裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

土曜日

恥骨男は勝たねばならぬ

 腓骨男は、の方がシャレとしては完成度が高くなるのだが、字面のインパクトを重視しました。そう言えば見るたびに笑ってしまうのが“恥骨連合”って用語。朝、7時35分起床。さすがにロフトの上の居酒屋でえんえん語っている夢、は見なかったが、しかしいかにも浅い眠りではある。朝食、オニオンスープ、モンキーバナナ。もうそろそろ新展開がないとパナウェーブ研究会もツラいか。実は千乃会長はもう亡くなって、バンの中でミイラ化しているのではないか、という話もある。そこらへんに裏モノとしては期待。カルトと言えばミイラ、と、言うのもまたやまたやであるが。副島隆彦氏のサイトのハジケっぷりがMLでは話題の中心。内容はと言えばアポロ月面着陸はNASAのデッチ上げだというこれまたまたやの主張であるが、その文章の過激さが、どうにもイッチャッテイル範疇に達しているのである。
http://www.soejima.to/

 副島氏と言えば自分のサイトで自分のことを指すのに、数回に一回は“私、副島隆彦は”とフルネームを表示して書くほど、自意識の強い御仁である。読むたびに苦笑していたが、その自意識過剰な彼が、今回のイラク攻撃に際しては予想に反して国民与論も世界の声も米英支持に回っていることで、何か自我の一部に大きな変化をもたらしたらしい。3月23日のサイトでの書き込みに
「私の負けだ。私の自分の政治思想の負けだ」
「分かりましたよ。あなたたちの方が正しいでしょう。あなたたちの方が正義でしょう。あなたたちの方が現実を重視している大人の考えでしょう。それでいいですよ」
「私は、自分の本や言論で読者を騙(だま)すつもりは無い。だから、“副島隆彦の本に書いていることは有効性を持ちません。無意味です。強大なアメリカに逆らって日本の国の将来を危険に陥れていはいけません”と、言う私への批判や非難はあるのならば、それを受け容れるしかない。きっとこのアメリカべったり派の親米言論人たちが正しいのだろう。私の負けだ。何度でも書く。アメリカの軍事力、大量殺傷力の前には、私の思想、知識、言論は敗北している。この事実の認定はきっと重い」
 と、何かステバチというか、ヤケな文章を書いていた。自我が肥大して、自分の言説と現実との落差が露呈したときに、自分の方が間違っていたかも、という方向転換が出来ない人の典型である。

 こう本気で思ったら、昔の武士とか、終戦時の軍人なら腹を切って自分の憤懣の始末をあっさりつけられたのだろうが、現代ではそうもいかない。まして、インテリである副島氏は、そこらの反戦運動家などとも一緒にはなれない。
「いい歳をして馬鹿な反戦平和人間をやっていられる人は、全国にも数十万人はいるだろう。実際に会って詳しく生活内容を聴けば、ろくでもない偏屈な人生を生きている人たちだ」
 と、ひどいことを書く。こういう、行き場のない憤懣と自我の崩壊を何とか防がなければ、という自己防衛本能が、アメリカの威信を貶める情報を無意識のうちに探し求め、氏をして月着陸という大イベントが実はアメリカの謀略である、という妄想に飛びつかせる。自己評価(プライド)と世間のソレのずれが人をトンデモ思想に走らせるというパターンの、変哲もない基本的な例に過ぎない。

 昨日ロフトで平野店長のニッコニコ顔を見て、なんでこの人はこう上機嫌でいられるんだろう、反戦反米デモに参加するほどの思想の持ち主なら、今頃は憂鬱に襲われていないといけないのではないか、と疑問に思ったものだが、要は氏のような人は副島氏のいわゆる“いい歳をして馬鹿な反戦清和人間をやっていられるヒト”であり、自分は反米なんだゾ、と主張しさえすれば、その結果などはどうでもいいという、極めて自己中心的に世界が回っている人物なのである。その軽薄さにある種の不愉快を感じていたのは事実であるけれど、今回の副島氏の言動を見ていると、軽薄さがあるから、まだこのヒトは正気を保っていられるんだな、あの程度のことでガス抜きが出来ちゃうんだな、と思い直して、ならコッチの方がずっと健康的ではないか、と、一種のうらやましさまで感じてしまった。副島氏は彼と違って真面目なのである。真摯なのである。真摯ゆえに、自分の憤懣のガス抜きが出来ず、煮詰まってしまったので ある。

 私は今回のイラク戦争において、この日記はじめあちこちで、反戦を唱える人、反米を主張する人、ブッシュの愚かさをことさらにあげつらう人に対し、反論や、時には大人げない嫌味をぶつけてきた。副島氏などに比べれば言論人としてははるかに小さな影響しかない立場とはいえ、悪趣味な業であると自らも思う。とはいえ、この時点において単純な反米的言辞に偏ることは、その視野があきらかな狭窄に陥ることを意味する。それは、その立場に立つことが極めて容易で、その表現が熟考を経ない、短絡的なものになりがちだからだ。憤りは思考を単純化させてしまうのである。現に副島氏はそのサイトで、ブッシュのことを
「貧相でいかにも馬鹿そうで、お猿さん(チンパンジー)そっくりの、頭の悪いことが証明済みの男」
 という、およそ文章で生計を立てている人とは思えない、野卑な表現で貶めているのである。当初は副島氏もこうではなかった。思想としての反米から、一歩、怒りの方に踏み出してしまって、かくは相成ってしまったのである。怒りは人間の知性を堕落させるのである。まあそれだけに、ときおり人を怒らせてみる、というのは知性の計測に有効な手段なんではあるが。ともあれ、あまりに単純な反米同調は、その後の推移との乖離により、軽薄に流れて平野氏のような、真摯に煮詰まって副島氏のような、そういう道にいきがちなのではないかと思う。“俺はそうはならない”と言う人も多いだろうが、この二人もそう思ったまま、こういうことになっているんである。

 昨日のロフトの疲れが体の奥底にまだとぐろを巻いている感じである。朝、昨日、来てくれた編集者二人、SくんIくんから揃ってメール。二人ともハマったようで目出度し。モヤモヤを吹っ飛ばすために神保町に出るか、と、着替えて出かけかけたのであるが、ちょっと貧乏なアクシデントがあって、とりやめ。アスペクトの村崎さんとの対談に手を入れる。テープ起こし分だけで原稿用紙50枚以上の分量になり、改 めて編集のKくんも大変だなあ、と思う。

 1時半、家を出て、キッチンハチローでランチ。ポークソテーとカニコロッケ。食べて書店数店回り、東急本店地下紀ノ国屋で買い物。帰宅してメールチェック、疲れ取りにマッサージ予約。神保町行きがキャンセルになった代わりに久しぶりにビデオマーケットに行こう、どうせ新宿に出るんだし、と思い、まだ時間があるので、と少し横になって、グーと寝込んだら、もうマッサージの時刻ギリギリ。よほど体がバテているんだとわかる。ビデマはまたのことにする。どうも、予定中断の多い日。

 新宿のサウナ&マッサージ。さすが連休で客多し。新しいマネージャーがまったくやる気のないような男で、今日は客がどんどん入ってきて嫌んなっちゃう、とか言っていた。マッサージは久しぶりに女性の先生。これが体格といい技といい、キャットファイトの選手になったら、と言いたいような人で(ちょっと愛嬌のある美人だし)いろいろ揉まれているのが“技をかけられている”というイメージで、施術されながら苦笑。頭がスッキリしてきたのは、駄洒落がいくつも浮かんでくることでわかる。変な確認であるが。

 8時に、そこを出てタクシーで下北沢『虎の子』、ナンビョーサイトの人たちとK子の飲み会に、FKJ氏と私もまざる。総勢9名。土手焼き、イカの酢味噌和え、ナスと肉のはさみ焼き、黒豚のハリハリ鍋、真鯛のガーリック焼きなど。みんな、料理と味に感動の模様。酒が次から次へと空になる。K子は荻原さんと、この店のサイトを作る件で打ち合わせしたりしている。話題、いろいろ。匂いの研究所に勤めているカーター卿さんのところに、“死体の臭いを作ってくれ”という注文があり(何に使うのか?)いろいろ試した挙げ句、帆立貝のキモを集めて腐敗させると、ちょうど死体の臭いと同じになることがわかったとかいう話など。10時半、お開き。われわれ夫妻はタクシーで帰ったが、彼らはまだどこかへ流れそうな感じであった。

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