生粋の舞台音楽家が常連だったので、それと比べるとどうしても……ということもあった)。最後に姿を見かけたのは、昨年10月、小野の芸術祭参加公演での舞台で、新内と電子オルガンのコラボ、という、どう考えてもミスマッチなものであった。私の評価も、当然ながら高いものでなかったのが残念である。いや、もっと無念なのは、せっかく数年にわたり一緒にお仕事する機会を持っていながら、『海賊王子』の話などを一度も聞かないままになってしまったことだった。映画自体はトンデモであるが、大林作品のブラック・ジャック『瞳の中の訪問者』のピアノ曲など、実にこの人らしい、傑作曲 であったと思う。

 日記つけ、入浴など雑用片付けるうちにもう昼。昼飯は冷凍庫の中のラム肉の残りでジンギスカン飯。買い物もしなくては、原稿も書かなくては、と思いつつ、初夏の心地よい陽射しと風に、ゴロリと横になって読書。ロマン文庫の『パール(19世紀英国のポルノ雑誌)傑作選』などを読む。贅沢な時間である。猫が寄ってきて、かまえ、と鳴く。まだ後ろ足、ときどき効かなくなるようである。一行知識掲示板に、猫は人に長年飼われていると人の声マネをするようになる(これが化け猫の由来)、というのがあった。逆に、人に飼われている猫は、人が猫の鳴き真似をしても、それに ちゃんと反応するようになるようである。

 夕方になって、起き出して、アスペクトの日記本の作業をする。これがやってみるとなかなか時間のかかる作業で、やってもやっても終わらない。なんとか7時までに2000年分のみまとめ、編集MLにメールする。この後に控えている本の執筆作業の量、しかもそのうち半分は本来すでに書き上がっていなければいけないものであるという事実にゾッとする。この不況時にこれだけ仕事があることは考えてみれば幸せなんだろうが、それでいて常に、新しい仕事をとっていないと不安になってしまうの がフリーという立場の悲しさだ。

 7時半、タクシーで新宿伊勢丹まで。地下食料品売場でちょっと買い物。それから同じく伊勢丹内で買い物をしていたK子と合流、天一で天ぷら。K子の好物のギンポがやっと季節で出る。サクサクとした歯ごたえながら身はプリプリで、何とも言えない甘味がある。コラーゲンがたっぷりなのだろう。以前、掲示板でK子がこの魚のことを質問し、能登のこうでんさんに“下道ですね”と言われてフンガイしていた。実際、魚貝図鑑によると、“この魚の利用では関東、特に東京(江戸)が抜きん出ている。というか他の地域では価値がない”とまで言われており、全国でとれる魚でありながら、東京の人しか好まない、いわば名古屋人の味噌カツ、信州人のおたぐりなどと同様、地域に特化した食い物であるらしい。その東京の天ぷら屋でも最近、滅多にお目にかかれないのは、おろすのが難しく、また小骨切りなどの下ごしらえが面倒臭く、さらに時間を置くと豊富なコラーゲンが災いして固くなって食えたものではなくなる、というような理由があるという。とにかく旬のものを食うというのは快感で、 三度おかわりした。

 食べながらK子と旅行の話。私はこの人に会計をまかしてから、わが家の経済状況がまったく把握できなくなっている。緊縮財政をずっと言われ続けてきているので、貧乏なのだろうと思っていたが、なにやらゼイタクな旅行の話などを複数、いろいろ持ち出してきている。行けるのであればそれは、行きたいモノデアル。ビールと日本 酒、いずれもお重ねで注文。帰宅してから、ネットなどいろいろ見る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa